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大阪市が4月以降、保育士に新規採用された大阪府外出身者に新手のプレゼントをする。大阪市此花区の人気テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」の年間パスに相当する金額を給付する。深刻な保育士不足の解消を狙う奇策だ。しかし、こんなことで人材が集まるのか。
「USJでも吉本新喜劇でもなんでもいいんですよ」
「USJでも吉本新喜劇でもなんでもいいんですよ。『大阪市で保育士になってくれてありがとう』という気持ちなので。まあ、吉本に年間パスがあるかどうか知りませんが…」
市保育企画課の赤本勇課長は、2019年度予算に盛り込む「保育士ウェルカム事業」に込める思いをこう説明する。
対象となるのは、大阪府外から来た保育士のみで、1人当たり2万5000円を2年間支給。その他、お盆と正月、年2回の帰省費として近畿圏外出身者には6万円、同圏内出身者には2万円を補助する。別にパスを買わなくても、帰省しなかったとしても、もらえる。
高い若手の離職率 他の自治体と”引き抜き合戦”
年間パスをどう思うか。市は、府外の保育士養成学校の生徒に聞き取りした。「そういうのがあれば大阪市を選ぶポイントになると思う」。歓迎の声があり、事業を創設した。
背景には深刻な保育士不足がある。大阪府内の保育士の有効求人倍率(18年1月時点)は5.13倍。全国平均の3.38倍を大きく上回り、府内出身者だけでまかなうのは難しい。そこで、府外から連れてこよう、というわけだ。
さらに、若手保育士の離職率の高さが人手不足に拍車をかけている。
大阪市では17年度に約350人いた1年目の保育士が、翌年度には約250人に減った。「他の自治体との引き抜き合戦が激しいことに加え、現実に職に就くと、仕事がつらいと感じる若手が多いようだ。この2つが主な原因になっている」(赤本課長)
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大勢の入場者でにぎわうユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)。年間パス欲しさに府外の保育士がどれだけ集まるのか=大阪市で
透ける本音「できるだけカネはかけたくない」
それなら、給与や休暇など、保育士全体の待遇面で他の自治体を上回る条件を提示するのが筋のはず。そうでなく、なぜ奇策に走るのか。
赤本課長は「市内の保育士約7000人の給料を1人1万円上げた場合、約7億円に上る。他の施策にしわ寄せがいってしまう」と説明する。吉村洋文市長も「給料で補填(ほてん)するには限界があり、歓迎の気持ちを示すことが重要」と述べる。
言葉はきれいでも、要するに「保育士不足の解決にできるだけカネはかけたくない」との本音が透ける。
「話題作りより、引き抜かれる理由の分析を」
帝塚山学院大の薬師院仁志教授(現代社会論)は「やるべきことはUSJを使った話題作りじゃない」と切り捨て、「真っ先に取り組まないといけないのは、なぜ他の自治体に保育士が引き抜かれていくのか、具体的にどこにギャップを感じているのかを分析し、それに対処していくこと」と指摘する。
吉村市長と言えば昨年8月、全国学力テストの成績を校長・教員のボーナスや学校予算に反映させる方針を打ち出した。
同市の成績が政令指定都市で2年連続の最下位だったからだ。この方針には教育関係者から痛烈な批判が相次いだ。当時の林芳正文部科学相も慎重な判断を求めた。
薬師院氏は「保育士確保と成績向上、どちらも発想が安直で、単に頑張っているとアピールしたいだけ。『維新政治』の弊害で役所ではトップダウンが進み、指示待ち人間が増えていると聞く。これでは、状況を打開するような政策が生まれてくるわけがない」と警鐘を鳴らす。
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