白崎あゆみ 読み聞かせはアウトプット求めない


日経DUAL
------------------------------------------------------------------------------------------------
新2年生の男の子の母で、読み聞かせをライフワークにしているフリーアナウンサーの白崎あゆみさんによる連載。今回は、読み聞かせをより効果的なものにするための注意点です。子どもの成長や個性を発見できたり、自己肯定感が高まったり、親子の関係性が向上したり…。魅力いっぱいの読み聞かせですが、その効果を最大限に発揮するために、親がしてはいけないことがあるそうです。

●近視眼的になってはいけない

 この連載も、いよいよ今回で最終回となりました。本連載が、読み聞かせの新たな魅力に出会うきっかけになれば幸いです。

 本連載では、読み聞かせのさまざまな魅力を紹介してきました。

・子どもの成長や個性を発見する機会として

・自己肯定感を高める手段として

・親子の関係性向上の手段として

・子どもの知的好奇心を広げる機会として

 こうした魅力を最大限に享受してほしいからこそ、読者の皆さんには、2つの「してはならないこと」を心得としてお伝えしたいと思います。

 1つ目は「近視眼的に考えないこと」、2つ目は「アウトプットを期待しないこと」です。

 まず、1つ目の「近視眼的に考えない」から。連載第1回でもお伝えした「親が決めた本を押し付けない。本は子どもが選ぶ」について、ある親御さんから、こんな相談がありました。

 「子どもが選ぶと、同じ作家の本や同じシリーズの本ばかりになってしまいます。親としては、もっと多様な本に触れてほしいのですが、どうしたらいいでしょう」

 お子さんの選書が偏っていることに困っているようでした。確かに、本は子どもの世界を広げてくれるツールです。世界を広げるためにも、多様な本に触れてほしいと望む親の気持ちはとても分かります。ただ、私は本の選書に関しては、もっと長い目で見てもいいのではないかと思っています。

親は10年スパンで見守るような心構えで
 わが家の7歳の息子の選書歴を振り返ってみたところ、以下のような感じでした。

・2歳 電車の本

・3歳 電車の本

・4歳 昆虫の本

・5歳 昆虫の本

・6歳 昆虫の本→宇宙の本

・7歳 宇宙の本(特に『ガリレオ・ガリレイ』の伝記がお気に入り!)

 1年、2年という期間で切り取ると、確かに偏っているように見えますが、2歳から7歳までの6年間を俯瞰(ふかん)すると、電車、昆虫、宇宙へと3つのジャンルに興味関心が広がっていることに気づきます。人によっては、3つしかないなんて、少ない!と思うでしょう。ただ、ますます知的好奇心が膨らんでいくであろう今後のことも併せて考えれば、きっと多様と言えるようなラインアップになるはずです。

 なるべく近視眼的にならないように、10年スパンで見守る心構えでいることは大事だと思います。遊びも一緒です。あれだけアンパンマンが好きだったのに、戦隊ものにハマり、次は恐竜やポケットモンスターへ、というエピソードはよく聞く話です。「いつも、こればかり」と不安になったら、一度、お子さんのハマったリストを作ってみるといいかもしれませんね。

●「これを読んだら知識が定着するのでは?」の期待は封印 

 「読み聞かせ」は親とのコミュニケーションの手段だったり、子どもの個性や成長の発見だったり。親子の関係性を向上させ、子どもへの理解も深まる機会になる一方で、「本」を扱うためか、親の知育面での期待が膨らんでしまいがちです。

 もちろん、ひそかに期待することを否定はしません。ただ、子どもには、その期待を察知されないようにしてほしいもの。「少しでも知識が定着したらいいな」という親の期待は、ほぼ100%、子どもに見透かされていると考えた方がいいでしょう。

 特に、最近は図鑑や伝記だけではなく、「知力アップ」を売りにしている本が増えてきました。そのため、購入時に親の期待が高まってしまうのは、よく分かります。でも、できるなら、その期待は一度忘れてしまいましょう。

