子どもから好かれる人は「尊重上手」?児童虐待防止推進月間に考える


ダイヤモンド・オンライン


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 11月は、厚生労働省が定めた児童虐待防止推進月間である。この漢字ばかりの文字列に関係がないと思っている人も、これを機会に「子どもに好かれる」とはどういうことか、子どもとの向き合い方を考えてみないか。(フリーライター 武藤弘樹)

● 子どもを笑わせる万能テクとは

 子どもを笑わせるちょっとしたテクニックを紹介したい。教えてくれたのは保育園の園長を務める70歳の男性で、園児に懐かれ過ぎて園長が廊下を歩くと後ろに園児の列ができる、という人気を誇る。この園長先生と向かい合った園児は必ず抱腹絶倒する。
 
 この人が言うには、「子どもを笑わせるには“間”が大事」とのこと。「間を持たせると、子どもはそこで期待を膨らませて、どんどん楽しいスイッチが入っていく」と聞いて、なるほどと思った。

 ちょっと考えてみれば、幼児が大好きな「いないいないばあ」も間を使った遊びだ。「いないいないばあ」をやるとき、2回目、3回目で「いないいない…」と間を持たせ「ばあ!」と焦らすだけで、子どもを笑いの渦にいざなうことができるのである。

 「間」のようなものは大人にしかわからないテクニックだと考えている人もいるかもしれないが、実は子どもこそ、「間」を心から楽しんでくれるのである。子どもを侮ってはいけない。

● 子どもに好かれるとはどういうことか

 さて、今「子どもを侮ってはいけない」と書いたが、11月は厚労省が定めた児童虐待防止推進月間である。漢字ばかりで堅苦しいが、児童虐待なんぞは根絶された方がいいに決まっている。その防止は世の中全体でずっと推進されていきたいところだが、どんな立派な意義ある取り組みもメリハリがあった方が締まるので、厚労省はナイスだ。

 児童虐待の起こり方はさまざまあるが、結果として子どもの人権が蹂躙(じゅうりん)されている点は一致している。人権という言葉は大上段に構えている気がしてしまって用いるのがあまり得意ではないが、児童虐待の場合はそんなことにこだわっている余裕がないくらい状況がひっ迫している。
 
 なお、しつけ目的の体罰による児童虐待は、加害者側は「子どものためを思って」として起こるが、虐待に対する認識が加害者と世間の常識(こちらは時代によって変わる)でずれているため、やはり社会的には「子どもの人権が侵されている」と判断されてしかるべき事態である。

 しかし、どうすれば児童虐待を防止できるかという大きな問題については、筆者は専門家ではないので太刀打ちできない。

 そこで、人権の蹂躙とは逆の方向、「子どもに好かれる」という点から、子どもとの付き合い方を考えてみたい。

● 「子どものお願いに付き合う」という難題

 娘を保育園に迎えに行くようになって、幾人かの園児と顔見知りになった。迎えに来る保護者は園児にとって興味の対象であり、囲まれることは珍しくない。筆者も割と子どもから懐かれやすい方だと思っているが、最近、筆者以上に子どもから人気を集めるパパ友と知り合った。

 彼(以降Aさん・33歳男性とする)は子ども人気の理由について、本人はあまり考えたことがなかったようであるが、こちらの質問を機に、なぜ好かれるのかについていくつか自覚した点があったようである。

 そのひとつが「子どものお願いに際限なく付き合う」であった。こう書くと、「そんなことはできない」「子どもがわがままに育つだけだ」と思う人もいるかもしれないが、いったん続きをお読みいただきたい。
  
 ご存じの通り、子どもはお願いが多く、しつこく、そして結構な無茶ぶりをしてくる。そのお願いをすべて聞き入れることは大変な難題だ。もちろん教育上必要な「お断り」もあるが、大人は「疲れるから」「恥ずかしいから」という理由で子どものお願いをやんわりと断ることもある。

 人通りの多い路上で、いきなり子どもから「今からニワトリのまねをしてみよう!」と提案されて、すんなり受け入れられる人はごくごく少数だろう。しかし、Aさんはそこが平均的な大人と違うのである。

 「断ることもできるんですが、なんか付き合ってしまうんですよね」とAさんは語る。

 Aさんは20人の子どもに囲まれて鬼ごっこをする。鬼はAさん1人である。ようやくタッチできそうな局面になると子どもは「バリア!」「今、靴ひも結ぶからダメ」「トイレ行ってくるからダメ」と、それぞれすごい理由をとっさに持ち出してタッチされるのを拒否する。かくしてAさんの鬼が永劫続く。足がもつれ、肺が張り裂けそうになるのを自覚しながら、Aさんは子どもの輪の中をさまよい続ける。

