訪問支援員 保育所や学校で「なじむこつ」指導 障害児に集団生活を 体制づくり 福岡市は道半ば

幼稚園の散歩のイラスト
西日本新聞様
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 療育施設のスタッフが保育所や幼稚園、学校に出向き、知的に遅れがある子どもなどに直接、集団生活を送るための訓練や、職員に対する支援指導を行う「保育所等訪問支援」。児童福祉法に基づき、障害児も地域の子どもと一緒に遊び、学ぶ機会を促す一助となる制度の一つだが、福岡市では利用が進んでいない。療育を受ける子どもが増え、療育施設側で対応する専任職の確保が難しいことなどから、体制が後手に回っているのが実情のようだ。

 同市南区の認可保育所に通うダウン症の財津環(たまき)ちゃん(5)。昨年6月から月に2回、この制度で療育施設から来る「訪問支援員」にも見守られている。

 ●保育士にも学び

 身支度したり、グッズを作ったりする時、保育士なら「つい手助けしてしまう」場面でも、支援員は環ちゃんが自分で行動するまで、じっと待つ。すると-。準備を一人でできるようになっただけでなく、寒さで手がかじかんだ時には自ら「手伝ってください」と周りに言えるようになった。

 音楽遊びでは、支援員が床に安全マットを敷いて「ここが子どもの場所」と教え、今では落ち着いて立っていられる。

 日に日に集団行動になじむ娘の姿に「すごく成長している」と目を細める母の真弓さん(45)。ここの保育所はもともと、障害児を何人も受け入れているが、驚いたのは、保育士たちから「言葉掛けや関わり方がすごく勉強になった」と目を輝かせて言われたこと。「同じ目線で娘の今後の課題や必要な支援を共有し、考えられるようになった」のがうれしい。

 ●通所の子が急増

 保育所等訪問支援制度は2012年度に始まった。未就学児が療育施設に通う児童発達支援や、放課後等デイサービスと同様、障害児向けサービスの一つだ。

 訪問支援の指定を受けた事業所は、保護者から依頼があれば、保育士や児童指導員、作業療法士など障害児の指導経験や専門知識がある訪問支援員を、保育所や学校に派遣する。月2回を目安に、1回1500円程度の自己負担(1割)で利用可能。ただしサービスの利用は、実施主体となる市町村の裁量で決まる。

 真弓さんが制度を知ったのは16年。5歳から園外活動として始まる水泳教室への参加を「集団行動が難しい」との理由で断られたのがきっかけだ。活動を見守ってくれる人を探した際、今も通う福岡県小郡市の療育施設のつてで、訪問支援を手掛ける同県春日市の事業所の紹介を受けた。

 福岡市は当時、こうしたスタッフが所属する市内の療育施設で「提供体制が整わなかった」(担当課)として、支援を受けるのに必要な受給者証の交付を16年度から始めたばかりだった。市内では療育施設に通う未就学児が年々増え続け、同年度末に月800人(3月末時点)を突破。通所での受け入れさえ制限し、待機児童がいたことも、遅れた一因とみられる。

 指定を受けた事業所でも専任の訪問支援員を配置せず、通所のスタッフが無理に時間をつくって対応するケースも。月2回の訪問は困難で、市は“独自ルール”として利用を年3回に限り、積極的な周知も見合わせていたという。

 ●幼少時に慣れを

 市は04年度以降、市立の療育センター3カ所に委託する形で、保育所や私立幼稚園に対し、園側からの要請に応じてスタッフが訪れ、職員に助言や研修を行う独自事業などを先行して実施。ただ障害児本人への支援はなく、要請した1園につき年に1~2回の利用にとどまり、今後は「保育所等訪問支援のニーズにも対応できるよう、支援員を置く民間事業所の拡充も促していく」(担当課)方針だ。

 市内の指定事業所は現在、計13施設。事業所によっては利用回数の制限や居住区に対応できないなど、体制づくりはなお道半ば。療育施設に通う子の親などでつくる会「インクルーシブふくおか」の上角智希さん(45)は「いずれ社会に出る子どもには集団への慣れが必要。周りの子も、幼少時に障害児とともに過ごした体験が多いほど、社会全体の理解者が増える」と指摘し、制度利用の広がりに期待を寄せる。

=2018/02/22付 西日本新聞朝刊=

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