県の待機児童大幅増、保育士不足が深刻化


佐賀新聞様
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佐賀県の計画では解消に向かうはずだった待機児童が、大幅に増えた。背景には年々深刻化する保育士不足がある。県などは資格を持つ人への復帰支援策を取っているものの、企業はじめさまざまな職種でも人手不足感が広がり、解決の糸口はつかめていない。
 「事務室を保育室に替え空間を整備した。でも保育士が確保できずに、一部の希望者は受け入れられなかった」。みやき町と吉野ケ里町で保育園を経営する男性は、無念さを吐露した。男性は、国が示した保育士の処遇改善策の予算措置が福岡県は年度当初だったのに対し、佐賀県はまだ対応できていないことを例に挙げ「福岡県への流出が起きている」とみる。
 佐賀新聞社の調査では複数の自治体担当者が「近年、0、1、2歳児のニーズが高まっている」と指摘した。例えば3歳児ではおおむね「20人に1人」に対し、0歳児は「3人に1人」-。低年齢児ほど、手厚い保育が必要になるため、これまでよりも多い保育士の確保が必要になっている。
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 県は2016年9月、保育施設に対し「あと何人の保育士が必要か」を尋ねる調査を初めて実施した。回答率7割で、足し合わせると、不足している人数は「184人」となった。
 県は13年10月から、有資格者の復職へ向け、県社協に県保育士・保育所支援センター事業を委託した。長年のブランクを不安に思う人が多いため、保育施設の見学をセッティングするなどしている。
 センターの支援を受け、16年10月、約2年ぶりに現場に復帰した女性(29)=城北保育園=は「育児との両立は大変だが、ありがたいことに同僚の手厚いサポートも得られて、充実している」と話す。7年の現場経験があるものの「経験があるからこそ、大変さも分かって…」と別の職種を検討したこともあったが、センター職員のきめ細かな支援が後押しした。
 復職につながるケースがある一方、県内の求人倍率は全体で1倍を超える“売り手市場”。センターに16年度、366人の求人が寄せられた。これに対し、採用に至った人数は8人にとどまる。働く場の選択肢が多くなっていることも「保育の現場に戻ってこない一因になっている」。担当者は悩ましさを語る。
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 佐賀県と東京都の保育施設で勤務した女性(36)は、現場を離れた今も「保育士はやりがいがある」と思う。だが、低い賃金と自宅への持ち帰り仕事の多さ、社会的立場の低さが「保育士が現場に戻らない、定着しにくい理由になっている」と感じる。
 正規職員での採用を請われたが断り、2カ所の保育施設でパート職員として働いた女性(25)は、保育士は子どもと関わるだけでなく、掃除などの環境整備、部屋の装飾など「とにかく何でも屋」と実感する。学芸会前などイベントの前は持ち帰り仕事も増え、職場のいらいらした雰囲気も感じ取った。「月収16万円以上で持ち帰り仕事なし、週休1日以上-がかなうなら…」。複雑な思いで保育士不足のニュースに触れる。
 
■養成校と現場連携を 佐賀女子短大・田口香津子教授
 保育士不足の背景や課題解決に向け必要な視点について、保育士を養成している佐賀女子短期大学の田口香津子教授(こども未来学科)に話を聞いた。
 専門性が高い職業にもかかわらず、仕事の質と量が社会的に認知されていない。待遇面も少しずつ改善されているとはいえ、途上にある。理想の保育を学んだばかりの新人が、例えば漢字の“教育”に力を入れる方針の保育園に就職し、現実のギャップに悩むケースも多い。
 本学では、保育士資格を取得した9割以上がいったんは保育施設に就職している。県内の就職率も高い。ただ即戦力を求める傾向は強くなっており、実習先、もしくは就職先で現実の厳しさに直面する。多くの職業の共通点だと思うが、今のベテランは「手取り足取り」教えてもらった世代ではなく、若い世代は丁寧な指導を必要とする。この違いを乗り越えるには養成校と現場の連携が必要だが追い付いておらず、現場で育てる仕組みという点で不十分な面があるかもしれない。
 保育士不足が慢性化する現状では、残っている人がギリギリで働いている状態。職場環境の厳しさから保育士が現場に戻ってこないという好ましくない循環を断ち切るには、雑務を引き受ける補助的な人員配置を可能にするなど、これまでとは違う視点での取り組みを考える時期に来ている。
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