「子に寄り添っていない」療育システムの記事に反響 初診待ち常態化


西日本新聞


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福岡市の未就学児の療育システムについて取り上げた本紙記事に反響が寄せられた。当事者家族の声も複数あり「子どもに寄り添う制度ではない」と不満がつづられていた。現場を担う施設の一つ、市立心身障がい福祉センター「あいあいセンター」(中央区)の中満達郎・療育課長に改めて市の意図を尋ねた上で、早期療育の在り方について全国発達支援通園事業連絡協議会会長の近藤直子さんに聞いた。(本田彩子)

【画像】違いは?福岡市と他の自治体、療育開始までの流れ

指定医の診断は必要 あいあいセンター 中満達郎・療育課長
 -記事では、福岡県外から市に転入した発達障害のある4歳児が手続きの遅れから4カ月間、療育施設に通えず、それを理由に幼稚園にも通えなかったことを報じた。

 「報道は希な事例だ。療育手続きと幼稚園に入れなかったことは別の問題だ」

 -未就学児の療育には3カ所ある市の療育センターの医師による診断が必須だが、初診まで1~3カ月待ちが常態化している。

 「初診待ちの長期化は確かに課題だ。センターには現在、常勤医各1人のほか非常勤の医師もいて診断に当たっている。初診時には臨床心理士による発達検査も行う。臨床心理士の増員や、それに伴う診察室や面接室の増設に取り組んでいる。非常勤の医師を増やす努力もしている」

 -他の自治体では民間の医療機関の診断や保健師の意見書があれば療育に必要な受給者証が発行される。

 「専門家がきちんと診察し、検査しないと正しい診断ができず、本当に療育が必要な子どもが見落とされてしまう危険性がある」

 -通所先の療育施設や通所日数、保護者の同伴などを居住地や子どもの年齢によって市が細かく決めるため保護者が自由に選べない。

 「交通手段の有無などで通所できる子とできない子がでないよう調整している。1、2歳児は家庭での子どもとの関わり方を保護者に学んでもらうため同伴を求めている。共働きなどで同伴が難しい家庭には月1回の外来療育など別の選択肢もある」

急増する療育のニーズ…福岡市が対応していくには?
 未就学児に療育を行う国の「児童発達支援事業」は各自治体が療育の必要性を判断して受給者証を発行する仕組みだ。厚生労働省の見解では医師の診断は不可欠ではなく、乳幼児健診などを担う保健師の意見書でも可能とされる。地方には専門医が少なく診察を受けられない地域もあるため、全国どこでも支援が受けられるようにするためだ。

一方で福岡市などの大都市は専門医が一定数いることから、指定医の診断を必須とする自治体が多い。地域拠点である療育センターに専門医を配置することは発達障害に限らず医療的ケア児や重度心身障害児を支える上で大事だ。だが、医師の診断を受給者証発行の「踏み絵」にしてはならない。

 全国的にも、指定医の診断を求める自治体のほとんどで2カ月~半年の初診待ちが常態化し、問題となっている。そのため名古屋市では本年度、医師の診断を待たずに療育を始める取り組みを試験的に始めた。

 発達障害の子と親が求めているのは医療だけでなく、子どもの行動や気持ちをきちんと理解してくれる人を周りに増やすこと。そこで重要なのは療育センターと保健所、幼稚園や保育所の3者の連携だ。それぞれが互いに子どもの状況を把握しながら、子どもが楽しく過ごせて、親の不安も取り除く仕組みを築く。縦割り行政の垣根を越え、情報を共有して議論できる場を作るべきだ。

 今回の事例では、福岡市はもっと柔軟に対応すべきだったのではないか。診断や手続きに時間がかかるなら、それまでに子どもが通える場所を別につくる。療育センターだけで対応できないなら、地域の子育て支援センターなどで診断待ちの子に対応する曜日を設けてもいい。システムが硬直化してはいけない。

 全国的に未就学児の療育のニーズは急増している。福岡市の現在の仕組みと施設数では対応しきれないだろう。民間事業者の参入が増えれば療育の質の問題などが生じる恐れはあるが、だからといって封じるのではなく、全体を底上げするための研修や連携の仕組み、施策を市が責任をもって考えるべきだ。これまでの知見を生かし、関係機関が皆で知恵を絞って、全体として親と子の求めに応える体制を築いてほしい。 (談)

近藤直子(こんどう・なおこ)
全国発達支援通園事業連絡協議会会長 近藤直子さん

 日本福祉大名誉教授。専門は発達心理学。大阪府や名古屋市などの保健所で40年以上、乳幼児の発達相談を担当。NPO法人あいち障害者センター理事長。


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