● 子どもは「大人の本気」を察する

 Aさんにとっては悪夢そのものだが、子どもは皆笑顔である。子どもたちが笑顔でいられるのは、Aさんが苦しみながらも本気で楽しもうとしているからにほかならない。

 「子どもだまし」という言葉があるように、大人は往々にして子どもを小手先でだまそうとする。子どもはそれに乗っかってくれることもあるが、子どもも子どもでちゃんと大人を観察している。Aさんの「本気」が子どもに伝わるからこそ、子どもはAさんを受け入れるのだろう。

 もちろん、多くの大人には大人の事情が多々あり、子どもの事情に付き合いきれない。それは大人と子どもの時間の使い方が違うからしょうがない部分でもあるし、Aさんにしても体力的な問題から最終的には付き合いきれていない。

 ただ、しつこく繰り返すが、子どもに伝わっているのは、Aさんが子どもたちの遊び方、時間の使い方、そして意思を最大限尊重し、付き合おうとしている点なのだろう。

● 「子ども扱いしない」とはどういうことか

 他の例も紹介したい。Bさん(37歳女性)も子どもに好かれる人物である。働く1児のママで、保育園の集まりがあると子どもはBさんを交えて遊びたがる。
 
「保育園の集まりなどでは、大人は大人同士で集まりたがります。私にもそうしたい気持ちはありますが、子どもが遊び始めるとそちらにまざって遊ぶことが多いです。
 
 子どもが何か遊びを始めるとき、大人は『○○に気を付けて』『遠くまで行かないで』と注意から入りがちですが、私の場合は『よし、一緒にやろう』とまざって普通に遊び、危ないと感じることがある度に注意したりサポートに入ったりします。そこが子どもにウケているんじゃないかと思います」(Bさん)
 
 子どもをどこまで子ども扱いするか、という議論がある。日々学習して成長する子どもなる存在に対して、危険や非常識を教えていくためにある程度の子ども扱いは必ず必要である。

 といって、子ども扱いのしすぎは子どもの自主性や快活さ、のびのび育とうとする活発な輝きを摘み取るおそれもある。さてどうしようかというところで上記の議論が生まれる。
 
 子どもには大人と対等に扱われることを喜ぶ傾向がある。これに関連して、子どもは自分と同じ目線を持とうとしてくれる大人が好きだ。Bさんは子どもに対して「私は大人だよ」という構え方をしない。「注意から入らず、一緒に遊ぶところから始める」というアプローチには、子どもと同じ目線でスタートして、要所要所でさりげなく大人の責任を発揮して子どもを誘導していく。すなわち、子どもに「子ども扱いしているよ」とあまり感じさせることなく、必要に応じて“子ども扱い”を取り出しては施している。うまいやり方であり、スマートに子どもを尊重できている。

● 子どもだからといって言葉遣いを変えない

 Cさん(43歳男性)は保育園の名物的おじさんで、子どもからは「構ってもらえたらなんか楽しい人」と認識されている。CさんもAさんと同様、ほぼ無自覚に子ども人気を獲得していたが、「意識している点」を尋ねたところ、「言葉遣いを変えない」という答えが返ってきた。
 
 これは賛否の分かれるところであろうが、子どもに対して子ども目線をアピールするわかりやすいアプローチであることは確かである。「○○だぜ」や「すげえじゃん!」といった言葉遣いは、大人が子どもに示すものとしては模範的ではなく不適切かもしれないが、子どもにとっては友だちと話しているような感覚が持てて、うれしいものなのかもしれない。
 
 Cさんは意図的に言葉遣いを対・大人のときと同様にするよう努めていて、「大人っぽい、子ども扱いが前面に出る口調」を意識的に遠ざけようとする労力は想定されるから、その方針に否定意見は寄せられるかもしれないが、本人なりの努力と葛藤があってのことという点は評価に値するであろう。Cさんなりに「子どもを尊重しようとしている」ということなのだ。
 

● 子どもと向き合うために大人も余裕を持って過ごしたい

 さて、ここまでの例から筆者が考えるのは、子どもを尊重することの意味である。大人だって、「尊重されていない」と感じた相手のことを好きになることはそうそうない。子どもが「尊重されていない」と言語化することはなくても、その心理を彼らは読み取っている。

 さまざまな理由によって子どもを尊重することができないケースがあるのは痛ましい現実であるが、どこかで自分の心に余裕のある局面が訪れたら、ぜひ子どもと向き合いたい。今回紹介したいくつかのテクニックや子どもへの向き合い方は、こちらの尊重が子どもに伝わりやすいものとなっている。
 
 児童虐待が根絶される日が来るのを願いつつ、本稿が児童虐待防止推進月間にささやかな一助を添えられれば幸いである。


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