国際化が進む「昭和女子」が目指す附属校改革とは


ダイヤモンド・オンライン


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日本と米中韓の大学の2つの学位が取れるダブルディグリー制度は、キャンパスのグローバル化を進める昭和女子大学の人気を押し上げてきた起爆剤である。一方で、この世田谷キャンパスにある附属校にも変化の波が訪れてきた。これからの焦点は、附属中高の改革となりそうである。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)

 坂東 眞理子 (ばんどう・まりこ) 昭和女子大学理事長・総長

 1946年富山県生まれ。東京大学卒。69年総理府に入り、75年総理府婦人問題担当室(のちの男女共同参画室)発足時に参加、初めての『婦人白書』(78年)の執筆を担当する。埼玉県副知事、在豪州ブリスベン総領事、総理府男女共同参画室長、内閣府男女共同参画局長等を歴任。2003年昭和女子大学理事・教授、2007年学長に就任。2016年から現職に。2006年刊の著書『女性の品格』は300万部を超える超ベストセラーとなった。最新刊は『賢く歳をかさねる人間の品格』(SB新書)。

● 社会人大学院を開設する理由

 昭和女子大の世田谷キャンパスには、0歳児から通うこども園、大学院博士課程、キャリアカレッジでの生涯学習と一生の学びが詰まっている。大学と附属中高は女子が対象だが、それ以外は共学校で、英国の教育課程に基づくインターナショナルスクールが併設され、米ペンシルベニア州立テンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)も敷地内にある。このスーパーグローバルキャンパスでは、附属校を含めた改革の機運が盛り上がり始めている。

 ――大学の学部の改革はだいぶ進んでいる印象ですが、他にはどのようなことを手掛けていらっしゃいますか。

 坂東 2021年4月から社会人大学院を開設します。働きながら修士号を取得できる1年制の修士課程です。消費・経営大学院と、保育・福祉経営大学院で経営、マネジメントを学んでいただきます。18歳人口は減少しますが、社会人の方にも大学院に来てもらい、実務に生かしてもらいたいと思っています。大学院は男女共学です。

 グローバルビジネス学部を設立した際もそうでしたが、普通のMBA(経営学修士)取得のビジネススクールを作っても、先行している大学がたくさんあります。昭和女子大が新たに手がけるからには新しい分野の経営を対象にしようと考えました。保育や福祉の施設は少子高齢化社会に向けて施設数が増えているものの、マネジメント力を強化し、より子どもたちや高齢者に寄り添った運営が求められています。

 ――確かにその通りだと思います。保育所や福祉施設のような非営利組織のマネジメントについてわが国は不十分で、アメリカが40~50年以上先行していますね。福祉保育分野で辞める人が多いのは、実はマネジメントの問題が大きい。そこに着眼されたのはさすがだと思います。経営マインドを持った福祉保育分野の人材が多く育って、より充実した福祉保育サービスを実現していただきたい。そもそもわが国はサービス教育がほとんど行われていないのではないか、というのが実感です。

 坂東 昭和女子大では附属こども園も経営しています。附属幼稚園は1951(昭和26)年に設立されて長い歴史がありました。2005年に認証保育所「昭和ナースリー」を作り、その後認可保育所に移行しました。この間、共働き家庭が増え、待機児童解消と幼児教育の両面から幼保一元化の必要性が高まり、こども園が制度化されたのを受け、2016年に幼稚園とあわせてこども園として開設しました。

 ――その点も働く母親の支援ということで坂東理事長のテーマと一致していて、あるべき形を実現されておられますね。実は、中学受験という私の専門領域からいうと、以前は専業主婦のご家庭が主でしたが、近年は、例えば家庭教師センターが、家庭教師派遣を頼まれて連絡を取ろうとすると、日中は不在、夜にならないと連絡できないというのが当たり前になりました。

 坂東 そうなんです。時間はないけれど教育熱心な保護者に寄り添う附属校に変わりつつあります。また、オンライン授業への取り組みにも力を入れてます。附属昭和小学校では、コロナ禍で臨時休校が要請された後、4月の新学期からオンライン授業に一斉に切り替え、「オンライン昭和っ子」として学校をあげて取り組みました。

 英語教育にも力を入れており、帰国生も受け入れています。児童のご家庭に新しい教育環境を提供するために努力しています。アフタースクールを設け、英語はじめいろいろな習い事を行っています。

 ――こども園と小学校とのシナジー効果は高いと思います。先ほども指摘しましたように、中学受験をさせる保護者はダブルインカムで、ワーキングマザーが大半を占めるようになっていますから。新型コロナ以来、公共交通機関の利用をなるべく避け、徒歩圏の学校を選ぶ傾向も強まっていますので、性別の心配がない点が助かります。ところで、キャンパス内には外国人のお子さんがたくさんいましたが。

 坂東 ブリティッシュスクール・イン・トウキョウ昭和(BST)といいまして、都内にあるインターナショナルスクールの中でも、人気も教育レベルも高い学校です。渋谷区の施設内で幼稚園も含め運営されていたのですが、生徒が増加し手狭になったので、本学の世田谷キャンパスに移転した。

