待機児童、受け入れ拡大と保育士確保急ぐ(千葉vs埼玉)

千葉県のキャラクター
日本経済新聞さま
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埼玉県と千葉県の都市部には、都内通勤の利便性などにひかれて転入する若い世帯が多い。地域に活力は生まれる一方、頭を抱えるのが保育サービスの供給だ。受け皿作りを急ぐが需要に追いつかず、両県の待機児童は1000人以上。保育人材の流出も課題だ。給与加算での争奪戦は際限がなく、保育士が抱える悩みに応える細やかな支援など、財政支援に頼らない方策が求められる。

■松戸市、4年連続ゼロ達成

千葉県全体の待機児童数は約1400人(2018年4月1日時点)。都内への通勤に便利な北西部を中心に、保育需要は増え続けている。千葉市幕張地区で三井不動産レジデンシャルなどが開発中の大規模マンション群「幕張ベイパーク」。1棟目に併設された認可保育園では、住民が優先的に入園できる制度が適用された。市によると、4月1日に入園した57人のうち9割が住民だという。

松戸市は駅ビル内に保育所を整備、利便性を高める(新京成元山駅)

「大規模なマンション開発に伴って局地的に保育需要が高まる」(市幼保支援課)との懸念から、市は18年10月、500戸以上のマンション付近に認可保育園を整備する場合、住民を優先的に入園させる制度を新設。同社担当者も「購入者のメリットになるため保育所を設置しやすくなる」と歓迎する。

待機児童数が18年まで3年連続で県内最多だった市川市も、受け入れ施設の整備を加速させる。17年度からは本八幡駅や市川駅周辺など人口流入が多いエリアを重点地域に定め、事業者への補助金を上乗せする制度を開始。1年間で20カ所、934人分を増やした。19年度も増築を含め15カ所の保育施設を整備し、803人分の受け入れ枠を確保する計画だ。

待機児童をいち早く解消しているのは松戸市だ。市によると19年4月1日時点の待機児童もゼロとなり、4年連続で達成。特に待機児童数の多い0~2歳の受け入れ枠を迅速に増やすため空き店舗など民間施設を活用した小規模保育所の整備を進め、17年夏までに市内全23駅の駅前や駅構内に小規模保育所を設置した。

3歳以降は定員に余裕のある幼稚園への入園も促すため、預かり時間を延長する幼稚園を増やし預かり保育料も助成する。「時間面でも費用面でも保育園との差をなくし保護者が選択できるようにする」(市保育課)のがねらい。安心して子育てができる環境づくりは、若い世代を呼び込む上で不可欠だ。施設整備だけに頼らない柔軟な対策が求められる。

■戸田市、保育士定着を支援

埼玉県の待機児童数は首都圏で東京都に次いで2番目に多い1552人(2018年4月1日時点)。県内最多のさいたま市は19年度、保育所などの利用定員を約1200人増やす。私立幼稚園の預かり保育利用料を一部補助する新制度も設け、子どもの預け先の選択肢を増やす。

戸田市は若手保育士が悩みや理想の保育士像を話せる会を開き、やる気維持に役立てる
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戸田市は若手保育士が悩みや理想の保育士像を話せる会を開き、やる気維持に役立てる

市内ではマンション開発を背景に子育て世帯が増えているが、保育需要が高い駅周辺では土地確保すら難しい。市は大規模マンションの建設業者に子育て支援施設の併設協力を事前協議で求めている。ただ、認可保育園は居住者が利用できるとは限らない。整備促進には居住者の優先入園制度が効果的だが、マンション周辺の住民に不公平感が出る懸念もある。

受け皿不足と同時に深刻なのが、保育士の不足だ。埼玉県戸田市は18年夏、保育園や保育士養成校と共同で人材の確保・定着を目指すプロジェクトを立ち上げた。課題の共有や、合同面接会など解決案の実践にも取り組む。3月には若手保育士の交流会を企画。多忙な現場で過ごす保育士に悩みや目標を共有しながら、モチベーションの向上につなげてもらう狙いがある。参加者からは「保育士の魅力や大切さを再確認できた」などの声があった。

東京都とさいたま市に隣接する戸田市は、人材流出に悩んできた。同市は18年度、私立保育園の新規採用者向けに財政支援を拡充。就職支援金や賞与を合わせて、就職から2年間で最大70万円を支給する。市内の保育所は「面接希望者は増えた」と人材確保への施策効果を実感する一方「他地域とてんびんにかけ、渡り歩く人もいる」と行政の財政支援だけでは定着に至らないという声もある。

プロジェクトに参加する北戸田Jキッズステーションの飯川ひとみ園長は「処遇改善も大切だが、保育士という仕事の魅力、やりがいを知ってもらいたい」と訴える。地域一丸で「戸田保育」の魅力を発信する新たな取り組みに期待と熱意を込める。

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