保育士の奮闘、脱プラ生活…記者が2020年の取材で感じたこと


西日本新聞


------------------------------------------------------------------------------------------------
世界中が新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄された2020年。くらし取材班はコロナ禍をはじめ、さまざまな問題や話題を取り上げてきた。4人の記者が今年を振り返る。

【動画】「涙が出た」話題になったコロナ終息願う動画

◆エッセンシャルワーカー 「普通」を現場で支える
緊急事態宣言下でも保育士は変わらぬ笑顔で子どもたちに向き合った(撮影・佐藤雄太朗)

 5月初め、保育所の先生から電話があった。「3人見ながらでは仕事にならないでしょう。少しの時間でも園で預かりましょうか」

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言が出て約1カ月。福岡市は保育所の利用を医療従事者や警察官などに限り、他は自粛を呼び掛けた。私もほぼ在宅勤務となったが、自宅には休校が続く小1の長男や、保育所を休ませた次男(3)と長女(1)がいて仕事にならない。電話は本当にありがたかった。

 保育所では小まめな検温や除菌、おもちゃや遊具の消毒など常に感染対策に神経をとがらせる日々。それでも先生たちは変わらぬ笑顔で子どもたちと接してくれた。その姿を9月、連載「働き支える コロナ禍のくらし」で紹介した。

 子どもを預ける保護者の多くはコロナ禍の現場で働く看護師や介護士。ある保育士は言った。「私たちも皆さんの仕事に支えられています」。世の中に欠くことのできないエッセンシャルワーカー。そのくらしを支えるのもまたエッセンシャルワーカーだ。

 第3波が猛威を振るい、取材先を含む多くの保育所で園児の感染が確認され休所も相次ぐ。そうなれば保護者は頼れる場所を失い、働くこともままならない。保育士の奮闘は続く。

 今や結婚後も、出産後も、女性が働くのは一般的になった。その「普通」の日常を、私たちは働くことで支え合っている。先生がた、本当にありがとうございます。 (本田彩子)

◆吃音 聞き手への信頼あれば
 言葉が出にくかったり、同じ音を繰り返したりする吃音(きつおん)に悩む人たちを12月、くらし面で紹介した。当事者の話を聞こうと10月、福岡市の公民館で開かれた自助グループ「福岡言友会(げんゆうかい)」の例会を訪れた。

 互いに近況を報告し合う会員5人の話しぶりは想像と少し違っていた。話し始めにたまに詰まることはあるが、支障を来すほどではなく、やりとりはスムーズだった。「症状はさほど気になりませんでした」と感想を言うと、会員がこう返した。「吃音が出るかどうかは相手次第です」

 吃音は人前などで嫌な体験を重ねると同じような場面が苦痛になり、症状が悪化しやすい。逆に聞き手が話を遮ったりせかしたりせずに、寛容な姿勢で耳を傾ければ症状は出にくい。例会で会員が支障なく話せたのは、その場にいた全員に理解があり、信頼があり、安心があったからだ。

 当事者は知らない相手と電話で話すのが苦手な人が多い。今年はコロナ禍でオンラインを使って会話する機会が増え、「意思を伝えづらくて困った」という。職場や教育現場でオンラインの導入が進む。その陰で苦しむ人がいることを忘れてはならない。

 吃音がある人は100人に1人とされる。彼らの存在は見ただけでは分からない。周囲に職場の電話が鳴っても出なかったり、人前で話すのを尻込みしたりする人はいないか。その人は吃音があるのかもしれない。ゆったり構えて耳を傾けてほしい。

◆プラごみ レジ袋は減ったけれど
 プラスチックごみによる海などの環境汚染が深刻だ。私たちにできる事は何か。自分の生活を見直そうと昨年末、2週間の「脱プラ」に挑戦した。まず途方に暮れたのが買える物がほとんど無いことだ。暮らしがプラに支えられていることに気付いた。

 今年、その実感はコロナ禍で深まった。使い捨て手袋など衛生用品の多くがプラ製。使い捨てマスクの素材の不織布もプラの一種だ。飲食店のテークアウトや宅配商品の容器や包装もそう。プラ製包装容器を分別回収する北九州市によると、4~8月の家庭ごみにおけるプラ製品の量は昨年同期比で10%増えたそうだ。

 国は2030年までの使い捨てプラ25%削減を掲げる。7月には全国の小売店でレジ袋が有料になり、代替のマイバッグが浸透した。わが家では生ごみを入れるレジ袋の手持ちが減ったため生ごみを堆肥にするコンポストを使い始めた。一方で宅配やテークアウトの利用が増え、包装や容器でごみ袋がすぐ満杯になる。意識を高めたはずが、わが家のプラ排出量は今年、確実に増えた。悩ましい。

 国内で出る廃プラは年間約900万トン(10年)。大半が焼却や再利用され、不法投棄やポイ捨てなどによって自然環境に流出するのは1%余りの約14万トンだ。廃プラの総量を減らせば「1%」の量を減らせる。例えばお店でお弁当を買うとき、使い捨てプラではない容器を使えないか。レジ袋の次に何を減らせるか、考えたい。 (川口史帆)

◆予期せぬ妊娠 まず命を守ることから
ピッコラーレが開設した行き場のない妊婦のための施設。リビングでは食事をしたり、トランプをしたりして過ごしているという

 思いがけず妊娠して誰にも話せず、ネットカフェや知人宅などを漂流する女性たちがいる。虐待から逃れた先で行きずりの男性の子を身ごもったり、たどり着いた風俗店の寮を妊娠で追い出されたり。行き場のない彼女たちが安心して身を寄せられる施設を東京のNPO法人「ピッコラーレ」が開設したことを5月、くらし面で紹介した。

 法人によると、開設後の半年で15~24歳の10人が利用した。実家も友人も頼れず、さらにコロナ禍が追い打ちとなって仕事も失い、病院にも行けない。そんな事例が目立つという。

 彼女らは行政による支援の枠組みからこぼれ、実態把握すら難しい。だが放置すれば、新たな虐待と不幸を生む。寄る辺のない女性と赤ちゃんの命を守り、自立を促す取り組み。そのともしびはまだごく小さい。

 施設の近況を聞く中で1枚の写真が目に留まった。赤ちゃんの生後100日を祝うお食い初め膳だ。「みんなでお祝いしたんです」とスタッフ。一緒に喜び、見守ってくれる人たちがここにいる。自分の居場所がある。日々、小さな安心の積み重ねが、生きる力をはぐくむ。そう感じた。

 10月には福岡市に同様の取り組みを行う産前・産後母子支援センター「こももティエ」が開所した。来春には筑後地方にも予定される。予期せぬ妊娠の背景には貧困や虐待、孤立などの問題が厳然とある。「自己責任」と突き放しても誰も救われない。社会全体で支えたい。 (新西ましほ)


------------------------------------------------------------------------------------------------

コメント