ママ社長、苦労は経営の糧…妊娠・育児の経験役立つ

社員らと商品について話し合う山田さん(中央)。「育児は大変ですが、働く力になる。3人目は女の子が欲しい」(東京都内で)=三輪洋子撮影
社員らと商品について話し合う山田さん(中央)。「育児は大変ですが、働く力になる。3人目は女の子が欲しい」(東京都内で)=三輪洋子撮影


読売新聞
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女性の活躍推進を背景に、女性社長が増加傾向だ。ただ、経営者には産休や育休がなく、30~40歳代では社長業との両立に悩む人が多い。
 その半面、出産や育児の体験を新ビジネスにつなげるママ社長も目立つ。
 ■肌に優しい下着
 化粧品の開発などを手がける「シルキースタイル」(東京)社長の山田奈央子さん(37)は、大手下着メーカーを経て26歳で起業した。2人の男の子の母でもある。
 34歳で長男(2)を妊娠。「社員を路頭に迷わせられない」と、妊娠中に1年分の売り上げにあたる営業契約を取ろうと決めた。取引先に気を使わせないようおなかをかばんで隠して商談に臨み、動けなくなると取引相手に自宅近くに来てもらうなどして目標を達成した。
 当時の苦労は、出産後にも生きた。妊娠中、敏感になった肌が衣類にこすれてかぶれ、受診しても改善せず悩んだが、シルクの下着に替えると、次第に収まったという。
 「肌トラブルに悩む妊婦は多い。出産したら、シルク100%の下着を作ろう」と考えた。復帰後、洗濯が可能で手頃な価格のシルク製下着を開発。専門店や通販などで人気商品となっている。
 出産を機に、仕事を人に任せられるようにもなったという。「社員も成長したし、出産する社員も続いた」と喜ぶ。
 「白金こどものはいしゃさん」(東京)の院長で歯科医の園延そのべ妙子さん(39)も、息子が2人いる。長男(5)を産む前は週5日診療に出ていたが、妊娠を機に代診の歯科医を雇い、自身は採用や社員教育など、経営面に重点を置く。
 母親の受診中は子どもを院内で預かって保育したり、母親向けセミナーを開いたりと、育児経験を生かした活動にも力を入れる。「出産を通じ、母親の悩みやニーズがより分かるようになりました」
 ■出産しやすい立場
 帝国データバンクによると、国内約145万社のうち、2014年の女性社長の割合は7・5%で、24年連続で増加している。ただ、世代別では40歳代が4・9%で最も少なく、30歳代の5・7%が続く。出産、育児期の社長業との両立は簡単ではないようだ。
 だが、ベビーシッター事業を展開する「カラーズ」(東京)社長の経沢つねざわ香保子さん(42)は、2度起業し3度出産した経験から、「経営者は出産しやすい立場。業績を上げていれば従業員に迷惑をかけない」と話す。
 むしろ、出産後が大変だ。夜泣きや授乳で睡眠時間が削られたり、急な発熱で保育園から呼び出されたりと、仕事に集中できないことも多い。
 経沢さんの場合、保育園で預かってもらえない時間帯に仕事が入った時などはベビーシッターに頼らざるを得なかったが、必要な時にすぐ来てもらえないなど、使い勝手に不満を感じた。そこから今の会社の設立につなげた。
 「育児は思い通りにならないが、いい経験になった。視野が広がり、新たなビジネスも生み出せた。母親と経営者は人を育てる点などが似ている。希望者はぜひ経験してほしい」とエールを送る。

社会保障制度、多くは対象外

 女性経営者は、出産や育児に関する社会保障制度の多くが対象外だ。
 社会保険労務士の井戸美枝さんによると、経営者は労働基準法に定められた産前産後休業や、育児介護休業法による育児休業が適用されない。これらは使用者側ではなく労働者のための制度だからだ。
 経営者は雇用保険や労災保険にも加入できず、育児を理由に休みを取っても、雇用保険から出る育児休業給付金はもらえない。「健康保険に入っていれば出産手当金や出産育児一時金は受け取れるが、出産後の経済的なサポートは何もない」と井戸さん。
 女性の活躍推進が叫ばれる中、「雇用保険の任意加入を認めるなど女性経営者が安心して出産、育児できるような仕組み作りが必要だ」と話す。(板東玲子)
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