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レビュー
いい意味で、とても生々しい本だ。
「保育歴16年、東京で対策の陣頭に立つ異端の経済学者が問題解決に立ちはだかる『真犯人』を炙り出す改革戦記」と帯にあるが、まさに。著者の実体験から綴られる本書は、なぜ待機児童という問題がなかなか解決しないのか、そしてこの問題の解決に取り組むことがいかに難しいかを、門外漢にもわかりやすく描写している。たとえば本書で語られる改革反対派の「抵抗」の凄まじさたるや、本当に平成の時代の出来事なのかと疑いたくなるぐらいだ。著者の「日本の保育は社会主義」という主張も、あながち言い過ぎではないと思わされる。
学者という立場から、「正論」を語れる人はある程度いるだろう。だが「正論」だけで問題は解決しない。複雑に絡み合った問題を解きほぐすには、泥臭いことを実行できる能力がどうしても必要になってくる。そういう意味で著者ははるか先の理想を追いつつ、目前の現実にも粘り強く対処できる、稀有な人物といえるのではないだろうか。
ここに書かれているのは、待機児童という問題を解決するため奮闘する著者の、貴重な生の証言だ。生き生きとした未来を実現するため、いま私たちは何を知っておくべきなのか。さまざまな思惑が行き交う待機児童問題について、ひとつの明るい道筋を照らしてくれる一冊である。とりわけ東京都周辺に住む方に、ぜひともお読みいただきたい。
本書の要点
・待機児童数がなかなか減らないのは、数字にあらわれていない「潜在的待機児童」が多くいるからだ。
・待機児童や潜在的待機児童が生まれる根本的な原因は、日本の社会主義的な「保育制度」にある。
・待機児童解消のためにやるべきことはハッキリしているが、問題はそれをどう実行するかだ。既存の既得権構造を打破するのは容易ではない。
・著者らが東京都で進めている施策は、たしかな成果として現れている。だがこれ以上の成果を出すためには、まったく新しい発想や政治的にハードルの高い施策も必要になる
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