子供の主体性を育む米大手IT企業保育所のすごさ

シリコンバレーの大手IT企業の社内保育所では子供の主体性を育む保育が盛んに行われている(画像はイメージです)

毎日新聞
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スタンフォード大学編(1)

 米国IT企業の一大拠点と言われるシリコンバレー。実在の地名ではありませんが、西海岸に面するカリフォルニア州サンフランシスコのベイエリア南部一帯を指し、その中心には世界的に有名なスタンフォード大学があります。実はこの一帯には、最先端の乳幼児教育を実践する保育園が多く存在します。また、スタンフォード大学心理学部では、子供のやる気に関する研究の世界的権威であるキャロル・ドゥエック教授を中心に、盛んな研究が行われています。
 私が取締役を務めるポピンズ(本社・東京都渋谷区)は毎年、ポピンズのナニー(子供のお世話をする育児や教育の専門家)と外部から募った保育士が合同で英米の乳幼児教育機関などへの短期研修を行っています。
 昨年12月から今年1月にかけて4回掲載した「ハーバード大学編」に続き、今回は昨年11月1日から8日まで、20人の参加者がスタンフォード大学内外の保育所を視察し、ドゥエック教授から講義を受けた様子をお伝えします。

スタンフォード大学構内
スタンフォード大学構内

IT企業の社内保育所は子供の発想を最優先

 まず、シリコンバレーの代名詞といっても過言ではない大手IT企業の社内保育所を紹介しましょう。スタンフォード大学の卒業生が起業した同社は、同大にほど近い場所にあり、社内には四つの保育所があります。その中でも最も規模が大きく、約200人の子供が通う保育所を視察しました。ポピンズで特別に視察の許可を得ている施設で、本稿で写真を掲載できないのが残念です。

シリコンバレーの街並み
シリコンバレーの街並み

 0〜5歳児を預かるこの保育所の特徴は、保護者にも積極的に保育所の活動に参加を促すこと、そして、イノベーション(発想)を重視していることです。「イノベーションを重視する」というのが、IT業界でめざましい実績を上げ続ける同社らしい保育・教育方針と言えるかもしれません。
 実際、保育所のスタッフは、本社採用の社員と同じ基準の厳しい選考を受けた大学院卒の人材が中心です。社員の子供たちを預かる教育者に求められるレベルは高く、年齢ごとに子供が取り組むカリキュラム開発担当者がいるなど、ぜいたくな環境でした。最新の教育理論に基づいたプログラムを開発・実践して、常によりよい内容を模索し実践しているそうです。

子供との会話から取り組むことを決める


サンフランシスコの日の出と高層ビル
サンフランシスコの日の出と高層ビル

 私たちが訪れたときに行われていたのは、4歳児のクラスで、ある子供が保育園の窓から見えた高いタワーに興味を持ったことがきっかけの取り組みでした。保育士との会話の中で、みんなでタワーを見学に行こう、タワーを絵に描いてみよう、と建物について深く調べていく形へと発展していったそうです。
 さらに、「高いタワーはどのように設計するのだろうか」という疑問から、ある保護者の知り合いである建築士を招いて話を聞く取り組みも行いました。そして、最終的に段ボールなどで子供たちが自らの背丈ほどのタワーを作ってみたそうです。子供たちが保育士とともに主体的に発想を広げて、実際に行動し学ぶ姿や、保護者も積極的に保育所の活動に参加する様子がうかがえました。

「子供の最初の先生は家族」という考え方

 ただ、保護者の保育への参加はこうしたことにとどまりません。この保育所には、保護者が「1日先生」を務める制度があるのです。これは、「子供の最初の先生は家族」という考えが根本にあります。


 週に数回、数人の保護者が保育所を訪れ、得意な分野に関して子供たちに話したり、庭で一緒に遊んだりするのだそうです。前回の「ハーバード大学編」でもお伝えしましたが、米国では、保護者と保育園(保育士)が連携して子供を育てようとする意識が強くあります。スタンフォード大学近辺の保育園でも、それは共通していました。

できることは何でもやらせる

 子供たちがさまざまなことに主体的に取り組むことへの工夫もあります。驚いたのは、ランチタイムでした。この保育所ではみんなで給食を食べるのですが、2歳児が自分で食べる分の皿への盛りつけから食事、片付けまでを基本的に一人でやっていたことです。子供たちを「子供扱い」しない、子供の持つ可能性を否定しないという方針が感じられます。


 また、給食で使う食器も常に子供の手の届くところに置いてありました。危険はないのかと心配になりましたが、それを先方の保育士に問うと、「できることは何でもやらせるし、食器がおもちゃでないことは何度も伝えているので、子供たちはそれを理解していたずらに使うことはない」との返答でした。これらは一例ですが、子供たちの主体性を尊重する教育方針は、今回視察したすべての保育園で共通していました。
 他にも、絵の具などの画材がプロ仕様の道具であったり、サッカーグラウンド半面ほどの広々とした園庭であったりと、目を見張る充実した設備が随所にありました。こうした環境を生かして、子供たちは自ら見つけたテーマにとことん取り組むよう促されていました。
 次回は、IQ(知能指数)126以上の子供たちが通う特殊な学校「ヌエバスクール」の視察の模様をご紹介します。
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 世界各国の乳幼児たちはいったいどのように育てられているのでしょうか。日本で初めてナニーの育成と派遣を手がけた株式会社ポピンズは、毎年、英米を中心に現地の保育・教育最前線への研修留学を行っています。同社取締役の轟さんが各国の乳幼児の教育事情をリポートします。スタンフォード大学編は全4回です。
 <「世界の乳幼児教育、行ってみたらこうだった!」は不定期のシリーズです。次回は3月1日に掲載します>
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