婚姻率最低の4.7%で未婚化克服は? 赤ちゃん背負い勤務…根付くか賛否両論の「子連れ出勤」 政府は「出会いサポート」も

おんぶ紐を使うお母さんのイラスト
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政府が取り組む「出会いサポート」と「子連れ出勤」
「平成」の30年間に進行し、安倍首相が「国難」と称している「少子高齢化」。その克服が急務となる今、政府が力を入れようとしている2つの取り組みがある。それが「出会いサポート」と、「子連れ出勤」の支援だ。

出会いサポートをめぐっては、公的にそこまでやる必要があるのかという意見、子連れ出勤については、職場環境への影響や親の負担の面から異論も噴出している。それでも内閣府で少子化対策を担当する宮腰大臣は、この2つについて、柔軟性を持ちつつも前向きに取り組もうとしている。それだけ、日本国内での「未婚化」への危機感が強いということだ。

増え続ける「生涯未婚」とその背景
50歳の時点で結婚したことがない人の割合を示す「生涯未婚率」は、1970年の時点で男性1.7%、女性3.3%だったが、2015年には男性23.4%、女性14.1%と、それぞれ大きく上昇している。

また、政府の最新の人口動態統計によると、婚姻の件数は、1970年に約103万組だったのが、2017年には60万7千組に減り、人口1000人あたりの婚姻件数を示す「婚姻率」も1970年の10.0%から4.9%へと半減。
さらに、発表されたばかりの2018年の推計値では婚姻数59万組、婚姻率4.7%と、ともに過去最低を更新している。
年齢別の未婚率も上昇傾向が続いていて、この未婚化の進展は決して少子高齢化が理由ではなく、逆に少子化の原因の1つであることがわかる。

「結婚したくない」ではなく「結婚相手に巡り合わない」
この統計だけを見ると、「結婚したくない若者が増えている」という結論を導いてしまいそうだが、内閣府の担当者は、むしろ「ほとんどの若者が結婚したい状況は変わっていない」と強調する。

 国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査」(2015年)によると、未婚者(18歳~34歳)の「結婚意思」は男女とも9割程度で推移しており、多くの若者が“結婚したがっている・結婚するつもりだ”ということが分かる。

では、なぜ結婚しないのか。内閣府の少子化社会対策白書によると、25~34歳の未婚者に独身でいる理由を尋ねたところ、男女とも「適当な相手に巡り合わない」という理由がダントツ1位になっている。
「結婚したくても、良い相手に巡り合えない」
こうした現状が日本社会を覆う中、政府は「結婚の希望をかなえたい」という思いのもと、多様な取り組みを行っている

宮腰大臣も視察した「自治体による結婚相談所」
1月15日、宮腰少子化相が視察したのは、茨城県牛久市にあり、内閣府の交付金を活用して運営されている、地方自治体による結婚相談所「いばらき出会いサポートセンター」だった。


「いばらき出会いサポートセンター」を視察した宮腰少子化相(1月15日 茨城・牛久市)
ここでは、結婚の希望の実現に向け、国と自治体が連携して支援に取り組んでいる。こうした地方自治体による結婚支援の取り組みは全国各地に広がり、成功事例は他の地域にも横展開されている。その中からいくつか面白い事例を紹介したい。

【事例1 AIで趣味趣向がマッチしたお相手を紹介】
埼玉県と県内の市町村、民間企業等が運営する「SAITAMA出会いサポートセンター」では、希望条件に沿ってお相手が検索できるほか、事前のアンケートに基づきAIで相性の良い相手を紹介している。

 これまでの自治体の結婚支援事業では、あくまで「年齢」「年収」などの条件を基本に相手を紹介していた。そこにAIを活用することで、趣味趣向などを“高度に分析”した結果、従来の条件だけでは見えてこない相性の良い相手が提案されるため好評を博しているという。民間企業でも類似のサービスは提供されているが、自治体が運営することで安心感があるのみならず、安価に抑えられる。このため首都圏でも、こうした自治体による取り組みが広がりを見せている。

【事例2 意外に多い!「美容院」で縁結び】
「うどん県」として有名な香川県では、実はうどん店(約600店舗)よりも、コンビニエンスストア(約400店舗)よりも、美容院の店舗数(約2400店舗)の方が多い(内閣府資料、2016年時点)。

そこで、結婚支援センターのような常設施設を設けずとも、気心の知れた美容院で「縁結び」ができないかというアイデアが浮上し、「縁結び・子育て美容-eki」という取り組みが始まった。具体的には自治体が美容師等に結婚支援・子育て支援に関する講習会を実施し、美容師とお客さんとの会話の中で子育てや結婚についての話題が出た際に、美容師の側から関連した情報提供を行っている。地方には香川県以上に、県民1人あたりの美容院数が多い県もあり、こうした取り組みが他県に広がる可能性もある。

【事例3 協賛店舗で結婚を側面支援】
群馬県では、新婚夫婦や結婚予定のカップルを対象に、協賛店舗に提示することで割引を受けられる「結婚応援パスポート」を配布している。結婚式でのウエディングケーキや新郎新婦の衣装代などについて割引を行い、結婚の側面支援を行っている。

 政府はこうした地方自治体の取り組みに交付金を出すことで支援するほか、好事例を集約しノウハウの提供を行っている。なお、宮腰大臣は「結婚支援の取り組みは特定の価値観の押しつけになったり、プレッシャーを与えたりすることなく、あくまで結婚の希望を叶えるという観点から行われなければならない」と強調している。

