【参加受付中】4/16に福岡でホームセンター貸切イベントを開催します!詳細はこちらから TECH PARKインタビュー 働くママの「私が欲しい場所」から始まったテクノロジー学童保育+ファブラボ「TECH PARK」

TECH PARKのスタッフ


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福岡に本社を置くITベンチャー「グルーヴノーツ」が2016年4月にオープンさせた「TECH PARK」 は世界でも珍しい学童保育とファブラボが一体になった施設だ。技術教育に重きを置いた学童保育サービス「TECH PARK KIDS」では、ScratchやMinecraftを使ったプログラミング学習やロボット制作に3Dプリンタを使ったものづくりを学べる。年間スケジュールの中には開発合宿やハッカソンなどエンジニアにはおなじみのカリキュラムも用意している。

大人向けのものづくり支援がコンセプトの「TECH PARK MAKERS/ファブラボ天神」は、デジタル工作機械を気軽に利用できるファブ施設としての機能に加え、ハードウェアベンチャーとして起業を目指す人に対し、量産に向けたサポートを行う会員制工房だ。

働くお父さん、お母さんの環境は10年経っても変わっていない

「二人の子どもを育てながら働いてきて、子どもを預ける環境は十数年の間、何も変わりませんでした。どうせ高い保育料を払うなら、いつも同じ園庭で走らせるよりも英語を教えてほしいと思って、下の子どもの時はプリスクール(編集部注:英語で保育を行う施設)に預けました。結局のところ、自分のニーズと行政のサービスがあっていなかったんだと思います」
TECH PARKのスタッフTECH PARKのスタッフ
グルーヴノーツの会長でTECH PARK KIDSを企画した佐々木久美子さんは、自身の経験から自分が求めるサービスは自分で作るしかないという決意のもと、プロジェクトを立ち上げたと語る。
「私の周りにも会社経営や独立して働きながら育児をしている女性がたくさんいますが、預かってくれるところが無くて、ママ同士で融通し合ってベビーシッターに来てもらったり友達に預かってもらったりして、かなり苦労しているのを見ていました。税金を払っているのに母親同士の努力で解決しなければいけないという状況を外に訴えるのではなく、私がそうした場所を作ればいいかなと思ったのが原点です」
そういった思いを佐々木さんは、福岡市内の経営者が集まる場やエンジニア同士のコミュニティ、地元企業の関係者が集うイベントなどで都度話してきた。
4月にオープンするTECH PARK KIDS。40坪の専用スペースにシャワー室や静養室も完備し、タクシー会社とも提携して学校や自宅への送迎にも対応する。4月にオープンするTECH PARK KIDS。40坪の専用スペースにシャワー室や静養室も完備し、タクシー会社とも提携して学校や自宅への送迎にも対応する。
TECH PARKのディレクターである赤星良輔さんは入社前から佐々木さんの構想を聞いていた一人だ。
「別の会社にいた2014年ごろにIT教育関連のイベントで一緒にディスカッションしたことがあって、その頃からTECH PARKの構想を話していたのを記憶しています。NPOで運営する形式を提案したら、事業化しないとだめだという話になって」(赤星さん)
ITベンチャーとして投資を受けている状況で、非営利事業は投資家や社内から理解を得るのは難しい。佐々木さんはあくまでも持続性のある事業としての形にこだわった。さまざまな場所で自身の構想を話し続け、周囲からのアドバイスや紹介を受けながら、実現させる形を模索していた。
佐々木さんの声は地元の鉄道会社にも届いていた。
天神エリアにある福岡中央児童会館を民間のテナントが入居できる複合施設に建て替える際に、ビルオーナーの西鉄グループの担当者が佐々木さんに声をかけたことで、構想は加速度的に現実味を帯びる。交通のアクセスも良い立地で、またとない機会だった。佐々木さんはさっそく事業化に向けて準備をはじめる。周囲からの協力もあり、短期間のうちに事業化までこぎつけた。

