従業員の働き方に応じた保育サービスを提供するなど、企業主導型保育所の設置が進んでいる。児童育成協会(東京都)によると、群馬県内の企業主導型保育所は今年8月時点で22施設で、昨年10月時点の8施設から大幅に増えている。
◎職場近くで預かり 復職サポート充実を
国は幼児期の保育や地域の子育て支援の拡充を進める「子ども・子育て支援新制度」を2015年度に開始。翌年度に仕事・子育て両立支援事業を創設した。企業主導型保育所の増加の背景には、働きながら子育てしやすい環境づくりを進めることで離職を防ぎ、女性の働き手を増やしたいとの企業側の思惑がある。
仕事と子育ての両立は、個人の問題ではなく社会の問題。出生率や転出入の状況が改善しなければ、40年の県人口は約163万人にまで減ると推計される。
働きやすい社会にするには何が必要か。出産などを理由に離職した母親の再就職への意識が高まる中、仕事と子育ての両立支援に取り組む企業や行政など県内の動きを追った。
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卸業者が集まる高崎市の問屋街の一角。ビルの2階に整備された真新しい保育室で、幼い子どもたちがおもちゃ遊びを楽しんでいる。
■「安心感ある」
介護施設を展開する同市問屋町の「たくみ」が事業所に隣接して運営する企業主導型保育所「アムールほいくえん」だ。介護職員として勤め、長女(1)を預ける松野みゆきさん(32)=玉村町=は「送り迎えが便利。子どもが近くにいる安心感がある」と話す。
同社は今年4月、働きやすい環境づくりと人材不足解消のため保育所を開設した。生後2カ月から、50人まで受け入れられる。シフト制の勤務を考慮して土日も開園。同社を含むグループ企業や提携企業の従業員は1日1000円で預けられ、松野さんは「認可保育所と同じくらいか、それ以下の料金」と利点を話す。子どもの具合が悪いときなどは「上司の計らいで仕事の合間に様子を見に行ける」など職場の理解も大きいという。
2015年度に始まった国の「子ども・子育て支援新制度」に伴い、設置が広がる企業主導型保育所。県内は今年8月時点で22施設で、昨年10月時点の8施設から大幅に増えた。運営主体は介護職や看護職など比較的女性が多く携わる職種が目立ち、仕事と育児の両立を支援し、離職を防ぐ狙いがある。
■サービス拡充
ただ、希望の認可保育所の空きが出るまでの一時的な利用にとどまったり、「運動会などイベントが少ない」といった声もある。運営側は長期利用につなげようと、英会話やリトミックの教室を開くなどサービスの拡充に力を入れる。
出産や育児で離職した母親に対する復職支援も活発になっている。前橋、高崎、太田の3市のハローワークは子育て中の就職活動を応援する「マザーズコーナー」を開設している。専任の相談員が家族構成や託児の状況、希望の勤務スタイルなどを聞き取り、相談者に就職プランを助言する。5歳と2歳の男児を育てる津久井奈菜さん(38)=前橋市=は医療事務の就職を目指し、同市のマザーズコーナーを利用。「女性スタッフが多く、雰囲気が良い。ビジネスマナーなどのセミナーが充実していてうれしい」と笑顔で話す。
相談以外にも、募集する企業との交流会や、合同面接会などの実施で就職を後押しする。同市とハローワークまえばしが7月に行った交流会には定員の20人が参加。県内の金融、販売、医療介護の3企業に勤める女性が業務を説明したり、質問に答えたりした。参加者からは「生の声を直接聞けて良かった」など、再就職に前向きな意見が寄せられた。
これらの取り組みから、同市のマザーズコーナーの就職率は今年4~6月の平均で5割を保っている。ハローワークまえばしの生方和義さん(50)は「やりたいこととできることのギャップを少しでもなくせるよう相談者に助言し、企業側にも工夫を働き掛けていきたい」とサポート態勢の充実を図る。
■家族政策が必要
総務省統計局の昨年の調べによると、群馬県で育児をしながら働く女性の割合(有業率)は70.0%で、全国平均の64.2%を上回り、関東で最も高い。ただ、時間的な制約からパート・アルバイトなどの非正規雇用の割合が多いのが実情だ。群馬労働局職業安定部の小林孔部長(33)は「真の女性活躍には、家族政策として取り組む必要がある。男性の育休取得が人事上不利にならないようにするなど、企業側の制度整備も求められる」と強調する。
◎病児・病後児保育 受け皿の整備進む
病気療養中や回復期の子どもを預かる病児・病後児保育施設は、病児保育施設が県内7市計9カ所、病後児保育施設が11市町計18カ所(今年4月の県まとめ)で、受け皿整備が進んでいる。
病児保育は医療機関と連携して併設され、常駐の保育士と看護師が世話をする。国などから助成を受けている場合、通常1日当たりの利用料は2000円。病後児保育施設は保育園や医療機関に併設されている。
伊勢崎市は市の単独事業として病後児保育を実施しており、市内の保育園など8カ所で開設。各施設で2、3人を受け入れ、常駐の看護師が世話をする。利用者は昼食など実費500円程度を負担する。市こども保育課は「小規模だが市内全域を網羅した。自宅や職場付近に預けるなど選択肢が増え、年々登録者数が増えている」と話している。
県の「ぐんま子ども・子育て未来プラン」は病児保育事業の未整備地域の施設数増加などを目標とし、2019年度までに不足分を解消したい方向。
◎「プラチナくるみん」 マーク活用し職場環境PR
厚生労働省が従業員の子育て支援に積極的な企業に認定する「くるみん」マークは、県内で47社が取得。そのうち、より高い水準を満たした企業が認定される「プラチナくるみん」マークは4社で、子育てサポート企業のアピールに活用されている。
税制面での優遇制度が適用されるほか、商品や広告にマークを付けることができる。全国では今年6月末時点で、くるみんは2917社、プラチナくるみんは212社が取得している。
「夫も子育て参加を」共愛学園前橋国際大・前田由美子研究員の話
日本は特に「子育ては母親がするもの」といった性別分業意識が根強い。2017年のジェンダーギャップ指数は144カ国中、114位と下位のまま。母親は仕事も育児もこなそうとストレスを抱え、そのいら立ちが子どもに向かう恐れもある。夫や子どもの祖父母、企業の管理職が意識を変えないといけない。
他の先進国は共働きで子育ても一緒にするのが当たり前。子どもが2歳になるまでに夫が子育てに関わると、妻の夫に対する愛情曲線が回復するという統計もある。まずは妻の気持ちを聞いて、できることから始めてほしい。一時預かりなどを利用して、ゆっくりと過ごすのもいい。子育ての質の向上につながる。
《記者の視点》働きやすさ 次代へ
プラチナくるみんマークを取得した企業の担当者から「最近の学生はワークライフバランスを重視する傾向が強く、マークの取得は採用活動にも有利」と聞いた。次代を担う若者にとって、子育てしやすい環境は企業選びのポイントになっているようだ。
仕事と子育ての両立支援が進む半面、子どものいない女性や男性に業務のしわ寄せが及んでいるといった声もある。不公平感を解消するには、働く母親だけではなく、職場全体の業務改善が必要だろう。
記者も4歳の息子がおり、子育ての真っ最中。近くに住む両親に頼りっぱなしだが、それでも両立にはほど遠い。ファミリーサポートセンターなどの一時預かり事業や会社の制度など、いま利用できる支援制度をしっかり把握し、賢く選択していきたい。私たち親の世代で働きやすい環境をつくれば、子の世代も当たり前になっているはずだ。(文化生活部 井上章子)
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