 ――ネイティブの教員資産が同じキャンパスの中にある、というのは大きな可能性を秘めていますね。それこそネイティブならではの教育がたくさん考えられるわけですから。

坂東 2006年、運動施設なども揃っている昭和女子大キャンパスに来ていただきました。2006年のことです。本学キャンパスには8歳から18歳までの生徒が在籍しています。学年カレンダーや英語力の違いはありますが、さまざまな交流を深めています。コロナで外国に行けない今こそ、同じキャンパスに外国の大学・中高があるのはメリットです。今後は授業でも、教室外でも交流を実現します。教室の内外での交流がスーパーグローバルキャンパスの特徴だと思います。

● 10年来の低迷からの脱却

 ――世田谷キャンパスは女の園というわけではなく、実際には共学の文化もあるのですね。

 坂東 多様性に富んでいます。附属中高と大学の学部は女子校であることに意味があると思います。特に思春期から青年前期の、まだ自分に自信のない、自己肯定感や社会観が確立していない段階では。

 共学校では、同級生の未熟な男の子が、「女のくせにナマイキ」だとか、「そんなに勉強ができる女の子は将来モテない」といった心ないことを口走ったりします。それが女子を萎縮させています。女性には何でもやればできるという、自分に自信を与える経験、成功体験が必要だと思います。

 ――2020年の中学入試では志願者が非常に増加して人気となりましたが。

 坂東 変革努力を続けてきたのですが、昨年やっと伸びました。2021年はこれよりもさらに上に行きます。進学塾の先生方にも意気込みをようやく理解していただけたと思います。大学と連動した「五修生」(中高6年の教育課程を5年間で修了し1年早く昭和女子大学で学ぶ制度)やダブルディグリー制度もそうですが、中高できちんと学力をつけ、他大を含めた進学支援に注力します。例えば、総合医療系大学の昭和大学からも医学部の推薦枠をいただいています。

 ――スーパーサイエンスコースというのも設けられましたね。

 坂東 マナーやしつけ、一般の学力も必要ですが、昭和女子大学の強みとする英語も含めたグローバルに通用する力、そしてこれからは理数系、デジタルサイエンスも不可欠ということで力を入れていきます。

 導入当初は、中学入試でスーパーサイエンスコースを募集しても受験生から敬遠されると考えて、中3のときにコース分けをしていましたが、2021年からは、本科、グローバル留学コースに加えて、スーパーサイエンスコースを中学入学時から募集します。

 ――それはいいことですね。ところで、戦後、中高一貫教育を始めたのは、昭和女子と桐朋女子が最初でした。いわばパイオニアだったわけですね。

 坂東 人見楠郎(くすお)先生という2代目の理事長が、とても初等中等教育に熱心で、どんどん新しいことをするチャレンジャーでした。

 2017年に附属中高の卒業生で英語教育を専門とする当時の金子朝子学長(現・学校法人昭和女子大学理事、特任教授)に附属中高の校長を兼務してもらい、中高独自の行事カリキュラムの見直し、グローバル留学コースの強化などに力を入れました。

 その後、新たに真下峯子先生という理数系教育に実績のある非常にパワフルな方に附属中校の校長として来ていただきました。有名大学への進学実績をもっと出すよう、まずは学力を上げていきましょうと取り組んでいるところです。

● 女子大の存在意義

 ――大学の出口である就職実績と同じで、中高でもやはり進学実績を出していくことですね。

 坂東 はい。附属中高では国立や医学部など難度の高い大学へのチャレンジを積極的に応援していきます。昭和女子大の推薦入学を確保した上で難関大学にチャレンジできる制度を活用してほしい。中高生にとって、選択肢は多い方がいいですから。

 長い人生です。目の前の受験の結果が最後にその人の人生にどうつながるかは、受験の合否ではなく、進学した先でどれだけがんばるか、どれだけ成長するか、が大事です。

 昭和女子大でも、早慶上智を目指していたが受験に失敗し、第3志望、第4志望で入学したという学生がいます。そういう学生たちが、しっかり勉強し成果を上げることで、大学自体の教育レベルを引き上げています。難関大学にチャレンジし失敗しても、その経験は進学した大学で必ず生かされます。昭和女子大でリベンジできるよ、ダブルディグリーを取って第一志望の大学へ入った同級生を見返してごらんと。

 ――100周年記念では何か行いましたか。

 坂東 新型コロナ禍で小規模でしたが式典を開催しました。また、女性活躍をいかに実現するか議論する記念シンポジウムも実施しました。この100年間の歴史を振り返って、これからどういう新しい100年に踏み出すのかという方向を宣言しました。キャリア教育とグローバル志向に加えて、これからは生涯学習に向けて大学院に社会人の方に来てもらえるような大学にしたい。それから、大学でもデジタル・リテラシーを持つよう力を入れていきたいと思います。

 ――女子大の存在意義がそろそろ尽きるのではないか、みたいなお考えはありませんか。

 坂東 日本で男女共同参画が完全に実現して、女性もそれぞれきちんと能力が発揮できるような社会になれば女子大の使命はなくなるかもしれません。まだ残念ながら、女性だから越えなければならない課題や困難があります。それを乗り越えるために女性にこそ気力、知力、スキルが必要だから、当面女子大の存在意義があると信じています。


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