ただ今修行中 病児保育士・斎藤弥生さん(37) 高知市

女性看護師の表情のイラスト「笑った顔」
高知新聞さま
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病気の子どもに安心の場
高熱の女の子がぐったりしている。別の女の子はコンコンと乾いたせきが止まらない。

1月半ば、その日の保育室は定員いっぱいの6人。3~7歳の子どもたちは皆インフルエンザに感染している。病児保育士の斎藤弥生さん(37)は順に近寄り、尋ねる。「頭痛い?」「お布団で横になる?」

高知市大膳町の細木病院内にある病児・病後児保育室「キューピットハウス」。仕事などで家で看病できない保護者に代わり、小学3年までの、病気や回復期の子どもを預かる施設だ。

体温や顔色の変化などに注意を払い、気が抜けない。異変があればすぐ医師や看護師に連絡する。だが焦らず、落ち着いた対応を心掛ける。「リラックスして元気になってほしいから」



子どもの成長に関わり、共に喜びを分かち合いたいとの思いを胸に、保育士になって17年。「でもいわゆる『保育園』で働いたことがないんです」

地元徳島市の県立保育専門学院を卒業。アルバイト先だった知的障害児施設、その後は児童養護施設で働いた。自閉症などの子どもや複雑な事情を抱える子どもと根気よく向き合った4年間は、自分も成長できた貴重な時間だった。

重症心身障害児について関心を持ち、23歳の時、国立病院機構高知病院に正採用。しかし、受け持った現場は医療や死が深く関わり、それまで働いていた環境とはまるきり違った。

ベッドの上で過ごし、外の空気を肌で感じることもままならない。子どもたちに当たり前のことを体験させてあげたいと、夢中で働いたが、体調を崩し休職。約8年間在籍した職場を去った。

「やり残したことがある。病気の子どもたちのサポートをしたい」。別の職場に移ったものの、そんな思いがくすぶっていた時、たまたま病児保育のことを知った。これまでの経験から、病気の子どもにとって心理面を支える保育士の役割がいっそう大切なことは分かっていた。33歳、病児保育の世界へ踏み出した。



戸惑いの連続だった。体調が悪い上、知らない所に連れてこられ、泣きじゃくる子どもたち。「不安な時間が長いと治るものも治らない。短時間で距離を縮めるのに苦労しました」

ある時、一人のお母さんがつぶやいた。「あー、ここ来たら安心する」。話を聞くと、「自分に余裕がなくて子どもに優しくできん」。

子どもが病気になると、仕事と看病で親も心身共に疲れることが少なくない。「病児保育は子どもを見よったらいいと思ったけど、違うんですね。子どもが元気でいるにはお母さん、お父さんが元気じゃないと」。最初は子どもに「お大事に」と言っていたが、大人にも「寝られてます? 休んでくださいね」と声を掛けるようになった。

病児保育の専門性をさらに深めようと、昨年夏に全国病児保育協議会が認定する病児保育専門士の資格を取得。近頃は利用者から「斎藤さんじゃないと!」と言ってもらえるようにもなった。

子どもが家のようにくつろげる空間を。働く親の心労が和らぐように。医師、看護師らと連携しながら、安心の場づくりに日々取り組んでいる。

写真・佐藤邦昭
文・上野芙由子
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