子育てマンション広がるか 大阪市条例「第1号」建設へ


産経新聞

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 中心部で高層マンションの建設が続く大阪市で、保育施設を併設する大規模マンションの建設が決まった。マンションの建設事業者に対し、保育施設設置の事前協議を義務付け、協力を促す市条例(平成30年4月施行)に基づく「第1号」。条例はマンションの建設ラッシュを背景に、保育ニーズが急増するとして制定された。だが、採算性などから二の足を踏む事業者がほとんどで進んでこなかった経緯がある。(小川原咲)

保育所併設、入居者優先

 マンションの建設が予定されているのは大阪市東淀川区下新庄。周囲には公園や商店街があり、大阪・梅田までは電車で10分足らずとあって、ファミリー層が多く住んでいるエリアだ。

 14階建て全393戸の大規模分譲マンションで、今秋にも建設工事が始まり、令和4年5月の完成を目指す。保育施設は0~2歳を対象とした定員19人で、1階部分に開設。マンションを建設、販売する近鉄不動産の担当者は「共働きの子育て世代に来てもらいやすい場所。保育所は販売時のアピールポイントになる」と期待を寄せる。

 条例の対象は、1戸あたり35平方メートル以上で70戸を超えるマンションを建設する事業者。市との間で保育施設設置の事前協議を義務付け、協力を求めると規定した。協力に応じた事業者が保育施設を設置する際は、施設規模や地域の保育需要などに応じ、市が施設整備費などを補助。また、住民は5年間限定で優先入所できる全国でも珍しい仕組みも導入した。保育施設部分は、住民による管理組合が所有する。

「コンビニのほうが」

 ただ、協力する事業者は少ない。

 市によると、条例施行から7月末までの間、事前協議で保育所設置の協力を求めた事業者は39。そのうち応じたのは3事業者にとどまる。背景には、「コンビニなど民間のテナントを入れた方が収益性も高い」(市の担当者)といった金銭面の問題のほか、「エントランスや駐車場を設置すると、一定の広さが必要な保育施設を設けるスペースがなくなるといった事業者からの声もあった」という。

 同様の条例を制定した取り組みは、東京都や埼玉県など関東圏でも進むが、広がりに乏しいのが実情だ。東京都世田谷区では平成26年に条例を施行。だが、これまで保育所整備を要請した事業者32のうち、応じたのは4事業者にとどまる。

付加価値となる魅力

 しかし、保育施設の整備は都市部においては、喫緊の課題だ。大阪市の待機児童は4月1日時点で20人だが、希望の保育所に入れないといった「入所保留児童」は約2800人にのぼり、依然として受け皿は不足している。担当者は「事業者にとって設置のハードルは高いと思うが、子育て世代にとっては重要な施設なので、丁寧な説明と周知を行っていきたい」と話す。 

 協力に応じるメリットをより明確化することを提案するのは、街づくり施策に詳しい近畿大総合社会学部の久(ひさ)隆浩教授(都市・まちづくり)だ。久氏は「金銭面のほか、安全対策、送迎の車が増えることによる交通整備など事業者に求められるハードルは高い」と指摘。そのうえで、「保育施設の設置に協力することで、市が『子育て世代に安心なマンションだ』と公式にお墨付きを与え、ホームページ上でPRするなど、事業者がマンションを販売する際に付加価値となる魅力を打ち出す工夫が必要だ」としている。


背景に子育て世帯の「都心回帰」

 大阪市の条例化の背景にあるのが、人気のタワーマンションの建設ラッシュに伴う、子育て世帯の「都心回帰」だ。かつては郊外のベッドタウンに住む「ドーナツ化現象」が起き、小学校の統廃合も進んだ市内中心部だが、近年は一転してファミリー層が流入している。

 市によると近年、オフィス街の北、西、中央区などで14歳以下の子供の数が軒並み増加。北区では平成26年から5年間で2千人以上増えた。これらの地域では小学校の教室不足も課題となっている。

 今後も子育て世帯の増加が見込まれることから、市はマンション事業者に保育枠の確保に協力を求める必要があると判断し、条例化を決めた。

 とはいえ、施行後2年半近くたっても利用状況は低調だ。これについて、市の担当者は「事業者にとってメリットがあることを理解してもらえるよう、補助の内容などをまとめたパンフレットもホームページで公開し、周知していきたい」としている。(田中佐和)



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