学童保育の要件、わずか4年で事実上の撤廃 児童福祉の専門家入れず議論、「不透明」と批判も

円陣を組んでいるイラスト
ヤフーニュース様
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国が定める放課後児童クラブ(学童保育)の職員数や資格要件を事実上撤廃する動きに、関係者から批判の声が上がっている。国の動きは全国知事会などの要請に応えた形だが、議論の主眼は地方に裁量を委ねる「地方分権改革」に置かれ、学童保育の「質」を重視した根本的な検討には踏み込まなかった。児童の健全育成を目的に設けられた全国一律の基準がわずか4年で事実上撤廃される背景には、強引に議論を進めて成果を出そうとする政府の姿勢も垣間見える。


「人材確保がまず先決」
厚生労働省は保育の受け皿拡大と質の向上を目的に、2015年度に施行した「子ども・子育て新制度」に合わせ、学童保育の運営に関する全国一律の「従うべき基準」を省令で定めた。
具体的には、保育士や社会福祉士などの資格を持ち、都道府県が実施する研修を受講した職員を1教室(児童40人程度)ごとに2人以上置くことを義務付けた。
これに対し、全国知事会など地方3団体は「人材確保が困難」などとして反発している。内閣府の地方分権改革有識者会議に職員数や資格要件について廃止を含む抜本的な見直しを要望していた。政府は昨年11月、有識者会議の意見を踏まえて現行の基準を「従うべき」から「参酌すべき(参考にすべき)」に変更することを決定した。通常国会で改正児童福祉法が成立すれば、市町村が基準に従う義務はなくなり、職員数などは市町村の判断に委ねられることになる。
関係者は議論の不透明さを指摘する。
「この会議では、学童保育の基準に関する議論は行わないでほしい」。17年末、放課後児童対策に関する専門委員会の柏女霊峰委員長は同委事務局の職員にこう言われたという。
同委は厚生労働省の社会保障審議会に属し、専門家の見地から放課後児童対策について検討する重要な場だ。政府は基準の参酌化について「地方分権の協議の場で議論する」としており、実際に協議は地方分権改革有識者会議の部会で行われた。
ところが部会のメンバーは法律や地方自治の専門家ばかりで、児童福祉の専門家は一人もいなかった。議論の内容も専門的な見地に踏み込んだとは到底言えず、地方での人材確保が難しいことなどを理由に基準の廃止や緩和を厚労省に厳しく迫る場面が目立った。
現行の「従うべき基準」の制度設計を担った柏女委員長は、「従うべき基準としたのは、児童の健全育成と安全性、職員の労働環境の改善の三つの理由によるものだ。根本的な議論をせずに参酌化を決めたとしたらあり得ない話だ」と指摘する。別の委員も「まずは国が人材確保策を打ち出すことが先決ではないか。人材が不足している地域には特例を認めるなどの対応をとるべきで、一律に制度を後退させるのは本末転倒だ」と批判している。

虐待防止など高まる役割
国が2015年に学童保育の職員数や資格要件を「従うべき基準」として定めたのは、学童保育が単に児童を預かるだけではなく、異学年との交流を通じた健全育成や安全性の確保といった役割も持っているためだ。近年は児童虐待への対応など福祉面での重要性も増しており、基準の「参酌化」はこうした取り組みを後退させる恐れがある。
「今日もお父さんにたたかれた」。京都市内の児童館で学童保育を利用する男子児童の告白に、運営者の男性はため息をついた。
児童は父親から頻繁に暴力を振るわれ、体にあざができたこともあった。男児が通う小学校や児童相談所と連絡を取り合っているが、現時点では一時保護まで至っていない。学童保育の職員は男児の様子を注意深く見守りながら、両親との話し合いを重ねている。
身体的虐待や育児放棄(ネグレクト)などの事案は、この施設に限ったことではない。市児童館学童連盟の國重晴彦常務理事は「問題を抱えた親子と適切な距離を保ちながら、継続的に見守っていくことが欠かせない」と学童保育の役割を強調する。
学童保育は学校とは違い、子どもたちが宿題や遊びなどに自主的に取り組み、豊かな放課後生活を過ごすことに主眼が置かれている。地域社会のつながりが希薄化する中、お年寄りとの交流など地域の拠点としての役割も期待される。國重常務理事は「学童保育の役割はますます高まっている。政府の方針は残念だし、われわれももっと必要性をPRしなければならない」と話している。

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