子の行動変えるのは「考える余地」を与える声がけ


日経DUAL


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単に「テストでいい点が取れる」というのではなく、好きなことを自分で見つけて学べる子に育つには? わが子の可能性を伸ばすためのノウハウをまとめた日経DUALの書籍『「頭がいい子」が育つ家庭の8つの習慣』が好評発売中です。発達心理学・保育学の専門家で、「おかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」「こどもちゃれんじ」などの監修も手掛けたお茶の水女子大学名誉教授の内田伸子さんが、忙しい共働きの親が家庭でできる関わり方を教えてくれています。

この連載では、子育ての「こんなとき、どうすればいい!?」という問いに、内田さんが6回シリーズで答えます。

 日経DUALの新刊『「頭がいい子」が育つ家庭の8つの習慣』の中で、内田さんは「子どもが自分でやろうとしたことや、考えついたアイデアを認めてあげることこそが、子どもの意欲や考える力を伸ばすコツです」と指摘しています。なかでも大切なのが、「ほめる、はげます、(視野を)ひろげる」という「3H」の声がけだといいます。

 しかし忙しい日々の中では、つい子どもをきつく叱ってしまったり、一方的に指示を出してしまったりすることもあるでしょう。読者からはこんなお悩みが寄せられました。

親からのお悩み【1】

 子どもの興味を大事にしたり、子どもとの会話を楽しんだりするのは、「余裕がある親」でないとできないのではと感じています。毎日忙しく、「教育のためにこうすべき」「よりよい子育てとは」などと考えるだけで疲れてしまいます……。

親からのお悩み【2】

 2歳と小1の子を育てる父親です。「ほめる子育て」「叱らない子育て」が広まっているように思いますが、子どもにとっては「思い切り叱られる」という経験も大事だと思います。大人になってから叱ってくれる人は少ないですから。先生が提案する「3H」の声がけは、気をつけないと「甘やかし」にならないでしょうか。

 親の声がけが大事だと思うからこそ、「これで、本当に合っているのだろうか……」と悩むことが増えていきます。

子どもと生活を楽しむだけでいい
【内田さんからのアドバイス】

 忙しい毎日ですよね。「よりよい子育てとは」なんて、難しく考える必要はないのですよ。子どもと一緒に日々の生活を楽しむ、それが一番です。

 子どもは、自分とは別の人格をもった存在です。自分が面白いと思うことと、子どもが面白いと思うことは違います。それを、子どもから学んでみるのはどうでしょうか。「そういう考え方なんだ!」と面白がりながら、子どもと一緒に大人も育っていく。それだけで子どもにとっては十分です。

 それから、3H「ほめる、はげます、(視野を)ひろげる」の声がけは「叱らない」ことを意味するのではありません。交通ルールを守らなかったときなど、「危ないから車が来るかどうかよく見て渡ろうね」「信号が青になったら渡ろうね」などと、親がお子さんに言って聞かせなければならない場面はありますよね。

 ただ、よほど緊急の場合を除いて、「ダメ!」などと声の強さで威圧するのはおすすめしません。「今、周りを見ないで歩道に出ようとしていたよ。もし自転車が来ていたら危なかったよね、気をつけよう」といった具合に、禁止や命令ではなく、提案の形で少しずつ理解させるのです。いつも厳しく叱って、「ほら、前にも言ったでしょう!」と怒っても、子どもは覚えていないんです。

 もしも保育園や学校で友達に手を出してしまったら、「友達もいやだったよね、悔しかったと思うよ。○○ちゃんも、そうされたらいやだよね」と落ち着いて話してみてください。5歳くらいになれば、親の声がけに愛情があって、子どもの人格を尊重する言い方であれば、伝わると思います。

 日常生活の中でも、子どもにできるだけ「考える余地」を与えてあげましょう。例えば、寒いのに子どもが靴下を履かずに走り回っているとき、「靴下、履かないとだめでしょ!」とトップダウンできつく言うと、子どもに考える余地を与えないことになります。「足が冷たくなるから、靴下を履こうね」と言ってみてください。それでも「イヤだ、履かない」というのだったら……しばらくそのままにしておきましょう(笑)。やっぱり足が冷たくなって「お母さん(お父さん)が言ったとおりにすればよかった」と思うかもしれません。そうやって子どもは学んでいくものです。

 そしてもし、子どもが何か一つでもできるようになったら、そこを見逃さずに、「すごい、できるんだね」と、ごく自然に声がけをしてあげましょう。子どもを一人前の人として敬意を持った声がけをしてあげるのです。

 これらは何も、特別なことではありません。子どもはすぐには変わりませんが、その成長の過程をじっくり楽しんでみてはいかがでしょうか。疲れてしまうほど頑張らないで、子どもと一緒に生活を楽しむことを大切にしてくださいね。

取材・文/西山美紀 イメージカット/PIXTA

内田伸子

環太平洋大学教授、お茶の水女子大学名誉教授

お茶の水女子大学文教育学部卒業、同大大学院人文科学研究科修了、学術博士。同大学大学院人間文化研究科教授、文教育学部長、副学長などを経て、現在は同大学名誉教授、環太平洋大学教授。専門は発達心理学、認知心理学、保育学。「おかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」(共にNHK Eテレ)、「こどもちゃれんじ」(ベネッセ)監修に長年携わる。著書に『子どもの見ている世界~誕生から6歳までの「子育て・親育ち」~』(春秋社)、『AIに負けない子育て ~ことばは子どもの未来を拓く~』(ジアース教育新社)など


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