【書評】『真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園』三宅玲子著 待機児童になれない子も


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 「保育園落ちた日本死ね」が流行語になったのは3年前だ。例えば東京都のホームページを見ると、「待機児童数が、昨年度より1724人減った」旨の記載がある。今月から幼児教育・保育が無償化された。とりあえずは良き方向に向かっているのだ。と思っていたら、いや、それは表向きのことにすぎないですよ、と突きつけられた。

 本書は博多の繁華街・中洲近くの「どろんこ保育園」に密着するとともに、夜間保育所の歴史経緯、保育行政の問題点などに切り込んだルポだ。どろんこ保育園は、現在69歳の夫婦が1970年代にホステスの子供たちを預かる夜間託児所から始めた。昼間の保育園と同居する形で82年に全国7番目の認可夜間保育園となった。親子を自宅まで迎えに行く、週末には理事長が自宅で子供を預かるなど型破りな保育をしていて、開園時間は深夜2時まで。夜10時以降は補助金が出ず自主保育だ。

 昼のレストラン勤務と夜のホステス業をダブルワークするシングルマザーは、夜1時に迎えに来て子供を起こして連れて帰る。9時に登園し、レストランに出勤。午後、仮眠をとり、夕方5時から身支度して、8時から翌1時までホステスとして働く。そんな必死の日常をこの保育園は支えているのだが、ある時、保育士らの疲弊によって、閉園時間を繰り上げたいと保護者に伝えたことがあった。その時、一人の母親が言った。「(そうなると)またあげなところに子どもば預けないかん…」

 「あげなところ」とはベビーホテル。彼女が以前預けていたベビーホテルは、赤ちゃんの「安全を考えて」両手を縛って寝かせるところだったのだ。別のベビーホテルからどろんこ保育園に転職した保育士は、「今すぐに子どもを預けて稼がないといけない人たち」は夜間保育園の存在を知らず、煩雑な申し込み書類も書けないという。

 保育園に申し込んではじかれるのが待機児童。数多くの親や保育士の声につぶさに耳を傾けた著者は、「待機児童にさえなれない子」が多くいることをあぶり出した。本書を読みながら、私が取材した風俗街では、多くの女性が幼い子を「託児所」に預けていると言っていたことが思い出されてならなかった。(文芸春秋・1500円+税)
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