職員も住民も便利で安心 JA保育所

ふわふわドームのイラスト
日本農業新聞さま
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JAが保育所を開設する動きが出ている。目的は大きく分けて二つ。一つは女性職員の離職防止、もう一つは地域貢献だ。内閣府の「企業主導型保育事業」で、認可外保育所でも認可並みの補助を受けられることが後押ししている。従来からある公的機関からの委託されて運営するタイプと合わせ、JA保育事業の裾野が広がっている。(高内杏奈)
  離職防止へ補助活用 静岡・遠州中央
 「有望な女性がまた辞めた……」。静岡県のJA遠州中央人事課の石黒英教課長は5年ほど前、頭を悩ませていた。子どもの預け先を見つけられずに離職してしまう女性職員が相次ぎ、問題となっていた。

 働きやすい環境づくりとして2015年、事業所内保育に着目。勤務先からの理想の距離や保育料などを職員に聞き取り、4月に「JA遠州中央ときめき保育園」を開園した。全支所から30分程度の所にある遊休施設を活用。企業主導型保育事業の助成は、改修費用や運営費に充て、保育料は月2万5000円と市内の保育所の半額程度に抑えた。登園時間は午前7時半~午前9時半。降園は午後4時半~午後6時半で、職員の通勤に合わせている。

 「JAに保育所ができたおかげで、これまでの経験を生かして仕事を続けられる」と、JA職員の古川春菜さん(33)は喜ぶ。出産後、預け先がなく退職したが、再雇用された。

 保育所は、JAと関連組織の職員が利用できる。対象は0~3歳で、現在は9人が入園。年度内に11人まで増える予定だ。全国展開するニチイ学館に保育士の確保、給食の提供などを事業委託。石黒課長は「女性の働きやすい環境づくりに努めたい」と意気込む。

 同事業を利用して開設したJAは、遠州中央を含めて全国に二つ。同県のJA大井川は地域からも園児を募集し、待機児童解消を目指す。愛媛県のJAえひめ中央は19年2月に開設する予定だ。
  子育て世代 ファンに 富山・氷見市
 行政からの受託で運営してきたのが、富山県JA氷見市の「みどり保育園」だ。

 「先生、早く畑に行こうよ」。保育所をぐるりと囲む畑で、イチゴやブロッコリーなど年間15種類の野菜を栽培。120人の園児が、カエルやバッタと遊びながら水やりや収穫をする。

 JAは10年前、社会福祉法人ジェイエイ氷見みどり会を立ち上げ、閉園が決まった二つの公立保育園を統合して同園を設立。開園は、合併による次世代組合員のJA離れを解消するためだった。南勇樹常務は「閉園を受けて困っている住民に、JAが地域になくてはならない存在だと示したかった。JAを身近に感じるようになったと好評だ」と話す。

 給食は園で育てた野菜をふんだんに使う。JAの営農指導員が週に1回は訪れ、園児に野菜の説明をする。崎恵子園長は「土いじりや畑の生き物と触れ合うことは多くの発見があり、子どもの心を豊かにする」と考えている。

 JA共済総合研究所の福田いずみ研究員の話によると、保育施設を運営するのは全国に6JA(10月末時点)。福田研究員はJA遠州中央の保育所を「女性が仕事と子育てを両立するために有効だ」と評価。将来的に管理職になる女性を増やす可能性があるとみる。JA氷見市は「食農教育を取り入れることは、JAの特色を生かし、地域にJAをアピールするチャンスだ」と語る。

 一方で課題として、保育士の確保、安全管理の徹底を挙げる。保育事業のノウハウがないJAが多いため、保育事業を展開する民間企業との連携や保育所を開設したJAを視察し、参考にすることが必要だとしている。
  <ことば> 企業主導型保育事業
 2016年度に内閣府が開始した企業向けの助成制度。保育所の運営費・施設整備費について、認可外保育所でも認可並みの助成が受けられる。子ども・子育て拠出金を負担している事業者であれば基本的に申請が可能で、複数の企業の共同利用もできる。

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