幼少児教育を重視しよう/日本経済新聞社参与 吉村久夫 企業家倶楽部2019年4月号 教育への挑戦~新しい日本人を求めて~ vol.18

英才教育のイラスト
起業家クラブさま
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吉村久夫(よしむら・ひさお)


1935 年生まれ。1958年、早大一文卒、日本経済新聞社入社。ニューヨーク特派員、日経ビジネス編集長などを経て1998年、日経BP社社長。現在日本経済新聞社参与。著書に「本田宗一郎、井深大に学ぶ現場力」「歴史は挑戦の記録」「鎌倉燃ゆ」など。



幼少児の学習能力

幼少児の学習能力は大人が思うより、遥かに高いようです。大人はふつう、小学校から英語やプログラミングを習得させるのは早過ぎるのではないか、と考えます。


もちろん、まずは読み書きソロバンが大事ですが、子供たちは同時並行的に英語もプログラミングも覚えてしまうものです。後期高齢者の老人たちも、戦前の軍歌や流行歌をいまでも歌えるはずです。


幼少児にとっても、アクティブ・ラーニングやインターンシップは大事です。十分理解できなくても、幼少児も自分たちで学習したり、異質の経験をすることが良い勉強になるのです。


今日の子供たちは昔の子供たちに比べて失業しています。お使いも、子守も、家事の手伝いもしません。それに核家族です。群れて遊ぶこともしません。大人たちが自習、実習の機会を奪っているのです。



子供が先生になる

ここに園児の一人が「整列、番号」と号令を掛ける幼稚園があります。交代で当番が回ってくるのです。体育だけではありません。字を覚えるのも園児が交代で先生役を務めるのです。


こういう幼児教育活動を請け負って指導している株式会社があります。社名は「幼児活動研究会」と言います。1972年の創業で、すでに株式を東証のジャスダックに公開しています。


代表取締役は山下孝一氏です。1946年の福井県生まれで、法政大学を卒業して幼稚園、保育園の経営コンサルタントをやって来ました。2016年に本誌の企業家倶楽部から「企業家賞」を受賞しています。


同社の主な事業は契約した保育園や幼稚園の体育としつけの指導です。読み書きソロバンのいわゆる基礎学習も手伝います。同社の幼児教育法は父兄たちに大歓迎されています。


事業が拡大して、今では直営の幼稚園も持ち、指導内容も教育全般に及ぼうとしています。同社の支部も全国に55を数え、社員数も約500名にまでなりました。収益も順調のようです。だから株式の公開が出来たのです。


山下氏は「子供はみんなできる」と言います。幼少児の能力は井深大氏が見抜いたように、大人が思うよりもはるかに高いのです。それに、子供たちの明るい反応、目の輝きが山下氏を魅了するのです。


幼児活動研究会は社員の教育に力を入れています。子供を育てる前に社員を育てるという方針です。子供は先生次第です。株式を公開したのも、社員の自覚を促すためでした。


子供が先生になる

昔に劣る幼少児教育

江戸時代は今よりもずっと貧しかったのですが、幼少児教育の環境は今よりもずっと充実していたように思います。まず核家族ではありませんでした。母親は外勤ではありませんでした。


祖父母や両親はしつけを受けており、子供たちの教育に熱心でした。それに、子供たちの仕事はいろいろあって、実習をすることができました。加えて寺子屋や藩の児童教育も盛んでした。


こう考えると、今の子供たちの教育環境は貧しいともいえます。確かに親は教育熱心ですし、各種の塾も盛んです。しかし、社会が全体として、子供の教育に親身になっているのかどうか、一抹の不安を抱かざるをえません。


しかし、世の中はよくしたもので、幼児活動研究会のような独自の教育会社が育ってきています。需要のあるところビジネスありです。それに昨今では、地域ぐるみで子育てをしようという「コミュニティスクール」も増えてきました。


これは学校と地域のボランティアが協同して子供の教育に当たろうというもので、すでに小中学校の15%が導入していると言います。核家族化で失われた子供の教育環境を補完する社会環境作りです。


それに今日では有力な武器が登場して来ています。それはパソコン、スマホといった情報端末機器の充実、普及です。子供たちはこれらの情報端末に大きな興味を持っています。


そこへ来て、AI(人工知能)が実用化されて来ました。やがてAIロボットが幼少児の遊び相手になったり、学校ごっこの先生になったりするようになるでしょう。



大人の縄張りは迷惑

ところで、肝心の政府の方はどうなっているのでしょう。たしかに、政府は保育所の充実を約束して、その実現に大童です。しかし、幼少児教育制度そのものは迷走しています。


幼児教育機関には幼稚園と保育所があります。幼稚園は3歳児から入れます。保育所は乳幼児から入れます。一時統合する案も出ましたが、結局、実現しませんでした。


担当している役所が違うのです。幼稚園は文科省です。保育所は厚生労働省です。これでは一本化は難しいでしょう。役所の縄張り争いが、幼少児教育の充実を妨げているのです。


しかし、幼少児は一緒です。入れる年齢が違うだけです。なんとか一本化する方向で幼児教育の充実を図るわけにはいかないでしょうか。幸い、厚生労働省の再分割構想が出てきました。


官庁再編成の問題はともかく、私は幼稚園の入園年齢を2歳に繰り下げてはどうかと思います。保育所も兼営してはどうでしょう。私は元々、小学校の入学年齢を1年繰り下げて5歳にすべきだと考えています。


今の5歳児は昔に比べ心身共に成長しています。成人年齢も2歳繰り下がりました。この機会に、小中高の6・3・3制度も見直したらどうかと思うのです。


そして同時に、小中高の役割ももっと明確なものに見直しましょう。そうすれば課目の重複も無くなるでしょう。一貫教育もいろいろな組み合わせが出来るようになると思います。


大人たちの縄張り争いが子供たちのあるべき教育制度への改革を阻害しているとすれば、それは本末転倒もいいところです。大人たちは厳しく自己反省すべきです。

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