2016参院選/2 保育 笑顔で働き続けたい 受け皿拡大だけでは不足 /兵庫

ベビーカーに乗る赤ちゃんとままのイラスト(カラー)


毎日新聞
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 翌月の勤務表を見て、神戸市の会社員、田中美穂さん(仮名、30)は顔を曇らせた。保育所が閉まる日曜祝日も仕事が入っている。「会社は私を追い出したいのかな」。次男の育児休業から4月に復職したばかり。生後6カ月だった昨春は保育所の空きがなく、会社が規定する育休を延長。職場に戻ると、平日勤務のみのはずの「配慮」はなくなっていた。1年前に働ければ−−。夕暮れ時、2人の子どもと家路を急ぐ足取りは重い。
     国家資格を生かして働いていたが、今は育児による急な休みを敬遠され時短勤務で資格と無関係の接客や掃除をする。田中さんは「社会とつながっていたい。子どもの前で笑顔でいるために働き続けたい」。長男の時も認可保育所に空きがなく、半年待たされた。
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     保育の定員増加をしのぐ勢いで利用申込者が増えている。加古川市は昨年度の待機児童が252人(前年度比206人増)で県内最多。増加者数で全国3位だった。整備の進む駅周辺や人気の小学校区に希望が偏り、子育てのしやすさを掲げてきた同市は「最も保育所に入りにくい街」になってしまった。
     「どこなら空きがあるのか」。市の担当者に激しい口調で迫る保護者も珍しくない。汚名返上に向け、認可の私立保育所3園と地域型保育事業所1園を新たに設け、既存園の認可を進めた結果、待機児童を140人に減らした。5月からは保育士の子どもを優先入所させ、保育人材の増員を目指す。しかし、従来就労を諦めていた潜在需要も掘り起こされ、待機児童ゼロの実現は容易ではない。
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     親の就労に関係なく預けられ、待機児童解消に期待がかかる幼保連携型認定こども園に昨年4月に移行した神戸市内の園は、独自に保育士の給与を月平均6000円増やした。労働負担も軽くしようと保育補助を時給1300円で募ったところ、必要な人数の半分しか採用できなかった。近く2人が産休に入るので、今年度の0歳児の受け入れは3減。40代の園長は「仕事の喜びを伝えて仲間になってもらい、現場の負担を軽減したい」と、教育実習生に厳しくし過ぎないよう気を配る。
     運営面でも新たな課題を抱えた。認定区分ごとに決められた保育時間いっぱい預ける人が増えたという。園長は「必要な人が質の高い保育を受けられるよう、買い物や夕飯の準備をしてから迎えに来るのはやめてとお願いしている」と明かす。
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     田中さんの子どもたちが通う保育所は延長保育が午後6時半までなのに対し、小学校に入ると学童保育が午後5時半までと短くなる。「小1の壁」と呼ばれ、働く母親の就業継続のネックになっている。「女性はどんなに意欲や能力があっても働きにくい。そんな社会でいいのでしょうか」。参院選でも政治課題に浮上した保育環境。受け皿の拡大だけでハードルが下がるとも思えず、将来像を描けずにいる。【松本杏】=つづく

    メモ

     保育所などに入れない待機児童は昨年4月1日現在、全国で2万3167人(前年度比1796人増)、県内は942人(同390人増)。親が育児休業中や、やむなく認可外保育所に通う児童を合わせた潜在的待機児童は、全国に少なくとも8万3000人、需要を含めると40万人以上とされる。解消に向け、政府は来年度末までに保育の受け皿を50万人分拡大。保育人材9万人が必要で、給与を来年度から2%相当(月約6000円)引き上げ、ベテラン保育士は最大月約4万円上げる方針。計1000億円の財源が必要だが、景気変動に左右されにくい恒久財源のめどは立っていない。
    〔神戸版〕
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