「子供うるさい」「地価下がる」住民猛反対で保育園計画頓挫相次ぐ…待機児童解消は夢のまた夢


産経WEST様
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希望しても保育施設に入れない待機児童の解消が全国的な課題となる中、住民の反対で保育施設の開園が困難になるケースが各地で相次いでいる。高級住宅地で知られる兵庫県芦屋市でも、私立の認可保育園の設置を目指していた社会福祉法人がこの夏、地元住民の反対を受けて断念に追い込まれた。住民から「子供の声がうるさい」「送迎車が増えて危ない」などと大合唱がわき起こったという。保育園はいまや“迷惑施設”なのか。(佐藤祐介)
子供の声は騒音?
 「なぜこの場所なんや」「送り迎えの車で違法駐車が増え、事故の危険性も高まる」「地価が下がったらどうするのか」
 芦屋市内での保育園開園計画について、5月8日に地元で開かれた大阪市内の社会福祉法人による説明会。住民から反対の声が相次ぎ、中には「(開園しても)家の前は絶対に通さない」とかたくなな態度をみせる住民もいたという。
 法人によると、保育園の建物の窓を二重にすることや、車での送迎の禁止、車での送迎が多くなりがちな0歳児の受け入れは行わないといった対案を提示したものの、住民からは「開園ありきの説明会だ」と批判にさらされた。その後も住民説明会や戸別訪問で説得を続けたが理解が得られず開園を断念。7月末、開園計画の中止を市に伝えた。
 法人は今年3月まで、芦屋市内で保育士が小人数の子供を預かるグループ型家庭的保育事業(定員15人)を運営する実績があった。より多くの子供を受け入れられる認可保育園に移行し、来年4月の開園を目指していた。
当初、市内の別の場所で開園を計画したが、住民の反対で断念。その後、国道43号沿いの住宅街に約180平方メートルの土地を見つけて仮契約した。今年4月17日に地元自治会の集会に出席して開園計画の説明に臨んだところ、「おおむね好意的な反応だった」(法人担当者)という。
 ところが、開園計画の住民説明会では集まった住民から猛烈な反対にあった。一部住民によると、反対を表明した住民は高齢者が大半で、この説明会で初めて開園計画の中身を知った住民も多かった。事業者や市の“根回し”の不足が反発を招いたのでは、という声も聞かれた。
求められる行政の積極性
 住民説明会に参加していた80代女性は「保育園の必要性は理解できるが、少しでも静かな環境で暮らしたい」と話す。「静かに余生を過ごしたい」という気持ちから環境の変化を嫌がる心情を吐露した。
 「保育園開設の必要性は理解している」と話す男性(80)も「そもそも事業者のことを知らない。市がしっかりと『この事業者は大丈夫』と保証してくれないと問題があったときに不安だ。住民と事業者の間をつなぐのは市の仕事ではないのか」と語り、市への不満を口にした。
 市子育て推進課によると、市内の待機児童数は10月1日現在で233人。仮に今回の認可保育園が開園していれば56人が受け入れ可能だった。住民説明会には市職員が出席していたが、ほとんど法人の担当者が説明に当たっていた。
関西学院大教育学部の橋本真紀教授(地域子育て支援論)は「市や事業者は子育て世帯が地域経済を活性化させることなど、保育施設の開園でプラスの影響も粘り強く説明することで、地域住民の不安解消に努めるべきだった」とし、「住民と民間事業者の仲介を果たすのは行政の役割でもある」と指摘した。
各地で開園反対の動き
 保育施設の開設をめぐり、住民の反対で計画が中止に追い込まれるケースは芦屋市だけに限らない。
 東京都武蔵野市は9月、同市吉祥寺東町で来年4月の開園を目指していた認可保育園について、開設が見送られることを発表した。千葉県市川市でも同様に、保育園の開園計画が住民の反対にあって中止に追い込まれている。
 橋本教授によると、保育施設の開設をめぐる住民が不安視する問題は、子供の声がうるさい▽送迎車の増加で事故の危険性が高まる▽周辺住宅の資産価値が下がる-の3点が中心。芦屋市も全く同じだった。
 資産価値が実際に下がるかは不明だが、こうした声が上がる理由として、橋本教授は「地域社会の交流の希薄さ」を指摘する。
 少子高齢化の時代を迎え、待機児童問題や子育て環境の改善については高齢者も理解している。だが、核家族化が進み、地域社会で自分の子供以外の子供に関わることが少なくなり、「大人たちが近所の子供にどう接すればいいのか分からなくなっている」と分析。そんな状況で保育園が自分の町に来れば「日常生活がどう変化するのか不安に思うことになる」と話している。
静かすぎるこども園
 「子供の声がうるさい」などを理由に保育園が“迷惑施設”とみられるご時世だが、「静かすぎる認定こども園」として話題になっている施設がある。埼玉県松伏町の幼保連携型認定こども園「こどものもり」だ。0~5歳児約170人が通う。
 同園は保育士らが子供たちの遊戯の際、「どんな遊びをしたいの?」「~って楽しそうだね」と、大人による指示ではなく、子供たち自身が興味がわくような声かけを徹底。子供たちは自分で選んだ行動に夢中になり、自然と静かに過ごすという。この教育・保育方針が全国の保育施設事業者の注目を集め、視察が相次いでいる。
 園長の若盛正城さん(71)は「『子供は騒ぐもので、うるさいものだ』という先入観がそもそもの誤解」と言い切る。
 「保育園や幼稚園は子供にとっては小さな社会。一人の人間の意見として子供の声に耳を傾ければ、いたずらに大きな声を出すことなく、お互いにとって居心地のよい環境をつくることができる」
 ただ、子供が静かであれば、保育園開園に反対した住民が一転して賛成に回るとも限らない。地域社会との関係性も重要だ。
 若盛さんは「行政の協力がなければ、住民にとって聞き慣れない事業者が新規に保育園を立ち上げるのは難しい」とした上で、「住民たちに地域の次の世代を育てるという意識を粘り強く訴えないといけない。普段から地域社会とのつながりを深める努力が必要だ」と話している。(10月18日掲載)
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