子ども自身が学ぶことで成長する

Minecraftを使ったプログラミング教室の様子Minecraftを使ったプログラミング教室の様子
TECH PARK KIDSはグルーヴノーツのエンジニアを中心に運営する。カリキュラムも自社で開発している。
「どうせ預かるなら徹底したいと思っていて、ありものの教材を触らせるのではなく、私たちが本気で取り組む形にしたかった」(佐々木さん)
「教えるのではなく学ぶ要素を重視しています。Scratchの体験会で、最初は2時間かけて先生がレクチャーするセミナー形式をとっていましたが、ある時にやり方を変えて、その日にやることをテキストに全て落とし込んだものを渡して、自由に進めるという形にしてみたら、40分で全員終わってしまったんです。中にはPCを触ったことがない子もいましたが、同じプログラムをもう一度書き始めたり、アレンジを加えてたりしているのを見て衝撃を受けました」(赤星さん)
子どもだから手取り足取り教えないといけないという発想は、子どもの可能性を制限するだけだと気付いたメンバーは、子どもの自主性を尊重する形にシフトした。遊びながら自分で学び、必要に応じて大人がサポートするというコンセプトは、社員が子どもと接して見出したものだった。
「この事業を社内に最初に話した時、思っていた以上に社員が前のめりで、カリキュラムを社員で作ろうとか、子どもが苦手なエンジニアも『どうせやるならスーパーエンジニアに育てる』とか、思っていなかった効果が社内にありました。社員の家族からも通わせたいという声をもらいました」(佐々木さん)

ホビーから起業までカバーするTECH PARK MAKERS/ファブラボ天神
TECH PARK MAKERS/ファブラボ天神の室内。さまざまな工作機械が用意されている。TECH PARK MAKERS/ファブラボ天神の室内。さまざまな工作機械が用意されている。
TECH PARK KIDSと併せて大人向けにオープンするTECH PARK MAKERSは、ファブラボとのダブルネームでオープンする。企画したのはTECH PARK KIDSのスタッフとして採用された鈴谷瑞樹さんだ。鈴谷さんは2012年に博多市内で「博多図工室」というファブ施設を立ち上げ、一人で切り盛りしていた。立ち上げたとき西日本にはファブ施設が全く無く、自身もソフトウェアエンジニアとして働いていた鈴谷さんは、ソフトウェア開発のようにハードウェアを製造できる環境を作りたいと思っていた。
「オープンソースのライブラリや書籍など、公知の事実であるものを活用しながらプロトタイプを作り、ブラッシュアップを重ねていくような作り方がハードウェアではまだ実現できないと知り、自分と同じようなエンジニアが困らないよう、そういった社会を作りたいと思って博多図工室を作りました」(鈴谷さん)
オープンするとエンジニアだけでなく、地元企業からの相談が数多く集まるようになった。
「元請けから仕事を減らされたときに、従業員を食わせていくために新製品を作っていかなきゃいけない。けど製品開発なんてやったことがないから手伝ってくれませんか、とかうちには機材もノウハウも無いので助けてほしいといった相談がものすごく多かったんです」(鈴谷さん)
そうした依頼を別の地場企業とつないでコーディネートする事業を続けていくうちに、個人での活動に限界を感じはじめた。
自身でファブ施設を運営した後にグルーヴノーツに入社した鈴谷瑞樹さん自身でファブ施設を運営した後にグルーヴノーツに入社した鈴谷瑞樹さん
「僕一人でいろいろなプロジェクトをお手伝いしていくうちに、『レーザー加工だけが必要』とか『製造の、ある特定の段階だけが必要』といった、1人でカバーできるような相談にしか応える事ができなくなっていました。ソフトしか作ってこなかったけど、ハードウェアの量産に挑戦したいという人を、根気強く、時間をかけてサポートすることができなくなっていたことに気付いたんです」(鈴谷さん)
鈴谷さんは2015年に博多図工室をいったん休止。程なくして佐々木さんから、グルーヴノーツの社員になってTECH PARK KIDSを手伝ってほしいという相談が来る。その時、鈴谷さんは一人ではなく、組織でものづくりが支援できないかと提案した。
「話を進めていくうちに、もう一人の代表の最首(代表取締役社長の最首英裕さん)から、ファブ施設が併設されている学童保育なんて世界中に無いし面白い、という話を頂いたのがきっかけで今の形が実現できました」(鈴谷さん)
個人のネットワークでは無く、組織の力とネットワークでハードウェアベンチャーを支援したい、そう考えた際に鈴谷さんがこだわったのはファブラボ・ネットワークへの参加だった。
「日本のファブラボの方たちも、ファブラボを持続可能なモデルにするためにビジネスともつなげていかなくてはいけないという思いを持っています。博多図工室のコンセプトをTECH PARKに持ち込み、ファブラボのネットワークをハブにして、さまざまな企業やファブラボがつながるようになれば、日本の中で新しい形のファブラボが作れるかもしれないと思いました。そのコンセプトをいろんな方に相談していくうちに、博多図工室でお世話になった金型屋さんや基板屋さん、『試験・評価だったらうちに任せてよ』って言ってくれる会社さんが集まってくれて、ものづくりをする人たちが主役になって起業していく文化を福岡に根付かせることができると思いました。ファブラボ天神という名前にはそういった想いが込められています」(鈴谷さん)

