社会保障 「全世代型」への道筋を明確に

おじいちゃんのイラスト「おじいちゃんと孫」
読売新聞さま
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◆負担増と給付減は避けられない◆

人口減と超高齢化の進展に対応すべく、全世代で支え合う社会保障制度に転換する。その実現に向けて、確固とした道筋をつけられるかどうかが問われる1年である。

「人生100年時代」を迎え、誰もができるだけ長く働いて支え手に回れる環境を整えつつ、子育て期などの現役世代も含めて幅広い世代の暮らしを支える。安倍首相は、3年間での「全世代型社会保障」への改革断行を掲げる。

持続可能な制度の具体像を明示し、国民の将来不安を払拭ふっしょくすることが重要だ。社会保障財源を確保する10月の消費増税への理解を得る上でも欠かせない。

◆40年見据えた議論急げ

2018年の出生数は推計92万人だった。2年前に100万人を割り込んでから、急速に減っている。このままでは、総人口が今の1億2700万人から65年には8800万人まで減る。高齢化率は28%超から4割近くに高まる。

社会保障・税一体改革は団塊の世代が75歳以上になる25年に備えたものだ。だが、人口構造の激変はむしろ、その後だ。

40年には高齢者人口がピークに達する一方、現役世代の減少が加速化する。社会保障給付費の国内総生産(GDP)に対する比率は、現在の21・5%から24%に上昇する。これをどう賄うか。あるいは削り込むのか。

40年を見据え、消費税率10%の先の議論を急ぐ必要がある。

政府は高齢者の雇用拡大や疾病予防・健康作りを当面の重点施策に挙げる。必要性に異論はないが、負担増や給付減を先送りしていては、制度の安定は望めまい。

◆医療・介護改革推進を

最大の課題は、急増する医療・介護ニーズへの対応だ。

手術や救急を担う高コストの急性期病床は絞り込み、退院支援を受け持つ回復期病床を増やす。在宅医療の充実と介護との連携強化で、高齢者が自宅で安心して暮らせるようにする。

高齢社会のニーズに合った効率的な体制の構築によって、費用の膨張抑制と質の高いサービスの確保を両立させねばならない。

この方向に沿って、都道府県では、将来の医療需要を踏まえた地域医療構想を策定し、体制整備を進めている。医療機関などと協議して病床の転換や削減を図る。

気がかりなのは、構想の具体化のペースが遅いことだ。医療機関との間で病床再編の合意ができたのは、一部にとどまる。都道府県の権限強化など、実効性を持たせる方策を検討すべきだろう。

外来医療のコントロールも課題だ。患者が自由に受診先を選べる「フリーアクセス」にはメリットもあるが、大病院集中などを招いている。診察・検査を重ねるほど医療機関の収入が増える「出来高払い」も医療費膨張の一因だ。

年金制度では今年、5年に1度の財政検証が行われ、20年の制度改正へ議論が進む。前回改正の積み残しを解決したい。

まず、少子高齢化の進行に応じて給付水準を引き下げる「マクロ経済スライド」の強化である。デフレ下での実施を制限するルールがあるため、抑制が進まず、給付水準が高止まりしている。

現行制度は保険料水準を固定した上で、長期的に財源の範囲内で給付する。抑制が遅れれば、将来世代の給付財源が今の高齢者に回り、将来の年金水準がより下がる。制限撤廃が急務だ。

非正規労働者らの老後不安を軽減するため、厚生年金の適用拡大も、さらに進める必要がある。

政府は、高齢者雇用を促す観点から、受給開始年齢の選択幅を75歳にまで広げる方針だ。受給を遅らせるほど年金額が増える。給付水準の低下を補う有効な手段となり得る。基礎年金の保険料納付期間の延長も検討に値しよう。

◆均衡を欠く保育無償化

「全世代型」の一環として、幼児教育・保育の無償化が10月にスタートする。3~5歳児と低所得世帯の0~2歳児が対象だ。

保育料などは既に所得に応じて減免されており、恩恵は高所得層に偏る。子育て世帯の負担軽減策としてバランスを欠く。所得制限の導入を求めたい。

子育て世代のより切実な願いは、待機児童の解消と保育の質の向上である。無償化に財源を取られ、疎おろそかになってはならない。

働き方改革は道半ばだ。労働力人口が減る中、多様な人材が活躍できる職場作りは欠かせない。

残業の上限規制が柱の改正労働基準法が4月に施行される。仕事と家庭の両立を阻む長時間労働の是正につなげることが肝要だ。

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