農村で生活立て直し 母子世帯の受け皿に 特別編集委員 山田優


日本農業新聞
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母子(シングルマザー)世帯の貧困率は5割を超える。労働政策研究・研修機構が昨年10月にまとめた調査の結果だが、不安定な職に就くことが多いため、新型コロナウイルス感染拡大による経済の落ち込みで、さらに生活が苦しくなっている可能性が大きい。

 農業や農村が手を差し伸べるすべはないのだろうか。

 兵庫県の真ん中に位置する神河町を訪ねて話を聞いた。シングルマザーNさん(27)が引っ越してきたのは昨年の晩秋だった。都会から一転しての農村生活。いろいろと気苦労もあるかと思いきや、困ったのは部屋に飛び込んでくるカメムシだけで、田舎暮らしに満足そうだった。

 平日は2人の子どもを幼稚園と保育園に預け、すぐ近くの農業法人に午前8時20分までに出勤する。担当するのはニンジンなどの露地野菜栽培。農業高校卒業という経歴を生かし、トラクターの運転もきびきびとこなす。午後5時15分の定時で職場を去ると、子どもを引き取り帰宅する。週末は子どもと過ごす。

 他に2人のシングルマザーにも話を聞いた。都会ほどの高収入は望めないが、安定した職場と住宅や保育など生活環境の良さは魅力的だと口をそろえた。

 同町は過去70年間に人口が4割減った。若い人たちが地元に残らないことが最大の課題だ。歯止めをかけようと編み出したのがシングルマザーへの移住呼び掛けだった。

 子育て環境を改善し、若い人が快適に住める住宅を整備する。そして普通の生活を賄えるだけの仕事をあっせんした。こうした試みは全国で始まっている。

 移住先の地域では小学校の生徒数が増え、活気が戻るなどの効果が報告されている。

 町は移住者だけを厚遇したわけではない。18歳までの医療費は無料。子育て世代への家賃助成、午後6時15分までの学童保育など、地元の人全てが受けられる恩恵を底上げし魅力を高めるよう努力した。

 「そうすれば若い人たちの流出を抑え、外からも呼び込むことができる」と町の担当者は期待する。

 貧困に悩む都会のシングルマザーが、健康で文化的な生活を取り戻すための受け皿に農村はなれる。地域の利点も大きい。恒常的な担い手や働き手の不足に直面する農業の側にとっても悪い話ではないはずだ。


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