「療育」通えず、保護者ストレス コロナ禍で発達障害児の支援は 


東京新聞


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 新型コロナウイルスの感染拡大により、発達障害のある子どもたちが十分な療育を受けられない状況が続いている。民間企業が始めたオンラインでの相談事業には予想より多くの申し込みがあり、普段通りの支援を受けられずに困っている家庭の存在が浮かぶ。何に困り、どんな支援が必要か、取材した。 (今川綾音)
 「息子のことを専門的な立場から見守り、親の相談に乗ってくれる場がなく、つらかった」。川崎市の石田浩子さん(34)は今春の外出自粛期間中、注意欠陥多動性障害(ADHD)がある小学一年の長男(6つ)と自宅で過ごした時期をこう振り返る。
 通っていた幼稚園が三月半ばから休園し、そのまま小学生になった長男。高次脳機能障害の診断も受けており、本来なら四月からは二カ所の放課後等デイサービスに計週三日通い、運動面と学習面での療育支援を受ける予定だった。だが、コロナ禍で電話相談のみの利用となった。
 学習自体が初めてなのに、自宅で進めなければならず親子で戸惑った。ひらがなを繰り返しマスの中に丁寧に書くことや、着眼点を持って取り組むアサガオの観察日記などは、長男にとっては難しいものだった。「一定の時間座って集中することが難しい息子を勉強に向かわせるのは、大きなストレスだった。衝突しても子どもと離れる時間がなく、切り替えやリフレッシュも難しかった」
◆「オンライン」の充実・周知も必要
 石田さんのような親子を支援するのに重要な役割を果たすのが療育だが、コロナの影響を大きく受けた。障害がある人の教育・就労支援をする企業LITALICO(リタリコ、東京都目黒区)が七月に発達障害児を育てる保護者七百九十一人を対象に実施した調査では、外出自粛中に療育機関が「閉所などにより利用できなかった・利用を控えていた」という回答が41・8%に上った。「十分に相談できていないこと」としては、「親自身のストレス」(64・8%)や「子への接し方やサポート方法」(57・8%)と答えた割合が高かった。
 調査では12・2%が「オンラインで支援を受けていた」と回答。感想を尋ねると、「感染へのリスクが少ない」(91・5%)、「送迎の負担が減る」(83・1%)といったメリットの一方、半数近くが「(指導者からの)指示が入りにくい」(49・2%)、「集中力が続かない」(44・1%)と、発達障害がある子の特性による難しさを挙げた。
 同社も五月から、専門家へのメール相談や、オンライン勉強会に参加できるサービス(月額二千九百八十円)を開始。これまでに約六百人の申し込みがあった。調査を担当した同社広報の田沢香織さん(29)は「コロナ禍でも、具体的な声かけや対応について、専門家の助言を受けられる環境整備が必要だ」と訴える。
 東京都世田谷区の小児科「みくりキッズくりにっく」でも三〜五月の間、一般外来の受診は通常の五割以下だったのに対し、発達に不安がある子を対象とする専門外来の予約枠は常に満員だった。担当医師の岡田悠(はるか)副院長(37)は「突然休園・休校になって生活リズムが崩れ、イライラやかんしゃくが増えたり、睡眠の乱れからゲーム時間が多くなったりするという相談が多かった」と振り返る。
 同院は五月、専用アプリを使って専門スタッフへの相談ができる仕組み(一回十〜十五分、五百円)を始めた。岡田さんは「コロナ禍でもつながれる支援はある。行政にはぜひ『困った時の相談先リスト』のような形で発信してほしい」と求めている。
<療育> 発達の遅れや障害のある子どもの特性に合った支援で、発達を促し、自立して生活できるよう援助すること。原則18歳以下が対象。公的な通所型支援は、未就学児のための「児童発達支援」や小学生以上が放課後や長期休暇に利用する「放課後等デイサービス」がある。民間や医療機関でも実施している。


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