夏休み、学童の昼食どうする? 食中毒も心配な季節


給食のイラスト「男の子と女の子」
朝日新聞DEGITAL
------------------------------------------------------------------------------------------------

全国のほとんどの小学校で、夏休みが始まります。今春、小学校に入学した娘は夏休みの間、毎日学童保育に通うことになります。保育園時代と大きく異なるのは、毎朝「お弁当」を用意する必要があることです。早起きして作らなければならない上、夏場は食中毒も心配です。ほとんどの学童は弁当の持参を求めていますが、学童の昼食はどうあるべきなのでしょう。

議論の広場「フォーラム」ページはこちら
早起きしておかず6品
 小学3年生の長女が学童に通う東京都内の公務員の女性(40)は、「夏の恒例行事」が今年も始まるといいます。

 朝6時に起きてご飯を炊き、20分ほどかけておかずを6品用意します。「冷凍食品を使うこともありますが、野菜の水分を拭き取る、練り物を入れるときはあぶるなど、特に食中毒対策に気を使います」

 学童には父母会などの組織はなく、親同士のつきあいはお迎えのときにあいさつを交わす程度。職場の同僚からは学童の宅配弁当を利用しているという話も聞きますが、そういう話題が出たことはなく、「どこに要望を出していいのかもわからず……。学童で給食やお弁当が出たらうれしいですが、長期休みの間は仕方がないとあきらめています」。

 東京都内のウェブデザイナー伊藤愛さん(34)は、小学5年生から0歳児まで6人の子育て中です。3年生の長女と2年生の次男が通う学童では父母会がとりまとめ、希望者に夏休み中の弁当の宅配を業者に依頼しています。

 注文書は夏休みが始まる約1カ月前に提出し、「お弁当係」に任命された保護者が集計。「自分でお弁当を作るとレパートリーも偏る。持ち物も軽くなり、弁当箱を洗う必要もありません」と喜びます。学童には週に1日の「レトルトデー」もあり、子どもが持参したレトルト食品を大鍋で温めてくれるそうです。

 弁当のキャンセルは1週間前まで、学童を欠席する場合は保護者が弁当を取りに行く、代金はまとめて夏休み明けに持って行くなどさまざまな取り決めがありますが、「宅配弁当なしの学童は考えられない」といいます。

スマホ注文 宅配サービスも
 親が自主的に業者に弁当を頼む際、ネックとなるのが注文や支払いのわずらわしさ。多くの場合、予定がはっきりしない数週間前に注文書を出さなければならず、学童側も注文状況の把握や集金などの手間がかかります。

 そんな中、企業への宅配弁当事業「シャショクラブ」を手がけるRETRY(東京)は昨年から、学童の利用者が個別に弁当を注文できるサービスを始めました。1食約500円で、保護者はスマホやパソコンから注文できます。複数のメニューから選べ、1~2日前まで申し込みやキャンセルが可能。配達される弁当には子どもの名前入りのシールが貼られ、学童側も管理がしやすいといいます。

 東京都葛飾区では昨夏から、全23カ所(現在は22カ所)の学童でこのサービスの利用を始めました。区の担当者によると、それまでも学童を通じて弁当を申し込むことができましたが、「メニューや量が子ども向けではない」など評判はいま一つでした。業者側も宅配に積極的でなく、他の業者を探しているときに、このサービスを立ち上げたRETRYの和田大地さん(34)と出会ったといいます。

 サービスは口コミで広がり、今夏は葛飾区のほか、文京区、千代田区など8区にある計約40カ所の学童でも利用が始まります。和田さんは「都内や千葉、大阪の学童からも要望があるが、応えられていない状況。子どもが安心して食べられる弁当業者がなかなか見つからないのがネックとなっている」と話します。

