「寝る間もない」障害児の子育て 家族写真残したい…思いを支援


西日本新聞


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 重い障害児を育てる親は、わが子をカメラに収める余裕もなくなりがち。思い出を形に残す手助けをしようと、北九州市の社会福祉士、上原藍さん(38)が家族写真を撮影するボランティア団体を立ち上げた。自身も障害のある娘がいる母親の一人。家族の気持ちに「きめ細かく寄り添う」支援を目指し、11月から活動を本格化する。

 8月に設立した団体名は「muikku(ムイック)」。フィンランド語で「ハイ、チーズ」の掛け声を意味するだけなく「無垢(むく)と掛けた」と上原さんは言う。「混じり気のない素直な気持ちで、家族のありのままの姿を撮りたくて」。短大で写真を学び、卒業後は一時、写真店に勤めていたカメラマンでもある。

余裕のない時期も

 3人の子どものうち、長女の颯希(さつき)さん(15)は生まれつき耳が聞こえず、難病の「チャージ症候群」と診断された。幼い頃は夜間に人工呼吸器を使い、胃ろうからの栄養注入など医療的なケア(医ケア)も必要だった。注入は3時間置きで「寝る間もない」毎日。「一番かわいくて、どんどん変わっていった時期」の写真は一枚もない。

 2~3歳の頃に通った療育施設では、歩けない子や重い自閉症のある子と同じクラスに。親同士で「七五三の写真も撮れないね」とこぼしていた。

 颯希さんが特別支援学校に進み、成長に伴って医ケアが少なくなったのを機に、4年前から障害者福祉の仕事に携わるようになった。今は相談支援事業所に勤める。撮影の手助けを思いついたのは、知り合いの難聴児の母から七五三の写真を頼まれたのがきっかけだった。

 大きな車いすを使う医ケア児や、障害の特性によってじっとできなかったり大声を出したりする子どもは、なかなか写真スタジオに行けない。わが子が生後ずっと新生児集中治療室(NICU)に入院している親からは「退院して、初めてきょうだい同士が対面する記念に撮ってくれたら」との声も届いた。

 「同じような思いをしている家族の役に立ちたい」。同僚だった保育士や親たちに相談し、まずは有志5人で団体を立ち上げた。

体温も思い出して

 撮影の依頼は、開設したホームページなどを通じて募る。基本的には撮ってほしい日時や場所に、カメラマンやスタッフが足を運ぶ形。疾患や必要な配慮だけでなく「呼び名や好きなもの、苦手なこと」も丁寧に聞き取り、準備する。

 今月25日にプレイベントとして企画している撮影会には計5組の家族が参加する予定で、それぞれ約1時間かけて撮影する。「気兼ねなくお子さんの世話もしてもらい、とにかくリラックスして楽しめる雰囲気」を心掛けていく。

 活動サポーターとして、カメラマンや同行者、着付けなどのスタッフ、撮影スペースを貸してくれる人なども募集しており、既に10人以上が集まった。

 「記憶はあいまいでも、写真一枚でその時の気持ちや空気感、体温まで思い出せる。愛し、愛されている家族の日常をぜひ、形に残してほしい」

100組で写真展

 医ケアは“卒業”した颯希さんだが、実は昨年、甲状腺がんが見つかった。

 摘出手術は成功。年1回の放射線治療を行い、通院を続ける。「毎日ひょうひょうと」過ごし、家族を安心させている。

 親としての痛みやつらさ、医療、福祉などさまざまな支えへのありがたさと幸せを「誰よりも共感できるようになった」と上原さん。社会福祉士の資格も取り、ボランティア団体を立ち上げたのも、自分の経験を生かして当事者の力になることで、社会に「恩返しをしたい」からだ。

 「活動を通して、障害のない人にも、家族の暮らしを知ってもらえればうれしい」。100組の撮影を達成したら、写真展を開くのが夢だという。

 主に北九州市内での撮影を想定し、市外からの希望者は応相談。料金は、活動を継続していくための寄付金として1口2千円から。キャビネサイズの写真のプリントと台紙代、交通費、郵送料に充てる。

 申し込みは19日から、メールで。アドレスは muikku.photo@outlook.jp 


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