日本は「子供を産み育てにくい国」から脱却できるか
内閣府の2015年度「少子化社会に関する国際意識調査」によると、日本は対象4か国(日本・イギリス・スウェーデン・フランス)の中で「子供を産み育てやすい国だと思うか」の問いに対し、「そう思う」と答えた人の割合が最低となっている(46.6%)。その理由として、職場や地域の子育て環境に関する評価が、他国と比較し低くなっている。

 一方で、「子供を産んでも働き続けたい」という母親の割合は大きい。国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」(2015年)によると、“子供を1人産んでも働き続けている”女性は53.1%と過半数以上だ。

そこで、出産後も仕事を継続しやすい環境を整えるべく、政府は幼児教育・保育の無償化や待機児童対策を推進する一方で、託児しての勤務と育児休暇のいわば中間に位置するような多様な働き方を後押ししようとしている。その1つが子連れ出勤の支援だ。

宮腰大臣が視察した「子連れ出勤」
宮腰大臣が15日に視察した茨城県つくば市の授乳服メーカー「モーハウス」では、NPO法人「子連れスタイル推進協会」の代表も兼ねる光畑由佳氏の発案で、職場での子育てと仕事の両立を図る「子連れ出勤」に20年以上前から取り組んできた。

私は宮腰大臣の視察に同行取材したが、随行員やカメラマンなど15人以上が部屋に入ったにもかかわらず、乳児らは泣くこともなく、母親のもとで落ち着いていたことに驚いた。「子連れ出勤」のイメージは事前には想像つかなかったが、写真の通り、母親らは乳児をおんぶ・抱っこしながら、通常と変わらぬ様子で仕事をしていた。


オフィスの視察後、宮腰大臣が光畑氏や実際に子連れ出勤をしている母親らと意見交換を行ったところ、次のような意見が出た。

「初めての出産・子育てだが、仕事しながら先輩ママの同僚が相談に乗ってくれるのは心強い」
「保育園に入れないから子連れしているわけではない。家事育児だけやっていると孤独感があったが、今は会社で人と接する中で自信を持った」
「会社としては女性社員が育児に入ることで貴重な戦力を失うリスクがあったが、子連れ出勤を導入してからその心配がなくなった」


宮腰大臣も「子連れ出勤」後押しを明言
また、代表の光畑氏は子連れ出勤について「ゲージやベッドなどの設備が全くいらないので導入のハードルが低い。ノウハウさえあれば良い」と強調し、「大企業や東京の企業でないと(子持ちで)働けないというわけではない」とメリットを訴えた。

これに対し宮腰大臣は「仕事と子育ての両立」ではなく「仕事『も』子育て『も』できる」ことが理想だろうと応え、「お母さんが仕事しながらも子供さんと常時接していると、これは子供さんにとっては何よりのプレゼントだ。人手不足という状況の中で、女性が働きやすい、子供を産み育てやすい環境を作っていくことは、これからの企業の戦略にとっても重要ではないか」と述べた。また男性の子連れ出勤も推進していく姿勢を示した。

そのうえで宮腰大臣は、子連れ出勤に取り組む自治体への推進交付金の補助率を、来年度に2分の1から3分の2へと引き上げることを皮切りに、全国への広がりを見ながら政府として、「子連れ出勤」推進を後押ししていく考えを示した。


「子連れ出勤」推進に批判の声も
宮腰大臣の視察後、インターネットなどでは早くも一部で批判が噴出した。「子供が職場にいて仕事に集中できるわけがない」、「通勤ラッシュの中、赤ちゃんを連れて出勤しろというのか」、「まずは待機児童対策として保育園新設を」などという内容だ。確かに、子連れ出勤をすべての会社や部門に対して求めるのは無理があるだろう。

しかし、政府としては、そもそも一律に子連れ出勤を導入してほしいというわけではない。子連れ出勤が受け入れられるようなワークスタイルの職場であれば、初期投資不要でノウハウさえあれば導入できる仕組みであり、地方の企業や中小零細企業にとって特にメリットがあると言える。

宮腰大臣「子連れ出勤はあくまで選択肢」
宮腰大臣は18 日の会見で子連れ出勤について、幼児教育・保育無償化や待機児童対策を継続しつつ、あくまで選択肢の一つとして後押しすると説明した。

「子育てに優しく理解のある社会を目指した子連れ支援であり、その一つの例が子連れ出勤であります。子連れ出勤は企業それぞれのお考えや、子育て中の社員のみならず、周囲の社員の希望、地域の実情などを踏まえて行われるべきもので、あくまでも選択肢の一つとして捉えていただければと思っています。また、もとより母親だけを対象にしたり、政府や企業が強制するものではありません。こうした点を丁寧に説明していくとともに、関心を持っていただいた自治体の取り組みを後押ししたい」


宮腰少子化相の記者会見(1月18日)
政府は、結婚と子育ては連続しているとの観点から、結婚の希望をもつ若者や、子育て世代への支援を通じ、少子化対策を総合的に前進させていくことにしている。

一方で、こうした政策は前述の「子連れ出勤」のように、誤解されると思わぬハレーションを惹起しかねない。政府においては、様々な施策の積極的な展開と同時に、丁寧な説明が望まれる。

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