企業主導型保育所って?<上>「従業員枠」に地域の子も 少人数の利点を生かす

幼稚園の散歩のイラスト
西日本新聞さま
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政府が進める「企業主導型保育所」。待機児童対策の切り札として期待されている一方、利用率の低さや短期間での閉鎖など混乱も生じている。10月になり、自治体によっては保育所入所の応募書類を配布するなど、来年度向けの「保活」が始まっている。「認可外保育所ながら、認可保育所並みに基準が厳しい」といわれる企業主導型。どんな施設なのか、保護者の選択肢になり得るのか。現場を取材した。

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 「未来型保育園」「一時預かり低料金」-。福岡市博多区のショッピングモールの外壁には、入居する企業主導型「キッズランド」の大きな看板が掲げられている。園内には、すべり台や食事を取るスペースなどが設置されていた。担当者は「一般的な認可外保育所とは異なることを知ってほしい」と話す。

 記者が実際に現場を訪れた福岡都市圏4カ所の企業主導型は、どの園も広く、清潔感があった。保育士も、認可園並みの人数を配置している園が大半だった。

 企業主導型は2016年度にスタート。認可園ではなかなか難しい夜間や休日、病児保育など、自由度の高い保育を柔軟に実施することも可能だ。18年3月末時点で助成決定されたのは2597カ所、総定員数は約6万人。しかし共同通信が7~8月に約80市区に行った調査では、定員に対する充足率は49%にとどまる。福岡市は9月1日現在で55%だ。

 取材して気付いたのは、利用が伸び悩む園の多くが、従業員の子ではなく、地域の子を主なターゲットにしていることだ。

 企業主導型は本来、設置企業などの従業員の子を対象とし、地域の子は「地域枠」として定員の半数までしか受け入れられない。しかし認可園並みの補助金を受け取れ、スピーディーに参入できるとあって、「従業員のため」という本来の目的とは異なり、地域の子を当てにして開設する園も少なくないようだ。

 ある園は、従業員の子は3人のみ。地域の子を入れても利用率は5割を切る。助成金は園児1人当たりで支給されるため、園児が集まらないと経営は苦しい。できるだけ地域枠を空けておこうと、保護者が働く会社に提携企業になってもらい、「従業員枠」で受け入れようとしている。

 別の企業主導型の運営者も「とりあえず友人の経営する企業名を提携企業として書いた」と打ち明ける。

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 一方、園児集めに成功している園もある。

 いふくまち保育園(福岡市中央区)は、従業員の利用は2人にとどまるが、15人の定員はほぼ埋まっている。ゼロからの園児集めだったものの、口コミで評判が広がった。園長の酒井咲帆さん(37)は「少人数の良さを生かし、それぞれの発達段階に合わせた保育を提供している」と説明する。公園が隣接していることも強みだ。定期的に清掃し、地域の人と一緒にさびが気になる遊具にペンキを塗るイベントを開くなど、子どもたちが公園を利用しやすいように取り組んでいる。

 同市によると、地域枠を持つ企業主導型73園のうち、満員は8園(9月1日現在)。その大半が定員19人以下の比較的小規模な園だ。少人数ならではの良さを打ち出し、定員の多い認可園との違いを際立たせることができる。

 ただ、将来的には少子化で園児の確保が難しくなることも予想される。市内で企業主導型を運営する男性は「保育需要がなくなったからといって、助成を廃止するのはやめてほしい」と訴える。

 ●助成金団体対応追い付かず 新規参入多く

 企業主導型保育所は、施設整備費など認可保育所並みの手厚い助成金が受けられるとあって、申請が殺到。保育事業への新規参入も多く、助成を仕切る児童育成協会の対応が追い付かず、混乱ぶりは続いている。

 熊本県天草市の美野里保育園は昨年4月に開園。しかし協会から運営費が支給されず、開園1年後に約3千万円が振り込まれた。その間、銀行融資などでしのいだが破綻寸前だった。同園の設立に携わった松浦四郎さん(64)は「協会に確認の電話をかけるが50回かけて1回もつながらなかった」とこぼす。

 企業主導型の申請代行を複数手掛けた東京の行政書士は、助成金に関するトラブルの相談が相次いでおり「細かいところの仕組みが固まっていないまま動き始めたようだ」と指摘する。

 こうした現状を踏まえ、協会は18年度の加算金分を予定より前倒しして支給する方針に変えるなど、改善に乗り出している。

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