市内全施設で弁当提供
 一部の自治体では、希望する全ての子どもに昼食を用意する取り組みが始まっています。

 奈良市は昨年の夏休みから、市内43カ所の全学童で弁当の提供を始めました。夏休みの全期間を通じての昼食提供は全国初の取り組みといい、視察や問い合わせが相次いでいます。

 「夏休み中に昼食の提供をしてほしい」という保護者からの要望をきっかけに本当にニーズがあるのかを調査したところ、86%が「(制度があれば)利用する」と回答、弁当の希望価格は「350円」が最も多かったそうです。

 そこで市の担当者が市内の弁当業者を回り、「350円で弁当を作り、配達と容器の回収をする」という条件に応じられる業者7社を見つけました。市が1食あたり100円程度を負担し、保護者の負担は給食と同程度の250円としました。

 昨年の夏休みはお盆の3日間をのぞいた平日に弁当を提供。利用率は74%、延べ約5万6千食にのぼりました。9~10月に実施した保護者へのアンケートでは、計83%が「満足」「やや満足」「普通」と回答し、自由回答欄には「他の自治体のお母さんからはうらやましがられる」「家で弁当を作ると子どもの好きなものだけ入れてしまうので、バランス良く食べられる弁当になりうれしい」などの声が寄せられました。

 一方、利用する側の子どもたちからは「お友達と一緒に食事できて楽しかった」などの声があった一方で「ご飯の量が多い」「味が濃い」など賛否が分かれました。

 地域教育課の川端博章課長補佐は「夏休みには菓子パン一つという子もいたので、現場の負担は増えましたが、導入してよかった。他の自治体が導入するには、協力してくれる弁当業者を見つけられるかどうかが鍵だと思う」と話します。

 埼玉県越谷市では市内48カ所の学童で希望者に給食を出しています。夏休み中、市内3カ所の給食センターでは機材のメンテナンスなどが行われますが、現場の調理員らから「可能なら給食を提供したい」という声があがり、2006年から本格的に取り組み始めました。

 機材の入れ替えなどの状況によって提供できる日数は年により異なり、1日も提供できなかった年もありますが、今夏は計14日間提供する予定です。現在、学童には約3千人が通っており、約7割が利用するそうです。1食270円で、申し込みは約1カ月前。青少年課の藤城浩幸課長は「給食は温かい上、食べ慣れているメニューを提供できる。忙しく働く保護者への支援にもつながります」とメリットを話します。

 東京都八王子市も、今夏から試行的に2カ所で計5日間、給食を提供します。学校内の給食室でつくる場合などに限定されますが、来年度以降の運用拡大に向け、課題を確認したいといいます。

児童数急増 「あり方議論を」
 学童は全国に約2万5千カ所あります。全国学童保育連絡協議会によると、宅配弁当などを利用しているのは少数派で、9割以上は自宅から弁当を持参しているといいます。

 「昔から『お弁当作りが大変』という声はありましたが、働き方が多様化する中、近年は『お弁当作りが負担』というニュアンスに変わってきた」と佐藤愛子事務局次長。保護者の負担減は進めるべきですが、「成長期の子どもにとってどういう昼食が望ましいのか、という視点も必要です」と話します。

 学童は子どもたちにとっては「生活の場」です。「施設や職員の配置が十分なら、『みんなでカレーを作ろう』『コロッケをスーパーで買ってキャベツを千切りにしよう』などと、昼食も社会生活の経験の場になる。本来は、そういう場であるべきだと思います」。こうした取り組みがしにくい背景には、国の学童保育施策の貧弱さがあると佐藤さんは指摘します。

 保育園が1947年の児童福祉法で規定されたのに対し、学童が位置づけられたのは97年。厚生労働省が設備や運営に関する基準を設けたのは2014年になってからです。

 学童に通う子どもは計121万人。共働きの家庭が増え、保育園の「待機児童」が社会問題となる中、学童に通う子どももこの10年間で5割増と急増しています。佐藤さんは「学童保育の待機児童や大規模化も問題になっています。夏休み中のお弁当問題も含め、親が働きやすい環境をどう整備すべきか、子どもたちが安心して過ごせる施設や人員はどうあるべきかなど、学童のあり方に関する議論が必要です」と話します。

