社説 幼保無償化閣議決定 政策の優先順序が間違っている

政治家のイラスト「記者会見・国会答弁」
愛媛新聞Online
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幼児教育・保育の無償化を実施するための子ども・子育て支援法改正案が閣議決定された。

安倍晋三首相が2017年秋の衆院選の目玉公約として突如発表し、議論を深めないまま法案を提出。消費税増税に合わせ今年10月導入を目指すが、突貫工事で描いた制度は欠陥だらけで、現場の混乱や「保育の質」確保に懸念が尽きない。問題一つ一つに冷静に向き合い、制度設計を見直すことが不可欠だ。国会での徹底審議を求める。

「小学校、中学校9年間の普通教育無償化以来、70年ぶりの大改革だ。産み、育てやすい国へと大きく転換していく」。安倍首相は衆院予算委員会で看板政策を自画自賛した。子育て支援が重要なことは言うまでもない。だが、無償化で本当に「産み、育てやすい国」になるのかは甚だ疑わしい。

恩恵を受けるはずの利用者からも批判が上がる。無償でも預けられる保証がないからだ。今春の認可保育所の入園可否通知が届く現在、会員制交流サイトには「保育園落ちた」の書き込みがあふれる。希望しても認可保育所などに入れない待機児童は昨年4月時点で約2万人。就労断念を余儀なくされる例もあり、切実さは想像に余りある。

政府は認可施設に入れなかった際の救済措置として、施設面積や保育士の数が国の基準を満たさない認可外施設でも5年間費用を補助するという。認可外は認可保育所に比べ死亡事故が多いとの国の調査結果がある。財政負担を迫られた全国市長会が「子どもの安全に責任が持てない」と強く反発するのも当然だ。安倍首相は、野党の追及に「質の確保、向上を図る」と答えたが、具体策は示さず無責任と言わざるを得ない。国による保育所の安全確保は無償化の前提条件として決して譲れない。

無償化には受け入れ側の反発も根強い。保育士の就職支援サイト運営企業の昨秋の調査によると、保育士と幼稚園教諭の約7割が反対している。深刻な保育士不足にもかかわらず、需要を掘り起こして利用が増え、負担がさらに増加、対応できずに「保育の質」が低下する―との心配からだ。

保育士の平均年収は全産業平均を約150万円下回る。情熱を持って就職しても、重い負担と処遇の悪さに疲弊し、離職に追い込まれる。長年指摘されつつ改善されないこの問題の抜本解決が先決だ。第一に考えるべき子どもの安全や健やかな育ちの後回しは、容認できない。

誰のための無償化か、原点に戻る必要がある。このままでは統一地方選や参院選をにらんだばらまきで終わりかねない。

幼保無償化は生活保護世帯では既に導入されている。所得に比例して高くなる利用料を一律に無償化すれば、高所得者ほど恩恵を受ける。安心な環境を整備してから経済支援を拡大する方法もあろう。統計不正で国会が混迷する中、うやむやに見切り発車することは許されない。

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