なぜ「幼保無償化」が先なのか 保育士や幼稚園教諭の約7割が「幼保無償化」に反対

育児ノイローゼのイラスト
Wezzyさま
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来年4月から、幼児教育・保育の無償化、通称「幼保無償化」が5歳児の幼稚園や認可保育所などを対象にスタートし、10月からは全面的に施行される。幼保無償化を心待ちにしている人も少なくないかもしれないが、現場で働く保育士は戦々恐々としているのではないだろうか。

 株式会社ウェルクスは今月5日、保育士・幼稚園教諭の有資格者を対象に実施した「幼保無償化」に関するアンケート調査を発表。その結果、67.1%が「幼保無償化に反対」と回答した。反対する理由について、「業務負担の増加」(74.0%)が最多。以降、「保育の質低下」(69.7%)、「待機児童の増加」(51.1%)と続いた。また、「幼保無償化よりも必要なことは何か」を聞いたところ、最も多かった回答が「保育士の確保」(82.8%)で、他の回答「保育園の増設/既存保育園定員枠の拡大」(30.2%)、「研修制度の充実」(24.7%)などを大きく引き離す結果となった。

保育士は深刻な人手不足
 幼保無償化は、安倍晋三首相が昨秋の衆院選で掲げた公約。子育て世帯の消費減退を防ぐ目的で、内閣府の試算では無償化にはおよそ一兆二千億円が必要になる。しかし幼稚園や保育園の利用料は保護者の所得に応じた負担に設定されており、きょうだい児の割引や低所得世帯の無償化もすでに実施されている。保護者の所得に関わらない一律の無償化は、果たして今、必要なのだろうか。

子育て支援への財源投入自体に異論はないが、しかし子育てをめぐる問題は様々あり、幼稚園・保育園にかかる教育費の無償化よりも優先順位の高い問題はあるだろう。都市部の待機児童の問題や学童保育の不足、保育の質の担保などは特に喫緊の課題だ。

 それらを解決しようにも、保育士の人手不足は深刻な現状にある。厚生労働省によると、2017年10月の全国の保育士の有効求人倍率は2.76倍。東京都に至っては、5.99倍にも上る。また、株式会社ネクストビートが現役保育士を対象に実施した調査では、81%が「家に持ち帰って仕事をしたことがある」と回答した。

 この現状をどう改善するのか。株式会社ウェルクスの別に調査では、「保育士不足に最も効果があると思うのはどれか」を聞くと、最多が「保育士の待遇改善」(75%)で、2番目に多かった「働く職場の環境改善」(18%)とは大きな差が開いた。

保育士の賃金は「希望に合わない」低さのまま
 実際、待遇の悪さから保育士としての就労に二の足を踏む人は多い。厚生労働省の調べでは、保育士の資格を有するにもかかわらず、保育士として就業を希望しない理由の1位が「賃金が希望に合わない」(47.5%)だった。ただ、「就業を希望しない理由が解消した場合の保育士への就業希望」を聞くと、63.6%が「希望する」と答えており、不当に低い賃金を順当な額に上げることがまず第一だろう。

 政府も現状を把握していないわけではない。2017年度から、保育士の処遇改善として月額2%(約6000円)を給与に上乗せし、経験7年以上の中堅保育士を対象に月給で4万円上乗せするなど、賃上げ策を講じてきた。それでも他業種との賃金格差は依然として大きいという指摘が相次ぎ、2019年度からさらに1%(3000円)の賃上げを発表。とはいえ、この程度の賃上げで保育士不足が解消するとはとても思えない。

 幼保無償化によって、待機児童問題のない地域においては、子供を保育園に通わせる家庭が増えることが考えられる。保育士不足が改善されないまま、幼保無償化を実施してしまったいいのだろうか。大胆な保育士の待遇改善が急がれる。

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