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従業員用の保育所を整備する中小企業が多額の国費補助を受けられる内閣府の「企業主導型保育事業」が、全国で注目を集めている。地域住民も利用でき、待機児童の解消や女性の雇用促進につながるとして、制度が導入された二〇一六年度からの二年間で、全国で二千六百カ所(定員六万人分)の新増設計画が助成を受けた。今月末まで受け付けている一八年度分の募集にも、企業からの問い合わせが殺到している。
トヨタ自動車グループの関連企業が集積し、人口が毎年増加している愛知県知立市の名鉄知立駅前。大通りに面したビルの一階の部屋から、幼児と保育士らの楽しげな声が響いてきた。「ボール欲しいの? はい、あげるね」
資格取得講座を行う株式会社「中部会計専門学院」が一一年、出産後の再就職を目指す女性の受講生向けに開設した託児ルーム「ピノキオ」。企業主導型保育事業の認定を受けて床面積を増やし、五月から受講生以外の地域住民の子どもの受け入れも始めた。
改装費の四分の三が国費負担になったことに加え、運営費補助もあり、認定前に毎月二十五万円ほどあった赤字が消えた。「補助金もありがたいが、親御さんにとっては内閣府から認められたという安心感も付加価値になっているようだ」と深谷栄治学院長。駅に近い立地もあってか、一時預かりを中心に新たな利用者が増えてきているという。
企業主導型保育事業は、一六年に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」で待機児童問題を重要課題に位置付けた政府が、新たな受け皿として考案した。都道府県知事らの設置認可を受けない「認可外保育施設」ながら、認可施設と同等の経費補助が受けられるため、申請する企業が急増。製造事業所が集積する中部六県では今年三月までに、愛知県の百四十七カ所をはじめ全国の一割を超す二百七十カ所が整備された。
当初は一七年度までの二年間で計画されていたが、好評を受けて一八年度も六月十五日から、二万人分を募集した。内閣府によると、事業委託を受けた公益財団法人の児童育成協会の電話が終日つながりにくくなるほど問い合わせが集中しており、来年度も事業継続に向けて予算要求することを検討している。
◆「安全性確保に努力」
企業主導型を含む認可外保育施設は一般に「行政の目が行き届きにくく、安全面で課題がある」と指摘される側面もあり、内閣府は「安全対策には万全を期したい」と指摘する。
内閣府が五月末に発表した二〇一七年の保育施設の事故集計によると、全国の認可外保育施設では、預かっている子どもが死亡する事故が四件、意識不明となる事故が二件発生。企業主導型施設では骨折事故が二件あったが、死亡や意識不明の事例はなかった。
認可外施設では都道府県が年一回の監査をしているが、企業主導型施設はこれに加え、内閣府や委託企業による立ち入り調査もあり、結果を公表している。一七年四~九月の調査で愛知県内では二十九施設に立ち入り、十八施設で保育計画の未整備や健康診断の未実施などの不備が判明した。
内閣府の担当者は「自治体とのダブルチェックによって安全性を高め、結果を公表することで透明性の確保にも努める」と話す。
(谷悠己、写真も)
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