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政府が待機児童の解消策として推し進める「企業主導型保育園」の利用者数が伸び悩んでいる。福岡市内に開設された園の利用者は定員の半数程度にとどまり、他の大都市圏でも似たような状況だという。保育のニーズは高いはずなのに、なぜ利用者が増えないのか。課題を探った。
定員50人、入園15人「経営的に厳しい」
「いただきます」。400平方メートル以上の広々とした室内に、子どもたちの元気な声が響きわたる。福岡市博多区のショッピングモール内の保育園「すいーと・なーさりー」は国の助成を受け、今年3月に開園。モール内で働く従業員や地域の子どもを預かる。
定員は50人。開園当初は40人程度の利用を見込んでいたが、実際に入園したのは15人だという。運営会社の中島理代表(44)は「来年4月までに想定の利用者数に届くめどが立たなければ経営的に厳しい」と打ち明ける。
市内の不動産仲介会社が開設した2園も中央区の園(定員41人)が24人、博多区の園(同46人)が18人。同社の社長は「入念に市場調査したつもりだったが、これだけしか集まらないとは」と肩を落とす。
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福岡市内の企業主導型保育園は計85園。定員1981人に対し利用者は1030人にとどまる(8月1日現在)。他の大都市圏も同様で、大阪市は96園(定員1714人)に888人▽横浜市は47園(同1014人)に398人▽名古屋市は33園(同514人)に約300人-となっている。
内閣府から委託を受け、助成決定などの実務を担う児童育成協会は「予想を超える(助成の)応募があり、市町村ごとの利用者数や実態を把握する余裕がない」と実情を明かす。
ちぐはぐな国の対応に自治体から不満の声
利用者が伸び悩む理由として、専門家からは「地域の需要を把握できていない」との指摘が相次ぐ。
園への助成を決定するのは内閣府でも、地域の保育ニーズを把握しているのは各市町村。例えば福岡市博多区で助成を受ける企業主導型保育園は25園(定員741人)に上るが、市によると、同区は9月1日現在で認可保育園にも空きがある状況だという。
ちぐはぐな国の対応に、自治体からは不満の声が上がる。東京都世田谷区は昨年から内閣府や厚生労働省に企業主導型保育園の利用者名簿の提出を要請。しかし、個人情報保護などを理由に20人分しか開示されなかった。区の担当者は「実態が分からなければ待機児童の正式な数が把握できず、今後の保育政策が立てにくい」と頭を抱える。
保育の「質」に課題も 7割の園に不備
保育の質を疑問視する声もある。通常、認可保育園では発達具合が異なる園児を同じカリキュラムで教育することはないが、福岡県内のある企業主導型保育園は0歳児と3歳児を同じ保育内容で預かっている。同園の園長(42)は「設置会社の方針に従わざるを得ない」と前置きしつつ「会社側は保育に関する知識が乏しく、子どもを預ける場所さえあれば何でもよいと考えているのでは」と違和感を口にする。
児童育成協会が2017年4~9月に立ち入り調査した432園のうち、7割に当たる約300園で職員配置や保育内容に不備が確認された。福岡市でも17年4月~18年3月に30園を立ち入り調査した結果、13園が厚労省が定める基準を満たしていなかったという。
待機児童問題に詳しい白梅学園大・短大の近藤幹生学長は「待機児童解消といっても、量的拡大とともに質の確保、向上も大事。企業主導型保育として(国から)許可された以上、保育内容に責任を待たなければならない」と話している。
【ワードBOX】企業主導型保育事業
認可外保育園を設置する企業を対象に、内閣府が2016年度から始めた助成事業。施設整備費(最大4分の3)など、認可保育園並みの助成が受けられる。設置企業の従業員の子どもに加え地域枠として従業員以外の子どもも受け入れることができる。待機児童解消だけでなく、夜間や休日、病児保育など多様な需要の受け皿として期待される。18年3月末時点で助成決定されたのは2597園で総定員数5万9703人。政府は7万人分の定員枠を確保する目標を掲げている。
=2018/09/17付 西日本新聞朝刊=
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