フランスの幼稚園は、日本とはまったく違う



東洋経済Online
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フランスの公立幼稚園は保育費無料。初めて聞いたときは、耳を疑った。幼稚園にはお金を払って通うものと、思い込んでいたからだ。しかも、幼稚園から小学校へスムーズに移行できるようなカリキュラムが組まれている。小学校に入学したばかりの1年生が「授業中に座っていられない」などの問題を抱える、「小1プロブレム」が起こりにくい仕組みになっている。

3歳からはほぼ全員が幼稚園へ

フランスの子どもは、両親ともに働いている場合など、3歳までは保育園に通ったり、保育ママに預けられたりしている。しかし、3歳からはほぼ全員幼稚園に通う。義務教育は小学校からだが、公立幼稚園が公立小学校と同じくらいたくさんあるうえ、私立幼稚園もあるので、希望者はほとんど入園できるからだ。中には公立小学校に併設されている幼稚園もある。
私の子どもが通った公立幼稚園の保育時間は、月、火、木、金曜日の午前8時30分から午後4時30分まで。午後6時までの延長保育もあった。幼稚園のない水曜日や長期休暇の期間には、「サントル・ド・ロワジール」という預かり保育もあった。朝、子どもの大半は、母親か父親に連れられて登園する。働く母親が多いので、帰りのお迎えの顔ぶれは多彩だ。ベビーシッターやきょうだい、祖父母らしき人もいる。
その公立幼稚園は、年少、年中、年長組に分かれていた。年少組は昼寝の時間があり、小さなベッドが並んだ部屋で、子どもたちは眠る。日本の保育園では、子どもが昼寝に使う布団を持ち帰って干したり、交換のためのシーツを持参したりしたが、フランスの幼稚園では、そのような「親の仕事」はなかった。
給食は、前菜、メイン、デザートの食事をカフェテリアでとる。前菜はサラダなど野菜料理が多かった。メインは、金曜日は魚料理と決まっていたが、その他の日は、鶏、豚、子羊、七面鳥などさまざまな肉料理だった。デザートはお菓子や果物で、チーズもあった。教師とは別のスタッフが子どもの給食の世話をするので、教師はしっかり昼休みがとれる。
公立幼稚園では、色つきのサインペンや絵の具、ノートなどが幼稚園に用意されていた。制服も指定の体操着もない。公立小学校と同様に、給食代は所得に応じた金額を支払う。また、コオペラティヴという任意の援助金を年数回、支払った。
日本の幼稚園は、遊び中心の風潮が強いが、フランスの幼稚園は「教育機関」という趣が強い。年中組からは通知表をもらうし、落第もある。教師も、優しいというより厳しい。
幼稚園の新年度が始まる9月、初日の年少組の教室では、ほとんどの子どもが泣き叫んでいた。これまで家庭で育てられていて、この日初めて集団生活に入るという子どもが泣く。これまで保育園に通っていた子どもも、今までと違う場所に連れてこられたことを察して泣く。担任教師と補助のスタッフが、抱っこしたりして一生懸命あやしていた。しかし、1週間もすると、登園時に泣く子どもはほとんどいなくなった。

年長組の間に培われる心構え

年少組とはいえ、火曜日はホールで体操、木曜日は園庭で三輪車に乗るなど、カリキュラムが決まっていた。日本の幼稚園同様、歌を歌ったり、絵を描いたり、工作したりもする。子どもたちが最初に取り組んだ作品は、「ハリネズミ」。茶色く塗った粘土に、折ったマッチ棒を刺して作る。クリスマスにはガラスの器を青と金色で塗ったろうそく立てを持ち帰った。ハリネズミといい、ろうそく立てといい、オブジェとして飾れたり、実用性があったりして、感心させられた。
4人のピエロの絵から同じ形をした絵を選ぶなど、知育ドリル的なものも取り入れられていた。遠足では、バスに乗って農園に出かけ、動物と触れ合ったり、羊の毛をブラッシングしたりした。
年中組になると、アルファベットのブロック体を習う。学期ごとの通知表では、学習面、生活面などで評価される。「お手本どおりに単語を書ける」という項目などがあり、「できる」「助けがあれば、できる」「できない」の3段階で評価される。
年長組は、かなり小学校に似た雰囲気になってくる。日本の幼稚園では、教師が子どもと一緒に遊んでくれたりするが、フランスでは、教師は「教える」ことに集中している。休み時間と授業時間がはっきり分かれ、自由に遊ぶのは、休み時間だけ。授業中は課題に取り組む。
年長組では、アルファベットの筆記体を習う。単語が一つずつ書かれたカードを並べかえ、文章を作る練習をしたりもする。通知表の項目には、「決まりを守れる」とか、「集中して人の話を聞くことができる」などが記載されていた。「自分の席に座っていられる」という項目もある。年長組の間に、子どもたちは小学校へ入学する心構えができていく。
幼稚園でしっかり小学校への準備教育をしてくれるとなれば、親は安心だ。両親とも働いていることが前提なので、保護者会は平日の夕方から開かれる。日本の幼稚園と比べると格段に少ないが、行事もある。行事が少ないから幼稚園からのお便りも少なく、辞書を引いて解読しなくてはならない外国人の親にはありがたかった。行事での親の負担は少なく、親が参加する行事はすべて土曜日に開かれていた。
たとえば、3月の土曜日にあった仮装行列では、子どもたちはワニやライオンに扮して、太鼓に先導されて幼稚園の周囲を練り歩いた。材料はすべて幼稚園で用意され、子どもたちが紙や布に絵を描いて自分のお面や衣装を手作りした。
親の関与は、当日の仮装の支度を手伝ったり、行列の付き添いをしたりするためのボランティアだけだった。

親の手間がかかるのは誕生日会ぐらい

唯一、日本に比べて手間がかかると思ったのは、誕生日会。子どもの幼稚園では月ごとに、その月に生まれた子どもの誕生日会を開いてくれた。ケーキや飲み物は親が差し入れる。フランスの子どもが大好きな、ガトーショコラを手作りして持参する親が多いと聞いた。お菓子作りが不得手な私も、料理本を見ながらガトーショコラ作りを練習した。誕生日会当日には、どうにかケーキを届けることができた。
フランスの幼稚園には、ほぼ全員が通うことから、支援が必要な家庭を把握することが早い段階から可能になる。公立大学は授業料が無料なので、幼稚園から大学まで全部公立に通えば、教育費の負担は少ない。日本でも、子どもは社会で面倒をみるという考え方にかえ、もっと安心して子育てできる環境を整えられないだろうか。
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