「母が手作り」 社会の重圧 翻訳家・佐光紀子さん
 特に母親が弁当作りをつらいと思う理由について、「『家事のしすぎ』が日本を滅ぼす」を著した翻訳家の佐光(さこう)紀子さん(57)は、「母親が手作りをしなければならないという刷り込みや社会のプレッシャーがあるからだ」と指摘します。

 高度成長期、優秀な労働力を育てることが、企業戦士の妻の仕事とされ、母親が子どもの食生活の責任も負うようになりました。さらに、2006年に始まった国の「早寝早起き朝ごはん運動」で、「朝食を食べた子の成績が良い」などと情報発信されていることもプレッシャーになっているとみています。

 フランスに5年間留学していた佐光さんの長女真結子さん(22)によると、フランスでは昼食時間が長いため、食堂で食べることが多く、親が作った弁当を持っていくという考え方がないそうです。「何を食べるか、誰が作ったかより、食事中のコミュニケーションが大切にされている」と話します。

 佐光さんは「学童保育では、異年齢の友達と一緒に食べられるという良さがある。親に作らせるばかりでなく、冷凍ピザを解凍して、みんなで食べる日などがあってもいいのでは」と話します。

献立 毎日同じでいい 料理研究家・土井善晴さん
 毎日のお弁当作りは大変。そう思わずに続けるにはどうすればいいのか。料理研究家の土井善晴さんに聞きました。

     ◇

 料理は本来、自分でやろうと思えば誰でもできることです。でも、みなさん、「できない理由」をたくさん並べる。その「理由」をなくしたいと思って書いた本が、「一汁一菜でよいという提案」でした。

 献立作りのために、メインのおかず作りから考えると、「大変だ」となってしまう。でも、そんなことは必要ないんです。料理は「できることをする」というシンプルなものなのですから。

 お弁当作りも、品数が愛情ではありません。おにぎりだけでもいいじゃないですか。おかずは、卵焼きや竹輪など簡単なものを入れるだけでもいい。毎日同じものを、頻繁に繰り返す。それでいいのです。「キャラ弁」作りは、自己満足のためなら、意味がありません。

 貧しいことも、働いていて時間がなく凝ったものを作れないことも、子どもにちゃんと説明すれば、子どもは全て理解します。できることを一生懸命すればいい。一生懸命したことは絶対に子どもに伝わります。

 ある日の弁当にトマトが入っていなかったからといって、子どもはいつまで覚えているでしょうか。人生の中で、そんなに色々なものを食べなくても大丈夫。親が子どもに作る料理で大事なのは、子どもを人間たらしめることです。その方法や内容ではありません。

 料理がなぜ、つらくなってしまうのか。問題の本質は、女性にあるのではありません。もしかすると、身近な男の人に課題があるのかもしれません。料理を作る人たちが踏ん張っていることに、社会が敬意を払うことも必要でしょう。

 今あるものを食べる。今あるもので何とかする。無理をしてまで、それ以上のことをする必要はありません。(聞き手・杉原里美)

     ◇

 取材を始める前は、「親の負担」ばかりに目が向いていました。しかし取材を進めるにつれ、「子どもにとって望ましい昼食はどうあるべきか」を考えるようになりました。宅配弁当は親にとってはありがたいシステムです。でも子ども向けに薄味で、栄養バランスに配慮した弁当をつくる業者はまだ少ないようです。保育園のように夏休み中も給食を提供できる態勢が、親にとっても、子どもにとっても望ましいのではと思うようになりました。まずはさまざまな立場の人の意見を聞き、課題を可視化するところから始めたいと思います。(岡崎明子)

------------------------------------------------------------------------------------------------

コメント