企業型保育所 質を伴ってこその受け皿

ヘッドスピンのイラスト(ダンス)
信毎Webさま
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急ごしらえの制度が空回りしている。

会計検査院が、企業主導型保育所で大幅な定員割れが生じているとし、所管する内閣府に改善を求めた。

保育士の配置基準が緩く、多額の助成金を得られるため各地で整備が進む。地域の保育需要とかみ合わないずさんな運用実態が明らかになっている。

政府は近く改善策をまとめる。保育の受け皿として機能させるには、数ありきでなく、質の向上に目を向けなくてはならない。

企業が主に従業員向けに運営する企業型保育所は、安倍晋三政権が待機児童対策の切り札として、2016年度に創設した。

市町村の認可が必要な「事業所内保育」とは異なる認可外施設ながら、国が整備費の4分の3を補助する。一定の基準を満たせば運営費でも認可施設と同等の助成金を受け取れる。

税制の優遇措置もあり、企業が次々と手を挙げた。18年3月末時点で2597カ所が助成決定を受け、定員は6万人に上った。政府はさらに推進する構えでいる。

企業型保育所は従業員以外の子も預かることができ、対象年齢の制限もない。勤務形態に合わせて夜間や休日も開く施設があり、一定の需要を満たしている。

一方、待機児童のいない自治体で開設が相次いだり、計画の甘さから開所早々に倒産したりといった問題が続発している。助成金の不正受給事件も起きた。国の調査によると、実際の利用割合は定員の6割にとどまっている。

助成金の実務を扱う公益財団法人「児童育成協会」の体制に不備があり、野放図な運用を許す要因になった。あきれたことに、内閣府自体が昨年末まで、企業型保育所を直接監査できる権限があることを認識していなかった。

内閣府が設けた有識者検討委員会が、保育事業者に対する指導監査の強化、新設審査の厳格化、自治体との連携などを盛った改善案をまとめている。政府は児童育成協会に代わる制度運用の委託先機関の公募も始めた。

企業型保育所が「認可保育所から漏れた子の受け皿」の範囲を出ないのでは不十分だ。市町村の保育事業計画と擦り合わせて効果的に設置するとともに、保育の質を高めて保護者の選択肢となり得る運営を目指してもらいたい。

保育士の月給は全産業の平均に比べて低い。やみくもに受け皿を増やすのではなく、不足する保育士の処遇改善に財源を振り向けることも検討すべきだ。


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