「専門性もっと評価を」 定年迎える男性保育士・青山さん

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東京新聞
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名古屋市の私立認可保育所などで四十年以上働いてきた男性保育士がこの春、六十歳の定年を迎える。賃金の低さのため仕事を見限り、二十代で「寿退職」していく男性が多い保育業界で、定年まで勤め上げるのは珍しい。保育士の待遇改善が国会で議論され、あらためて保育士の専門性に注目が集まる中、保育にかけた思いを聞いた。 (稲熊美樹)
 「ほら見て。何ができるかな?」。名古屋市瑞穂区のこすもす保育園。ゼロ歳児の子どもたち九人が、担任保育士の青山均さん(60)のはさみの動きにじっと見入った。紙を広げてちょうちょが現れると、子どもたちは「わあっ」と歓声。子どもや保護者から「あおちゃん」と慕われる青山さんは、あす定年を迎える。
 青山さんが保育園で働き始めたのは、日本福祉大社会福祉学部の夜間課程に入学した一九七四年のこと。保護者が運営する共同保育所に勤めていた同級生の女性から、「私が産休の間、アルバイトしない?」と誘われたのがきっかけ。
 当時、国家資格の保母(保育士)資格を取れるのは女性だけだったが、共同保育所には男性の先輩もいて、「それほど気負いはなかった」。翌年からは、こすもす保育園の前身の共同保育所で正規職員として働き始めた。
 七七年に男性にも保育士が開放された後に、資格を取得。最終年度の二〇一五年度は、若手の女性保育士らとともにゼロ歳児を受け持つ。「原点に返ったような気持ちで保育してきた」という。
 二十三歳で妻(60)と結婚。名古屋市には、公立の公務員保育士と、私立保育所保育士間の賃金格差を是正するための補助金があるが、それでも「一人だけの給料では家族を養えない」と共働きを貫き、一男一女を育てた。
 二十代後半、「五十歳をすぎてもこの仕事を続けていっていいのか」と転職が頭をよぎった。子どもたちの笑顔がそれを押しとどめた。「何かできたときのさわやかな表情を見ると、感動するんですよ。子どもたち、保護者、そして同僚が自分を育ててくれた」
 減らない待機児童と保育士不足が社会問題化している中での定年。保育士が足りない背景には、保育士の専門性が認められていないことがあると、青山さんはみる。「子どもたち一人一人と信頼関係を築いていいところを見つけ、多面的な姿を理解していくのが保育士。専門性をもっと評価してほしい」と訴える。
 核家族化のため、母子が二十四時間三百六十五日ずっと密着して「孤育て」することに危機感も。「専業主婦のお母さんだって大変だ」。子育て世帯への支援を増やす必要性を感じるという。
 この四十年間に、子どもの本質は変わっていないと思う。ただ、今の子どもたちはたくさんの物や刺激に囲まれているものの、「自分がしたいことを見つけ、それをじっくりやる経験が必要」だと感じる。
 四月以降は、同じ法人で障害児の親から相談を受ける嘱託職員となる。「保育の世界に入るなら、保育の楽しさを同僚と分かち合ってほしい」と後輩たちにエールを送る。
 <男性保育士> 国勢調査(2010年)によると、全国の保育士は約48万人で、このうち男性は2・5%にすぎない。全国福祉保育労働組合は「意欲を持って保育士になった男性も、賃金が低く、昇給も少ないことなどが原因でやめてしまう人が多い」と説明する。
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