学童保育の基準緩和/子どもの安全を守れるのか

学童保育のイラスト
河北新報さま
------------------------------------------------------------------------------------------------

子どもたちの安全と保護者の安心が保てるのかどうか心もとない。
共働きやひとり親家庭の小学生が通う放課後児童クラブ(学童保育)について、政府は職員の配置基準や資格要件を緩和すると決めた。関連法案を28日召集の通常国会に提出する。
現行の基準は全国一律で、1カ所につき職員2人以上の配置を義務付けている。そのうち1人は保育士や教員免許などを持つ人で、かつ、専門研修を受けた「放課後児童支援員」と定める。
政府はこれを拘束力のない「参考基準」に改め、各自治体の裁量に委ねるとした。基準緩和というが、事実上の基準撤廃と言える。
全国一律の基準がなくなれば、自治体の裁量により、保育士などの資格がなく研修も受けていない人が、1人で多くの子どもを預かることも可能になる。
「保育の質の低下を招く恐れがある」「1人では目が届かず、事故につながるのではないか」。関係者や保護者からそんな危惧や不安の声が上がるのは当然だろう。市町村の間で、学童保育の質に格差が広がりかねない。
そもそも現行基準は2015年、子どもの安全確保を目的に、厚生労働省の専門委員会の議論を踏まえて省令で制定された。従来は市町村でばらつきがあった学童保育の運営について、全国一律の最低ラインとした基準だ。
それがわずか4年で緩和される背景には、人手不足で待機児童の解消に悩む地方の実情がある。
全国町村会などが、支援員の人材不足で基準を満たせないとして見直しを要望。利用児童の少ない地域や時間帯もあり、自治体の裁量拡大を求めていた。
確かに、地域の実情に即した運営を求める地方の訴えは理解できる。だが、子どもの安全を損なうような基準緩和であってはならない。
基準緩和に関しては、内閣府の地方分権改革有識者会議で了承された。子どもの人権や福祉を考慮した基準が、地方の在り方を議論する中で変更されてしまう。その過程にも首をかしげざるを得ない。
学童保育の利用児童数は共働き世帯の増加などで上昇の一途をたどり、全国で121万人を超す。待機児童は約1万7000人に上る。潜在的な待機児童も多いとされ、子どもの小学校入学で母親らが離職を余儀なくされる「小1の壁」とも言われる。
政府は23年度までに定員を30万人拡大する計画だが、量だけでなく質の充実も求められよう。
もともとは基準の設定に伴い、低賃金や不安定な雇用が指摘される職員の地位向上、なり手の増加が期待された。政府は支援員の資格要件を緩和する前に、支援員の処遇を改善し、人材確保を目指すのが先ではないだろうか。


------------------------------------------------------------------------------------------------