無償化なのに値上げ?! 保育の現場で何が

待機児童のイラスト


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「無償化に合わせて保育料を変更します」

ある保護者の元に届いた1通のお知らせ。
保育料を見てがく然としました。
「え?ほぼ倍になってる…」

無償化って、幼稚園や保育所は“タダ”になるんじゃなかったの? なんかむしろ高くなってない? 保育の現場で今何が起きているの?
(社会部記者 間野まりえ)

“幼保無償化”とは言うけれど…
今月から始まった幼児教育と保育の無償化。

取材を始めてまず思ったのは、「“無償化”って言ってるけど、みんながみんな無料になるわけじゃないの?」ということ。

そもそも、対象となるのは原則、3歳から5歳まで。そのうえ、預け先が幼稚園なのか、認可の保育所なのか、はたまた認可外なのかによっても違いがあります。
「この制度、なんて複雑なの…」「これは保護者も混乱するよな…」と思いながら、ツイッターで反応を眺めていたところ、気になるつぶやきがありました。
目に飛び込んできたのは“便乗値上げ”の文字。

気になって「無償化」「値上げ」というキーワードを検索してみると…。

出るわ出るわ、大勢の人が戸惑ったり、憤ったりしていたのです。
便乗値上げ?! 負担減らない現実
「どこが安くなってんやろっていうのが率直な感想でしたね」

そう話す関西地方に住む30代の女性。5歳の子どもを「企業主導型」と呼ばれる保育施設に預けています。
無償化で、保育料として月額2万3100円、国の補助が出ると聞いていたそうですが…。
「これが値上げの書類です」

そう言って見せてくれた保育施設からのお知らせには、値上げする項目がずらりと示されていました。
保育料は1万8000円近くも値上げされて、ほぼ倍に。補助が出る分を差し引いても月々3万2000円の持ち出しになり、無償化と言いながら、これまでより4000円しか負担が軽くならない計算です。
「国が出してくれた補助が適正に、必要な私たちにおりてきていない。そもそも事前に相談もなく、一方的に決めて、はい、もらいますというのはおかしいと思うんです」
切実な思い “そもそも認可に”
女性が納得できない理由は、もう1つありました。

今の保育施設ははじめから希望していたわけではありませんでした。

女性は夫婦ともにフルタイムで働いています。本当は認可保育所に預けたいと考えていましたが、第5希望まで書いて申し込んだのにすべて落選。値上げされても今の施設に頼らざるをえないのです。

「企業主導型」などの認可外は園が自由に保育料を決められます。

一方、認可保育所や認定こども園は、自治体が保育料を決めるため勝手に値上げすることはできません。

認可保育所に入れていればこんな思いをしなくても済んだかもしれない。そんな考えが拭えないでいるのです。
「保育士さんも子どものことをよく見てくれていますし、保育料を払いたくない訳では決してないのですが、無償化すると言うのであれば、全員同じになるようにしてほしい。そもそも認可保育所に入れるようにしてほしいんです」
認定こども園でも… 値上げは続々と
値上げは認可外の施設だけの問題なのか。

取材を進めると、自由に値上げできないはずの認定こども園でも値上げされたと訴える人たちがいました。
「ほかの園とは一線を引いた教育を確保するという理由で、実費負担分を最大で月額1万円程度値上げすると言われました。園の説明には納得がいっていませんが、従えないなら退園してくださいという主義のため、皆黙って従うしかありません」(都内の認定こども園に5歳の子どもが通う女性)
「無償化の対象となる3歳以上の子どもだけ教育用品や施設の維持費などが1万円近く値上げされます。園舎を建て直す計画があるようですが、説明は全くなく、不信感を抱いています」(都内の認定こども園に2歳の子どもが通う女性)
認定こども園では、保育料以外が値上げされていたのです。
サービスがよくなるなら値上げしてもいい?
この現状を国はどう受け止めているのでしょうか。

内閣府の担当者に聞くと。
「あくまでも保育施設と利用者との間での契約に基づくものなので、値上げをした分、利用者がサービスの対価を得られるのなら値上げをしてはいけないということではありません。保育施設の中には今までも値上げしているところもあり、無償化のタイミングだから値上げが許されないとはいえません」
つまり、保育所や幼稚園のサービスがよくなるなら無償化に合わせて値上げしてもいいということ。

年間8000億円もの予算が使われる幼保無償化の財源は消費税です。

子育て世代の経済的負担軽減が目的のはずなのに、結果的にそうなっていなくても容認されるもの?

さらに聞いてみると、こんな答えが返ってきました。
「いくつかの施設で値上げが行われていることをもって、全体として税金が施設に流れてしまっているとは言えません」
保護者などのSNSの声をきっかけに始まった今回の取材。

どのくらい値上げが広がっているのか、わかるのは一部の幼稚園※だけ。

幼稚園は保育料などを変更する時に届け出が必要なため、自治体が把握しているのです。

しかし、認可外の保育施設などではどうなっているのか、国も調査を進めてはいますが、実態は分かっていません。

(※子ども子育て支援新制度に移行していない私立幼稚園)
無償化が浮き彫りにした課題
幼保無償化について寄せられた意見の中には値上げ以外にこんな声もあります。
「月給10万円、1円の助成金も受けずに園を運営しているが、無償化で事務手続きだけ増えた」
「報われない重労働をしている保育士さんの給料を上げるためには値上げはしかたがない」
「市の財源がないという理由で保育園が縮小されます。無償化の前にもっとやることがあるのでは」
その1つ1つが、保育をめぐる課題を浮き彫りにしているように感じています。

皆さんはどのように感じていますか?
保護者や幼稚園、保育所の運営者、そこで働く保育士、それぞれの立場で言いたいことはありませんか?

この問題について私たちは取材を続けていきます。ぜひ、ご意見や情報をお寄せください。


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