保育園で働きたくない… 潜在保育士の本音

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BLOGOS様
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 保育園が増えない理由のひとつに保育士不足がある。保育士の資格を持つのに保育園で働いていない"潜在保育士"は全国で約76万人。この保育士が働いてくれることで待機児ゼロは近づくのだが、なぜ働かないのか? その本音を聞いた。

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■そんな仕事したくない
 全国の保育士の資格を持つ人(登録者)は、約119万人でそのうち保育士として働いている人は約43万人。資格があるのに64%の保育士が働いていないことになる。そのこともあるためか、保育士の有効求人倍数は全国で約2.18倍。東京ではさらに高く4.07倍だ。それだけ保育士が集まらない現実がある。

潜在保育士

 資格があるのになぜ働きたくないのだろうか?

「保育園で疲れて家に帰って、今度は自分の子どもの子育てでさらに疲れる。自分だけが疲れて、お金にもならない。そんな仕事をしたくないです…」

 そう話すのは、自身の子どもが保育園に入れなかった子育て中の保育士だった。

 子育てで疲れるのは良くわかる。それは家庭で解決できるようにも思うが、一番のネックになるのはお金、つまり、給料の問題という。

 確かに民間の保育士が他の職種に比べて低賃金であることは知られるようになった。

 その額は、全国平均で216万1,000円(平均年齢34.8歳)。

 給料

 実際に働いている保育士に職場の改善希望を東京都が調査をしたところ、圧倒的に高かったのが「給与・賞与等の改善」で59%だった。2位が「職員数の増員」で40.4%。3位が「事務・雑務の軽減」の34.9%となり、給料が安く仕事が忙しいこと明確に出ていた。

改善要求

 東京では、保育士の取り合いに近い状況で手当てなどが増えている状況だが、それでも、保育士に戻らないのか、との疑問も出てくる。

■保育士が結婚する条件
「保育士が結婚するとき、何を考えると思います? 旦那の年収ですよ。最低でも400万。600万円以上が希望かな。それだけないとやっていけない。だって、結婚して私が働き続けると税金が増えたりするから。仕事で疲れて、夫婦の収入がそんなに増えないのなら、仕事をしないで自分の子どもと一緒に暮らしたい。そう思うでしょう? だから旦那の年収で結婚するかどうか決めているの。誰も言わないけど、これが、保育士の本音」

 パートで働く人たちでよく言われるのは年収の103万円、あるいは130万円の壁だ。配偶者控除があり、夫が会社員で働いている場合、妻の年収が103万円までであれば所得税や住民税を払わなくては済む。103万円を超えるとこの税金を払うことになるが、130万円までであれば、夫の社会保険から妻が外れてしまい、健康保険料と年金保険料を払う必要になる線が引かれる年収だ。

 ALLABOUTマネー「主婦のパート「扶養範囲内がお得」は本当?」(執筆者:福一 由紀さん)によると、夫が会社員で年収500万円の場合、妻が年収140万円になると税金や保険料で29万3000円を払うことになり実質は110万7000円になると試算している。103万以下で働いたほうがお得なことが良くわかる。

 保育士の平均年収は先に書いたように216万1,000円だ。公営保育園の場合は公務員と同じ給与になり民間よりは高額になることや社会福祉法人、民間など保育園の運営形態でも額はかなり変わるので、この額が本当の平均かは実際のところ分からないが、年齢が若くこの額よりも低いとなるとパートで働く人の140万の壁を少し越えた額となり、疲れに疲れて働かなくてもいいと考えてしまうのは理解できる。

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■保育園が嫌な理由
 他の潜在保育士に話を聞くと勤務時間が長すぎるしサービス残業も多い。自分の子どものお迎えができずに辞めたと話していた。このような例もあるのだろう。

 ある図書館で短時間の預かりサービスをしている運営事業者に保育士の確保ができるのかと聞いたことがあるのだが、そのときは、勤務時間が決まっており短時間ということもあり保育士確保は難しくないと話していた。

このことを考えると、勤務時間が明確で短時間であれば復帰ができるのではないか。短時間でも多くの潜在保育士が復帰してもらえれば、保育士確保につながるように思える。しかし、話を聞くと現実はかなり違うようだ。

「短時間のアルバイトだと、トイレ掃除ばかり。嫌な仕事を回される。それに女の職場だし…」との返答だった。

 この女の職場というのも曲者だ。保育園ではないが、女性が二人だけの勤務となる学童保育(40人定員)で、指導員同士がいがみ合い、子どもの前でけんかをしている子どもに聞いたことがある。保育園でも同じようなことがおきるのかもしれない。

 また別の潜在保育士の何人かに聞くと、どうせ捨ててしまう行事の飾り付けに時間をかけすぎる(改善希望の3位はこれかも)。モンスターペアレンツの対応でへとへと。保育園は保育するところ、育児は家庭でやって。女性が多い職場だからイジメがひどい。

職員会議は公開処刑されているようなもの。園長の気まぐれで仕事内容が変わるし、あんたなんか来るな、給料減らすとすぐにパワハラばかり。理事長がたまに来ると態度が変わるし、やっていられない…などなど保育園の内部問題は山積なのかもしれない。

■給料ではない解決策
 このような問題を解決し、潜在保育士に復帰してもらうにはどうしたら良いか。最もいいのは、給与をもっと高くすること。身分を安定させることだろう。それに、職場環境の健全化だろうか。

 給与は国も補助金を徐々に上げ、勤務年数に応じて給与が増えるようなキャリア支援を行い始めた。これらが行き届けば潜在保育士は保育園に戻るだろうか?

「保育士に戻らないのは、給料の額というより税金や保険代が高くなることのほうが大きい。扶養の範囲内で働けるようにすれば良いだけなんですよ」

 と冒頭の潜在保育士は、このようにも話していた。

 確かに税制を変えれば保育士確保への予算支出は少なくなり、そう難しくなくできそうに思える。ただ、今度は税収が少なくなるので財務省あたりが良いとは言わないのかもしれない。

■潜在保育士への具体策はない
 厚生労働省は、「保育士等確保対策検討会」を開催し「保育の担い手確保に向けた緊急的な取りまとめ」を平成27年12月4日に報告書としてまとめている。

 ここに潜在保育士への対応も書かれているが、『離職者(潜在保育士)の再就職支援(ハローワークや保育士・保育所支援センターによるマッチング支援等)など様々な手を打ってきており、今後も引き続き取り組んでいく予定である』と書かれているだけで、現状を変えるつもりがないことが伺える。

 それよりも、朝夕に二人の保育士を配置しなければならない規定を緩和することや幼稚園教諭、小学校教諭も保育園で働けるようにすること、さらには保育士資格を持たなくても働けるようにすることが書かれている。

 資格を持つ保育士が働きたくない職場を教諭や資格がない人なら働き保育士不足が解消するとは到底思えない。

■ひとが大切
 保育士の平均経験年数は短い。7年以下の保育士が約半分というのが今の保育園の実情だ。特に民間ではこの傾向が強く、民間だけに限れば、7年以下の保育士は、57%となる。逆に14年以上のベテランの割合は、公営で40.4%に対して民間は20.2%で半分となっている。

経験年数

 一概には言えないものの経験年数は質とも密接な関係を持つ。今は保育定員を増やし待機児をなくすための量が注目されているが、質にもっと注目し、質を保つための保育士の給与と待遇、税制も考えないと本当の意味での良い保育園は広がらない。「コンクリートから人へ」ではないが、ひとへの待遇を向上させることが、今だからこそ必要だ。保育園だけに限ったことではない。ひとが大切なのだ。


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