保育所「祝福されない施設」 住民反対、説明「不十分」


朝日新聞様
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名古屋市北区の住宅街を走る細い道路。幅は4メートル足らずで、車が対向車とすれ違うのは難しい。来年4月、子どもたちはこの道路を使って、新設される保育所に通う。
 「全然祝福されない施設になっちゃいそうで、悲しくて仕方がない。幼稚園や保育所って楽しいところのはずなのに」。近くの女性は、そう話す。今回の建設には疑問を抱いている。
 10月下旬以降、保育所計画に反対する地域住民と事業者が話し合いを数回重ねてきた。今月10日にも説明会があった。保育所は約440平方メートルの敷地に3階建てを予定しており、定員は0~5歳の90人だ。
 「なぜこんな狭い場所に」「送迎の車が数珠つなぎに並んで住民の車が出せなくなる」「交通事故の危険が高まる」。反対住民は周辺道路が狭く、渋滞などの悪影響や、子どもの安全が守れるかを心配する。
 保育所を運営する社会福祉法人「幸生会」(名古屋市)は送迎用の駐車場の台数を計画の約2倍とし、住民の生活に影響が出そうな道は使わないよう保護者らに求めると説明した。それでも、「事前説明の不十分さ」で増幅した住民の不信感は根強い。
 幸生会は昨年10月、名古屋市の事業者公募に応じる前に隣接住民に開設を検討していることを伝えたという。だが、仕事などで留守だった家庭には説明できていなかった。事業者に決まった今年3月以降も、直接説明したのは一部の住民だけ。不信感と反発を募らせた住民が10月下旬、夏に始まった工事の一時中断を迫った。
 だが、工事は着々と進み、住民の男性は「もっと早くから話し合えていれば、(建設にも)納得感が持てたのに」と話す。
 名古屋市守山区でも11月上旬、事前説明が足りないとして、住民が保育所建設に反対した。
 相次ぐ抗議に市や事業者は対応を迫られている。市保育企画室の担当者によると「本来、保育所の建設に住民の同意は必要ない」。ただ、開園後のスムーズな運営のために住民への説明を努力義務として事業者に求めてきたという。市は事業者の公募要項で、保育所整備の概要を「応募前に」地域の役員や住民に「適切に説明し、理解を得るよう努めること」と定めている。「より丁寧に説明する努力が必要な時代になってきたのかもしれない」と同室の担当者。
 一方、ある事業者は「園の運営については責任を持って説明する。だが、土地選定や地域への説明は行政のほうが住民も納得するのでは」と漏らす。
■各地で建設断念
 「説明不十分」。保育所建設をめぐる住民の反対運動は各地で起きている。名古屋市中川区のほか、東京都調布市や神奈川県茅ケ崎市では保育所の建設を断念した。このため、説明の見直しを進める市町村もある。
 今春開園予定だった保育所計画が住民の反対で中止になった千葉県市川市。今年度の公募要項から、それまであいまいだった住民への説明時期を「申請前」と「決定後」と明記した。
 大阪府豊中市も住民の反対で開園を断念。「不在宅や登降園時の経路になる地域への対応が不十分だった」として、近隣だけでなく影響を受けそうな地域にも事業者が説明するよう要項を改めた。「防音対策」「安全な動線の確保」などの項目のチェックリストも作成。不在宅への対応も記録し、提出を求めている。
 一方で、奈良女子大の中山徹教授(都市計画学)は「苦情を防ぐ後ろ向きの対策ではなく、保育所が地域で果たせる役割を行政が市民を巻き込んで積極的に議論するべきだ」と提案する。「子育てが終わった世代も孫を預けられるかもしれないし、地域の集いが開けるかもしれない。安心して子どもが育てられる街はブランドにもなる」(浦島千佳)
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