カブトムシで子供を笑顔に 大阪府警黒山署の警部補、施設へ贈り20年


産経ニュース
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「わぁ、カブトムシや!」

 羽曳野市学園前にある児童養護施設「羽曳野荘」。菓子缶を開けると、中には10匹ほどのカブトムシやクワガタムシ。集まってきた子供たちの目が輝く。

 持ってきたのは栗山博之さん(51)。府警黒山署の警部補だ。自宅で卵から育てたカブトムシを毎年、施設の子供たちにプレゼントし続けて、もう20年になる。「子供たちの笑顔を見たくてね。でも、続けることは、僕の生きがいでもあるんです」

 栗山さんは和歌山県出身。小学6年のときに母を、高校3年のときに父を病気で失った。3歳下の弟は児童養護施設に入り、自身も卒業まで1人で暮らした。同情されたくないと思いつつ寂しさを募らせる日々だった。

 20年ほど前、たまたま児童養護施設の職員と知り合ったときに、こう思った。「あのころの自分や弟と似た境遇の子供たちに何かできないかな」。思いついたのが、幼いころに好きだったカブトムシだった。

 実家近くの森で採取した雄と雌でペアを組ませ、多いときには年間約500匹、最近では約200匹のペースで繁殖させる。

 自宅や実家の倉庫は飼育ケースでいっぱい。餌代などで年間10万円はかかるという。

 プレゼントを始めたころは子供たちと会うのを避けていた。「昔のことを思い出すのが怖かったし、本当に喜んでもらえるのか自信もなかった…」。変わるきっかけは1通のはがき。「くりやまさんありがとう。またきてください」。子供の字で丁寧に書かれていた。目にした途端に、涙があふれた。「気持ちが伝わっていたんですね。一生の宝物です」

 他の養護施設や幼稚園にもカブトムシを配り続ける。「カブトムシを接点に、子供たちを見守り続けてくれる栗山さんの存在は本当にありがたい」。羽曳野荘の中條薫施設長(52)も感謝の言葉を口にする。

 カブトムシをつまみ上げ、興味津々に見つめる子供たち。その様子をうれしそうに眺める栗山さん。思い出したかのようにある少年に声を掛けた。「年賀状ありがとな」。「うん」。小さな笑顔が照れくさそうに、うなずいた。
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