子連れ出勤を推奨する政府、「これならどこでもできる」に強い違和感

おんぶ紐を使うお母さんのイラスト
Wezzyさま
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自由民主党衆議院議員で内閣府特命担当大臣の宮腰光寛少子化担当相が今月15日、政府として「子連れ出勤」を後押しすると表明した。

宮越氏は15日、子連れ出勤を導入している授乳服メーカー・有限会社モーハウス(茨城県つくば市、光畑由佳社長)を視察。同社では現在、従業員47人中12人が子連れ出勤しているという。

子連れ出勤の説明を受け、従業員との意見交換を行った宮越氏は「赤ちゃんの顔が幸せそう。乳幼児は母親と一緒にいることが何よりも大事ではないかと思う」と語り、さらに視察後には「新しい施設を整備する必要がなく、企業の規模にかかわらず取り組むことができる。想像以上に『これなら、どこでもできるのではないか』と実感した」「この取り組みをモデルとして、全国へ広めていければと思う」と語ったという。

子育て中に限らず、個々の事情や状況や価値観に応じて、多様かつ柔軟なスタイルの働き方を認めること自体は、今、必要とされている。そういう意味では、「子連れ出勤」もひとつの選択肢ではある。保育園などの預け先が見つからない、仕事の時間帯が深夜または不規則、拘束時間が長いなど様々な理由で、「子連れ出勤」をしたい/するしかない、という状況は全国であるだろう。もちろんその場合の「子連れ出勤」対象者は母親ばかりでなく父親も同様だ。

少子高齢化が加速し労働力人口が不足していく一方で、待機児童問題が深刻な日本にとって、柔軟な働き方を「受け入れない」という選択肢はあり得ない。少子化や労働力不足でなかったとしても、労働者の権利という観点から柔軟な働き方が認められてほしいが。

ただ、宮腰氏は「母親といる赤ちゃんの顔は幸せそう」というが、これは三歳児神話や母性神話を強化する発言であり頷けない。保育士などプロの保育者が預かる場合であっても、赤ちゃんは不幸ではないのだから。

そしてそれ以上に、「想像以上に『これなら、どこでもできるのではないか』と実感」したとの感想には強い違和感を表明したい。子連れで出来る仕事もあるだろうが、出来ない仕事もたくさんある。後者は職場環境を整えれば解決するという問題でもない。子供が傍にいる状況では集中してこなせない業務もあり、子連れ出勤を歓迎されたものの結果的に単純作業しかできずマミートラックにはまってしまう……という事態が容易に予想できてしまう。


また、都市部の満員電車が典型的だが、乳幼児を連れて職場に向かう行為自体、危険と負担を伴う場合だってある。子連れ出勤を受け入れる職場は、乳幼児が快適に過ごせるよう最低限の環境を整えなければならず、衛生や安全にも配慮しなければならないだろう。子連れ出勤者は、勤務中に授乳やオムツ換え、月齢によっては離乳食を与え、泣き始めたら外に連れ出さざるを得ないかもしれないし、出勤時の荷物もかさばる。

宮越氏が想定する「子連れ出勤」の乳幼児が何歳までを指すのかはわからないが、月齢が上がるほど赤ちゃんの体重は増え、動きも激しくなり、ベビーベッドやバウンサーに乗せっぱなしにしておくわけにもいかなくなり、抱っこしていてもあらゆるものに触れたがり口に入れたがる。

会社員をはじめとする被雇用者は、労働基準法において、産前6週間~産後8週間に産前産後休業、それ以降は子が1歳に達するまでの間に育児休業を取得することができる。もし日本中のすべての会社で、産前産後休業および子が1歳に達するまでの育児休業の取得率が100%ならば、そして待機児童問題などなければ、極端な話「子連れ出勤」は不要だ。

むしろ必要なのは、安心して預けられる保育園の0歳児クラスの拡充ではないか(その年の4月1日時点で「0歳」の子が0歳児クラスに入り、翌年4月1日までに1歳の誕生日を迎える。よって、年度途中で1歳の誕生日を迎えて保護者の育休が終わり、0歳児クラスに入園することが考えられる)。

現状では、認可保育園でも比較的入りやすいとされている0歳児クラスに子どもを入園させるため(あるいは落選を狙っていたが入園できたため)、育休を早めに切り上げて仕事復帰する人もいるわけだが、政府が「子連れ出勤」を後押しすることで、本来ならば子が1歳に達するまで取得できる育児休業を「早めに切り上げる」「そもそも取得しない」ことを職場から求められる可能性も出てきかねない。安易に推進できるような働き方ではないだろう。

子連れ出勤は結局、「仕事しながら育児する」状況。それよりも保育士の待遇改善を含めた保育環境の整備が先ではないのか。子連れ出勤の後押しとして対応企業に補助金を出すなどすれば、保育環境の整備よりは行政の負担が少なく安上がりかもしれないが、待機児童や人手不足の問題を企業や個人で解決するよう求めるとしたら本末転倒だ。

朝日新聞によると「子連れ出勤」を後押しする考えを表明した宮越氏は、〈自治体向けの地域少子化対策重点推進交付金の中で新たに重点課題と位置づけ、補助率を従来の2分の1から3分の2に引き上げる方針〉〈子連れ出勤など、子育てと仕事の両立を図る職場環境づくりを広めるため、自治体がモデル事業をする時の費用やその成果を普及啓発する事業などを対象に補助率を引き上げる〉とのこと。内閣府は2018年度2次補正予算案で、同交付金を16億円計上しており、そのうちの一部を充てる考えだというが、「子連れ出勤」を推し進めることによって少子化は解消するのだろうか。

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