楽しみながら学び、ものづくりの沼にはまってほしい

「ハードウェアベンチャーの人たちは、作りたいものはある程度見えていて、製品化していく過程が楽しくて仕方がないと思います。それとは別に、何を作ったら楽しくなるか分からない人たちもいて、そういう人たちが身の回りのものをカスタマイズしたり、簡単な工作を始めたりするところから楽しさに気づいて、ものづくりの沼にはまってほしいと思っています(笑)。実際に僕も周りの人たちから教えてもらって、加速度的にものづくりの楽しさにはまっていった過去があって、そういう体験を天神に来る若い人たちにも体験してほしいし、設備が無いから作れないとあきらめていた人にこそ来てほしいです」(鈴谷さん)
「福岡は製造業が発達しているので、ものづくりのプロに入ってもらいながらプロフェッショナルになるための試行錯誤ができる環境を作っていきたいですね。ものづくりは1回作って終わりではなく、改良を繰り返すことで世の中に普及させていくことが重要なので、そういったサイクルを体験することで子どもだけでなく大人にも成長の機会が生まれると思います」(佐々木さん)

やりたいことを言い続けることが重要

オープン前のイベントとして開催された、登園バッグ制作ワークショップオープン前のイベントとして開催された、登園バッグ制作ワークショップ
佐々木さんが掲げたTECH PARKというコンセプトに、さまざまな人達が集まり、1年足らずでオープンにこぎつけることができたが、それは戦略的に動いた結果ではなく、日頃の地道な活動が実を結んだ結果だという。
「佐々木も最首も人を集めて作ることに長けていて、同時に自分だけでは作れないことをよく分かっているんですよ。常にアンテナを張っていて、やりたいことを周囲の仲のいい人や社員にまず話す。するといろんなコミュニティに顔を出している社員が、それに合致する人と偶然知り合って紹介するという流れが多いですね」(鈴谷さん)
「私はIT業界でプロジェクトマネージャーをしていた時期が長かったので、やりたいことがあったときに、必要なコストとリソースを割り出して自然とプロジェクトにしちゃうんですね。それに対して、うちのスタッフはいったことを形にしてくれるし、思っていることにして返してくれるので完全に信頼していて、私が荒地を突き進んだ後を整えてくれるような関係ができていると思います(笑)。TECH PARKの構想も、今の形になるまでに右往左往しましたが、コンセプトを変えずに形にできたのは周りがあってこそだと思います」(佐々木さん)
オープン前の事前説明会や見学会には多くの大人と子どもが参加したという。グルーヴノーツの「やりたい」が詰まったTECH PARKは、教育とものづくりを掛け合わせた新しいスペースとして新たなスタートを切る。
(施設内の写真提供:グルーヴノーツ)
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