わが子が伸びる習い事 家庭での環境づくりのひけつは?


朝日新聞EduA


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幼児教育に詳しい東大名誉教授の汐見稔幸さん(73)は、子どもに習い事をさせるなら、家庭での環境づくりが不可欠だと言います。汐見さんに、そのひけつを聞きました。

【話を聞いた人】教育学者、日本保育学会会長 汐見稔幸さん
汐見稔幸さん

(しおみ・としゆき) 白梅学園大名誉学長、東大名誉教授。著書に「『天才』は学校で育たない」(ポプラ社)など。

江戸時代も習い事はじめは「数え6歳の6月6日」
日本人は昔から教育熱心でした。学校がなかった江戸時代にも、庶民の子は寺子屋で読み書きやそろばんを習い、三味線や踊りなどの芸事をする子もいました。いったい何歳で「習い事」を始めればいいのかと昔の人たちも模索したようで、そのころは「数え年で6歳の6月6日」に始めるのがいい、とされていました。いまの年齢にすると4、5歳です。これは妥当な数字だと思います。4、5歳くらいなら、どうしてやるのかを理解できるし、自分なりに頑張ろうという気持ちにもなれます。

習い事を始めるにあたっては、家庭での環境づくりが欠かせません。「これからピアノを習おう」というときに、音楽に何のなじみもなく、動機付けもないまま、急に通い始めても、音楽を好きになったり、可能性を伸ばしたりするのは難しいかもしれません。家の中にすてきな音楽が流れているとか、家族で楽しく歌を歌っている、親がかつて習っていたピアノをもう一度弾いて楽しむ姿を見せるなど、習い事を始める前に、環境を準備してあげることは、とても大切です。

「~しなさい」だけでは大切さは伝わらない
幼児教室や塾も、ある日突然、勉強を始めるのではなく、子どもが言葉で考えることを大切にできるような、日常の親からの丁寧な言葉かけが重要です。小さな子どもはいま起こっている状況を大人と同じようには理解できませんから、「風が吹いたから涼しいね」とか、「この色の紙で包むときれいに見えるよね」などと、丁寧に説明してあげる必要があります。そうやって、知的なものに関心を持つ土台をつくっておくことが大事です。逆に「~しなさい」など、指示や命令する言葉ばかり使っていると、子どもに言葉で考えることの大切さは伝わりません。

スポーツを何かさせたいなら、まずはいろいろなスポーツを一緒に見に行って、選ばせてあげるのがいいと思います。「たまたまやってみたら興味を持った」ということもあるかもしれませんが、それは期待しない方がいいでしょう。

習い事を始めた後も、習っていることに意味があると思えるような環境づくりは不可欠です。ピアノをやっているなら、親子でピアノの演奏を聴きにいくなど、やる気につながる体験をじわじわとさせていかないと、続きにくいし、効果も上がりません。習い事に頼るだけではダメです。

AI(人工知能)社会へと変化していく時代、AIにできることは任せて、人間にしかできないこと、つまり、どうしたら自分の人生を充実させられるかを考えることは、これからの教育で重要になります。その手段として、習い事には意味があると思います。

妹の家族が英国で暮らしていたとき、クリスマスなんかに行くと、家族でピアノやフルートを演奏していて、「こんなことが普通の家庭でできるのは、すてきだな」と思いました。音楽でも、演劇でも、囲碁・将棋でも、興味のあるものなら何でもいいと思います。生活を豊かにしてくれるような習い事を見つけて、頑張って続けてみることが、これからの社会を生きるうえでは大事です。


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