「産後ケア」育児不安を軽減…助産院に宿泊、授乳など学ぶ


読売新聞
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出産後の女性が助産院などで体と心を休めながら、授乳や寝かしつけなど、慣れない育児の悩みを専門家に相談できる「産後ケア」の取り組みが広がっている。
 背景には、出産年齢の高齢化で体調回復が遅れたり、核家族化で両親から子育て支援を十分に受けられなかったりする現実がある。
 「子どもは私の母乳をちゃんと飲めているんでしょうか」。1月下旬、横浜市のみやした助産院で、生後3か月の長女を抱えた市内の女性(32)が不安げに聞いた。「そのままで大丈夫」。助産師が優しく答えると、少し安心した表情になった。
 女性は初めての出産。夫は仕事で忙しく、実家や義理の親にも頼れないため、一人で慣れない育児に奮闘していた。市の助産師が家庭訪問した際、「子どもの体重の増え方が足りない」と指摘され、誰にも相談できずに悩んでいたという。
 市の紹介で、同助産院に長女と一緒に2泊し、スタッフからアドバイスを受けながら、授乳時の楽な姿勢や、おっぱいの吸わせ方などを練習。女性は「悩みを受け止めてもらい、少し自信がついた。助産師さんが子どもをみていてくれるので、一人でゆっくり食事もできた」と笑顔を見せた。
 宮下美代子院長は「母になる過程でとまどうことが出てくるのは当然。助産院では育てる自信をつけてもらえるように気持ちをサポートしたい」と話す。
 同助産院は2006年、母子が宿泊しながら出産直後の育児相談などに乗ってもらう「産後ケア」を始めた。利用料は1泊2日で6万円。13年秋からは市の補助事業となり、市が「育児不安が強く、家族から支援を受けられない」と判断した産後5か月未満の女性は、1割の自己負担(1泊2日6000円)で利用できる。現在、市内の助産院10か所で行われ、15年11月までに日帰りを含め、計387人が利用した。
 国も高齢出産が増える中、「産後の大変な時期を支援することは2人目、3人目の出産につながる」とし、14年度から補助事業に位置づける。厚生労働省母子保健課によると、15年度は全国80市町村で行われ、16年度は倍の160市町村が取り組む見込みだ。
 一般社団法人「産前産後ケア推進協会」(東京)によると、女性は妊娠・出産でホルモンバランスが激変し、心身が不安定になりやすい。産後は安静が第一で、里帰り出産は手段の一つだが、実家の両親が仕事や介護に追われ、頼れないケースも最近は多い。産科の減少で、出産時の入院期間も短くなっているという。
 同協会の代表理事で、文京学院大の市川香織准教授(母性看護学)は「産後ケアの充実に加え、母親だけが育児をする現状も変えるべきだ。産後しばらくは夫が早く帰り育児に協力できるよう、社会が環境を整えることも必要」と指摘する。

自宅での支援も

 産後の女性を自宅で支援する取り組みも広がる。
 一般社団法人「ドゥーラ協会」(東京)もその一つ。ドゥーラの語源はギリシャ語で、協会は「産後の子育てが軌道に乗るまで、生活を支援する専門家」と説明する。協会では実習などを計約2週間受け、面談を含めた試験に合格した女性を認定。首都圏を中心に約180人が活動している。
 利用者の依頼は料理や洗濯、きょうだいの世話が多いという。協会のホームページでは各ドゥーラの略歴や料金、活動エリアなどを確認できる。東京都中野区は昨秋、生後半年以下の乳児がいる家庭に1時間1000円でドゥーラを利用できる事業を始めた。
 同協会の宗祥子代表理事は「妊娠中は産むことに集中し、産後をイメージできない。自分をいたわる大切さを知ってほしい」と話す。
 (板垣茂良)
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