「若い保育士が保育環境を変える原動力に」保育スタッフに特化したオンラインサロンを始めた男性の熱意


ハーバー・ビジネス・オンライン

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 保育士や幼稚園教諭が繋がりを持ち、目標や悩みを共有できる場を作ろうと、認定こども園(※)を運営する男性が5月末に保育に携わる人に特化したオンラインサロン「笑って保育ができる保育士を楽しむための土台を作る勉強会」をオープンした。

 同オンラインサロンを主催するのは、栃木県にある認定こども園ふじおか幼稚園園長の市村弘貴さん。独自の教育法「ふじおかメソッド」を取り入れ、幼児教育に情熱を注いでいる人物だ。

 そんな市村さんがオンラインサロンを立ち上げたきっかけや、保育現場で感じてきた課題について本人に話を伺った。

(※)保育園と幼稚園双方の機能を持った保育施設のこと。内閣府の管轄で、2006年から始まった。

若手の提案を「昔から続けてきたことだから」と却下する組織風土
 市村さんは2014年から認定こども園の運営に関わっているが、前職で幼児教育に携わる仕事をしていたこともあり、保育業界との関わりは長い。

 保育士向け研修会や保育士養成学校の講演会などに携わり、入職1年目からベテランまで幅広いキャリアの保育士と接する中で、保育業界が抱える課題を目の当たりにしてきた。

 保育業界が乗り越えるべき壁として市村さんが一番に挙げたのが、「職場に残る昔ながらの文化」だ。

 たとえば、役職が上がる基準が能力ではなく、年更序列である、というケースが当てはまる。この場合、昇進の基準が勤続年数や年齢に偏るため、役職者にマネジメント能力や教育スキルがあるとは限らない。

「こうした組織では新しいことにチャレンジしたり、効率化を試みたりすること自体が悪いことだと思われがちです。若い保育士が勇気を出して改善を訴えても、『わがまま』『そんな必要はない』『昔からそうしているから』などといった理由で突っぱねられてしまうことがあります。これではやる気が薄れてしまう」

 近年では、業務効率化を狙ってICT化を進める保育現場も見られる。保護者と園側との間で園児の様子を知らせるツールとして連絡帳があるが、多くの場合は手書きで保育士にとって負担になる。若手保育士が手書きの連絡帳に疑問を抱き、アプリ導入を提案したとしても、先輩や上司から「ずっと手書きだったから」と言われ、却下されてしまうこともある。

保育に情熱を持った人が保育を楽しめる。僕にならそのお手伝いができる
 そのような環境で働く保育士は、仕事や職場に不満を抱くようになる。その不満がいつまでも解消されないと退職したり、職場に留まったとしてもストレスから職場での人間関係がうまくいかなかったりする可能性がある。

 年功序列や人間関係の悪さといった職場環境に苦しむ保育士と接するうちに市村さんは「悩んでいる保育士の力になりたい」と考えるようになり、オンラインサロンの立ち上げを決めた。

「僕がこれまで出会った全ての保育士は、子どもの幸せを願い、保育の仕事にまじめに取り組む方ばかりでした。

 同じ志を持った仲間が集まっているはずなのに、どこかで気持ちがすれ違ってしまい関係が悪化してしまう。それに、昔ながらの風習に悲しんでいる方がたくさんいることが残念で仕方ありません。

 保育に情熱を持った人がちゃんと評価され、保育を思い切り楽しんでほしい。僕になら、そのお手伝いができるのではないかという強い思いが湧いてきました」

保育に関わる人同士が関わり、仕事に前向きになれる場にしたい
 オンラインサロンには現役の保育士、幼稚園教諭を始め、これから保育士を目指す学生が参加できる。

 サロン内では、幼児教育や、人材教育、さらには自己成長などをテーマに各業界・分野の著名人をゲストに招き、トークショーを毎月行うほか、市村さんが主催のワークショップも同じく毎月実施する。

 開催日は未定だが、男性保育士として有名なてぃ先生をゲストに招いたトークショーも年内に予定している。

「サロンでは、『保育をよりよくしたい、今の保育業界を変えていきたい』と思う保育士が、人間関係や保育経験が豊富な保育士、体操指導のスペシャリストなど、保育に関わる様々なゲストから話を聞き、自園に戻って活かせるような学びの場を提供していきます」

 市村さんは、「自園では同じ目標を持つ仲間が作れず悩んでいる保育士たちが、園外で様々な保育士と交流を持ち、日々の保育で感じる様々な悩みや、その対策を共有する。そうすることで保育士同士がモチベーションを高め合えるコミュニティーとしても活用できると考えています」とオンラインサロンの今後に期待を寄せる。

サロンで学び、保育現場を変えるリーダーとなってほしい
 市村さんはさらに「オンラインサロンで学びを深めた保育士たちと一緒に、保育環境をより良くできれば」と今後の展望を話した。

 代表的な環境改善は、保育士の賃金の見直しだ。保育は子どもの命を預かるという重大な仕事であるにも関わらず、給与額は責任に見合っていない。厚生労働省は2013年、保育士資格を有しながら保育士として働いていない「潜在保育士」に対して保育士の仕事に就かない理由を聞いているが、トップは「賃金が希望と合わない」だった。

「教育の質を上げるためには職員の質が大きく関わってきます。そのためには、保育士が『この仕事に就いてよかった』と安心できる給与が必要。保育士の心のゆとりが保育のゆとりに繋がります」

 給与以外には、前述のように労働環境の問題も大きい。組織風土のほか、職場や保護者との人間関係、休暇が取りにくい状況などから離職する保育士は多く、保育現場では人手不足が続いている。

 市村さんは、「オンラインサロンで学んだ保育士の方々がリーダーとなって保育現場を変え、保育が楽しくてたまらないと思う方が一人でも増えてほしい。保育現場はもっと良くなると僕は信じています」と、保育環境改善への熱意をあらためて語ってくれた。

<取材・文/薗部雄一>

【薗部雄一】
1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。


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