子供の「コロナごっこ」を禁じてはいけない理由─子供の“遊び”が表すもの【2020年ベスト記事】


クーリエ・ジャポン


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2020年、クーリエ・ジャポンで反響の大きかったベスト記事をご紹介していきます。4月20日掲載〈子供の「コロナごっこ」を禁じてはいけない理由─子供の“遊び”が表すもの〉をご覧ください。
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4歳の姉が妹に「あなたはおそらく死ぬでしょう」
ルイジアナ州立大学で希書のキュレーターを務めるジョン・マイルの娘たちが、最近お医者さんごっこをしていたときのことだ。

医者役の4歳の姉が、患者役の妹を診察していた。姉はおもちゃの体温計で妹の体温を計り、聴診器で心音と呼吸音を聞き、小さなプラスチックのハンマーで膝を叩いた。診察を終えた姉は、妹が新型コロナウイルスに感染していると診断した。そして、事務的な口調で、あなたはおそらく死ぬでしょう、と言った。

パンデミックという大惨事の最中、多くの親たちがこのような場面に遭遇している。

「新型コロナウイルスは子供たちの生活を大きく変えました。子供たちがウイルスについて考えるのは当然のことです」

そう話すのは、オハイオ州のケース・ウェスタン・リザーブ大学で遊びについて研究している、サンドラ・ラス教授だ。
怖くて混乱するようなニュースを聞くと、多くの子供はそのことについて時間をかけて理解しようとして、遊びにむかう。

ルイジアナ州立大学の心理学者ジョイ・オソフスキーは、2005年にハリケーン・カトリーナが同州を襲った際、救助活動に使用されたクルーズ船で働く機会があった。

彼女はその船のうえで、子供たちが「ハリケーンごっこ」をしていたことを覚えている。子供たちは暴風のまねをし、走って逃げ回り、船中におもちゃをまき散らすことで、嵐によってめちゃくちゃになった状態を再現したのだった。

子供による多様な「コロナ遊び」
遊びは子供の言語だ。子供にとって「ごっこ遊び」とは、不安を表現し、わからないことについて尋ねる手段のひとつであり、そしてきわめて重要なことに、物語を作り直す手段でもある。

ごっこ遊びにおいて、子供たちは自らプロットを作りながら、恐ろしい出来事の結末を変えてみたり、あるいは問題に対していろいろな解決法を試してみたりすることができる。

たとえば、ワシントン州のカークランドで子育てをしているケリー・リッティングは、次のエピソードを教えてくれた。同地のある保育園では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、この病気がコロナウイルスによって引き起こされ、呼吸が苦しくなるなどの症状があると知った子供たちが、「心臓マッサージごっこ」を始めたという。

カナダのマニトバ州ウィニペグ在住の弁護士、ブラッドリー・マディソンの4人の息子は、最近「コロナボール」遊びをしている。この遊びは、コロナウイルスの形状になんとなく似た、とげのあるプラスチックのボールを、ドッヂボールのように避ける遊びだ。

ミズーリ州のカンザスシティで学校が休校になる前、ネイサン・ホッパーの8歳の娘と11歳の息子は、級友が発明したコロナに関するさまざまな遊びをしていた。

「ソーシャル・ディスタンシング鬼ごっこ」は、鬼はタッチではなく人の影を踏むことで交代するというルールで、普通の鬼ごっこに比べ他人と距離を置ける工夫がなされている。

また、「コロナウイルス鬼ごっこ」はやや危険な遊びで、鬼は他の子に向かって咳をすることで交代する。この遊びでは、子供たちは「防護服を着る」(=フードを被る)か、「マスクを着ける」(=袖で顔を隠す)ことで「免疫」を獲得することもできる。

子供の考えていることは「遊び」を見ればわかる
誰かに向かって咳をすることに対しては注意すべきだが、一般的に、子供たちがコロナウイルスを遊びに組み込むことについて、親が心配する必要はない。

子供たちは遊びのなかで自分の不安を表現しており、たとえ死について言及することがあったとしても、それは自然なことだ、とラス教授は言う。

ただし、「もし遊びの雲行きが怪しくなり、子供たちが遊んでいる最中でも不安そうに見えたら、気にかける必要があります」と話すのは、ミネソタ大学子供教育研究所のアン・マステン教授だ。

しかし、子供が動揺しているようにみえる、あるいはごっこ遊びなどで結末を変えることなく、衝動的に同じシナリオばかりを繰り返していない限りは、心配する必要はない。遊びとは、子供がニュースを自分の中で処理する健全な方法であり、親は彼らが遊ぶ様子から、子供の精神状態について理解を深めることができる。

ミネソタ大学で家族社会学の教授を務めるアビゲイル・ゲワーツは、「子供たちが遊んでいるのを見ると、彼らがこのウイルスとパンデミックについて何を考え、何を信じているのか、ヒントを得られることでしょう」と話す。

アフターケアの必要性
私が話を聞いた親のなかには、自分の子供がとりわけ不安がっているとか怯えていると考える者は一人もいなかった。しかし一方で、全員が子供たちの日常に起こった変化と格闘していた。

彼ら親たちは皆、コロナウイルスが招いた死や長期にわたる非常事態についての子供からの質問に、日々向き合っていた。リッティング教授の娘は、死について、そしてなぜ友達に会えないのかについて、多くの質問を投げかけたという。

「娘はあまりに長いあいだ友達と会えていないために、『友達が自分の心からいなくなってしまった』と私に言い続けています」とリッティング教授は言う。

救急医療隊員で、救急医療サービスのアシスタントディレクターも務めるネイサン・ホッパーは、子供たちとの対話に辛抱強く応じてきた。だが、彼が最も心配しているのは、子供たちがこれから数ヵ月後に受けるショックのことだ。

「家をなくした友達もいます。親が仕事を失った友達もいます」

そう話すオソフスキーもまた、ハリケーン・カトリーナのあとで子供たちの対応にあたった経験から、いまの不安や隔離、先の見えない状況によって引き起こされる、パンデミック後の子供のメンタルヘルス問題を心配している。

コロナ禍で子供と向き合う方法
家族社会学教授のゲワーツが親たちに勧めるのは、まず自分の感情を子供に投影していないかを確認したうえで、子供の気分を見極めることだ。

彼女によると、親は今後についてまだわからないことを子供と約束すべきではない。だが、コロナウイルスに対する子供の間違った認識を解いてやること、残酷なニュースから子供を守ること、安らかな心でいられる方法を子供とブレインストーミングすることはできる。

私が話した専門家たちが何よりも強調したのは、親は子供が遊ぶのを妨げてはいけない、ということだ。想像力に富んだ遊びをすることは、クリエイティビティや処理能力を高めるのに役立つと、ケース・ウェスタン・リザーブ大学のラス教授は言う。

遊びは感情を処理するためのひとつの手段であり、単なる楽しい気晴らしでもある。遊ぶことで、子供たちは深刻な不安から一度目を逸らすことができる。また一方で、遊びは想像力を使って自分なりの問題解決を実践する機会でもある。

マイルズは、上の娘が妹に対して死を宣告したのを聞いたとき、どう反応したらいいのかがわからなかった。上の娘が苦痛を感じているようには見えなかったが、彼女の言ったことは恐ろしかったからだ。

彼女が直接的に不安を表明したわけではなかったが、マイルズは遊びのあとで、自分たちは危険な状態ではないけれど、しばらく会っていないおじいちゃんやおばあちゃんなど、お年寄りは守らなくちゃね、と伝えた。

次にお医者さんごっこをしたとき、彼女は妹に対して健康だと診断したという。


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