 英語の図鑑絵本を買ったのに、英単語の習得にはつながっていないとしても、昔話大全を買ったのに、読むのはお気に入りの「ももたろう」や「かさじぞう」だけだとしても、落胆せず、長い目で見守ってあげてほしいのです。なぜなら、子どもは案外、インプットしているものだから。

子どもにはインプットとアウトプットのタイムラグがある
 かくいう私も、息子に国旗の本をリクエストされた時は、国旗を覚えて描くようになることを、勝手に期待してしまいました。でも、しばらくは本を眺めるだけ。描くそぶりは全く見せなかったので、「そんなものか」と、様子を見ることにしました。

 すると、数カ月後、突然、「僕の好きな国旗はブータン」と言って、ブータンの国旗を描き始めました。しかも、国旗の本を見返すことなく、記憶だけで描いたのです。

 この出来事に、私は非常に驚くと同時に、大人の目線で「アウトプット」のタイミングを考えてしまっていたことに反省しました。子どもには、インプットとアウトプットのタイムラグがあったのです。

 大人になると、仕事でのアウトプットにつなげるために読書をすることが増えます。そのため、読書に対してもすぐアウトプットを求めてしまう思考になっていたようです。考えてみたら、大人だって、旅先で見た風景、おいしい食事、美術館で見た絵画などのインプットに関しては、アウトプットを求めていないはず。

 子どもにとって、読み聞かせや読書は遊びの延長です。子どもはアウトプットなどの成果を期待していません。いつまでも、アウトプットがなされないものもあるでしょう。逆に、十年以上たって、6歳の時に読んだ本がきっかけで、この職業を選んだ、ということもあるでしょう。

 子どもの成長は未知数です。だからこそ、アウトプットを期待せずに、純粋に本との出会いをつくってあげてほしいと思います。きっと、読めば読むほど、本人の中で世界が広がっているはずだから。

 例えるなら、タネをまいている感じに近いと思います。芽が出るかもしれないし、出ないかもしれない。いつか大人になった時に、突然出るかもしれない。

 そうやって、ゆったりとした気持ちでいることが、読み聞かせを親子で楽しむために欠かせない心構えなのだと思います。

白崎流読み聞かせを実践してきた、あるママの実感は?
【小学生ママの実践エピソード/

「選書のハードルを下げられたことが何よりの収穫」】

小学6年生の息子と小学2年生の娘の母親です。第2子の娘には、読み聞かせの時間をあまり取れずにいたため、ずっと罪悪感がありました。でも、この連載を読んで、罪悪感を抱く必要がなかったことに気づくことができたのです。

特に、選書のハードルを下げられたことが良かったですね。漫画や図鑑など、どんな本でも読み聞かせできることが分かったので、さっそく娘が大好きな漫画「サバイバルシリーズ」を読み聞かせてみることに。「これ読んであげようか?」と娘に提案してみると、飛び込んできたのは、満面の娘の笑顔! 「え? これも読んでくれるの?」と、とってもうれしそう。数ページ読み聞かせた頃だったでしょうか。突然、娘が「ここが面白いんだよ!」と教えてくれました。そして、始まりました! 娘の解説。お気に入りのギャグや主人公の反応の面白さなどを語ってくれました。

娘の解説を聞きながら、要点をそれなりに整理できていることや、話のオチを理解して面白がれるようになっていたことに、大きな驚きと感動がありました。娘の成長に気づくことができただけではなく、娘と同じ本を読んで、笑ったり、驚いたりするぜいたくな時間を過ごせたことは、何よりの収穫でした。「読み聞かせ」は、白崎さんが言うように、子どもの成長に気づき、親子の関係性をよくしてくれる手段になると実感しました。

取材・文/児玉真悠子 写真/遠藤素子 イメージ写真/PIXTA

白崎あゆみ

1981年生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒、アビームコンサルティングを経て北陸放送でアナウンサーとして10年勤務。出産後はコーチングに転向。TCS認定プロフェッショナルコーチ、マザーズコーチングスクール認定トレーナーの資格を取り、コーチングセッションや、保育園・幼稚園向けのナーサリーコーチングなどを行うほか、企業のリーダー研修やキャリアデザイン研修などの講師としても活躍。金沢市在住。


------------------------------------------------------------------------------------------------

コメント