欧米では当たり前の里親制度、改めて知る日本の現状


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 欧米に比べて一般的とは言えない里親制度。だが、里親・特別養子縁組によって子どもを迎え入れる家庭の支援制度を検討するなど、国も重い腰を上げつつある。多様化する家族や子どもの形を反映した動きだ。里親制度の現状について、里親家庭で育った山本真知子の論考。

 (山本 真知子:大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科専任講師)

 2020年11月、厚生労働省は不妊治療を受けても成功せず、里親・特別養子縁組によって子どもを迎え入れる家庭への支援制度を検討するため、当事者の意識調査を実施すると発表した。この里親制度や特別養子縁組制度、耳にしたことはあるが実際にどんなものかわからないという人も多いのではないか。

 筆者は、2019年『里親家庭の実子を生きる 獲得と喪失の意識変容プロセス』、2020年『里親家庭で生活するあなたへ―里子と実子のためのQ&A』を上梓した。どちらも里親家庭で育った自分自身の実子としての体験が基盤となっている。

 筆者の両親は、里親としてこれまで17人の子どもたちを家庭に引き取って育て、現在もそのうちの4人と共に生活をしている。読者の中で、里親をしている人に出会って話を聞いたことがあるという人は多くないだろう。2018年3月末現在、日本全国には里親と登録された世帯が1万1730世帯しかなく、実際に里親に委託されている子どもは5424人のみだからだ。(参照:厚生労働省「社会的養育の推進に向けて」)

 現在、日本では約4万5000人の子どもたちが社会的養護のもとで生活している。この社会的養護とは、虐待や親の死亡、病気、行方不明などによって親の元で生活することができず、里親や児童養護施設等の児童福祉施設において養護されていることを指す。少子高齢化社会となって、子どもの人口は減る一方であるが、この社会的養護の元で生活する子どもたちは減ることはなく、ほぼ横ばいで推移している。また、児童虐待の相談件数は年々増加し、支援を必要とする子どもとその親は増加している。

 日本は先進諸国の中で、社会的養護に占める家庭養護の割合が非常に低く、施設での養育が中心とされてきた。現在も、保護を必要とされた子どもたちの約8割が児童養護施設等の施設で、残りの約2割は里親等の家庭での生活をしている。

 2016年に児童福祉法が改正され、家庭での養育ができない場合は、まずは家庭と同様の家庭環境で養育されるように、国及び地方公共団体の責務で必要な措置を講ずるように示された。この「家庭と同様の家庭環境」がまさに、家庭養護である里親や、戸籍上親子となる養子縁組を指している。

■ 里親制度と養子縁組制度の違いとは

 日本ではイエを継ぐため、墓を守るためなど、いわば親の都合中心の養子縁組が行われてきた。そのため里親制度を、養子縁組制度と同様に考え、里親制度と養子縁組制度の違いを十分に理解していない方も多い。

 里親制度は児童福祉法に規定された児童福祉の制度であり、里親と里子は戸籍上も血縁関係上も親子ではない。子どもが18歳(一部20歳まで延長可)になるまでという養育期限があり、その間も実親との交流があることもある。一方「特別養子縁組」は、家庭に恵まれない子どもと戸籍上も親子になって養育する制度で、養育期限はない。

 里親には大きく分けて4つの種類がある。一般的に里親と呼ばれる「養育里親」、虐待を受けた子どもや障害のある子どもを専門的に預かる「専門里親」、3親等以内の親族を預かる「親族里親」、特別養子縁組を希望する「養子縁組里親」である。なお、「専門里親」になるには、養育里親の経験と専門里親になるための研修を受けることが必要条件となっている。

 里親になる人はどんな人なのだろうか、特別な人しか里親にはなれないのではないだろうか、と疑問に思う人も多いだろう。ここでは「養育里親」を例に取ってみよう。

 里親になることを希望する人はまず、住んでいる自治体の児童相談所へ連絡をする。そこで里親制度の説明を聞いて、次に研修を受けることになる。研修の内容は自治体によって多少異なるが、社会的養護や里親の理解、子どもの保健などの座学と、児童養護施設等での実習がある。

 里親の条件としては、要保護児童の養育についての理解及び熱意と、児童に対する豊かな愛情を有していること、経済的に困窮していないこと(生活保護世帯やそれに準ずる家庭は不可)、里親本人またはその同居人が欠格事由に該当していないことがあげられる。

 養育里親の場合、25歳以上であれば、高齢の方でも可能である。例えば、養育する子どもが高校生の場合などは、人生経験豊富な方が求められ、実際に60代の里親も多くいる。職業は様々であり、規定はない。実子がいる、フルタイム勤務であっても里親になることはできるが、どのような子どもが委託されるかは児童相談所のマッチングによる。家の広さは一般家庭であれば問題はないが、例えばワンルームに家族全員が寝ているなど、子どものプライバシーを守ることができない場合や極端に汚いなど、子どもの養育に適していない場合は条件に合わない。

 研修を受けた後は、過去に児童ポルノなどの犯罪歴がないかという調査や家庭の経済事情の調査、家庭訪問などを受ける。その結果をもとに児童福祉審議会で審議された後、都道府県知事が最終的な認定した上で、里親登録名簿に記載されることになる。また、里親を継続する場合は、原則5年ごとに研修を受けて更新する必要がある。

 そして里親名簿に登録された後に児童相談所がそれぞれの里親と、里親家庭に委託したい子どもをマッチングし、子どもとの交流を経て里親となる。子どもが委託されると里親には、子どもの養育のために必要な生活費や教育費など一般生活費と、里親手当が支給される。

 里親に委託される子ども(里子)の年齢は0歳から17歳までであり、委託期間も1カ月程度から18年間という長期まで様々である。また、子どもたちが委託されるまでの生活環境や経緯、実親との交流の有無などの状況も皆それぞれ異なっている。

 里親は子どもに寄り添って、一人ひとりの子どもの健やかな育ちを支えるものである。とはいえ、血のつながりのある親子も、どの家族もそうであるように、里子も里親も最初から何も問題もなくずっと生活していくことができるわけではない。

 里親家庭に対しては、児童相談所をはじめ、様々な支援機関や施設によって養育相談や定期的な訪問などの支援がある。また、必要に応じて里子の心理面接なども行われている。それから、里親同士が参加する里親会というものもある。里親と子どもたちが参加する行事などを通して、里親ならではの悩みや喜びを共有しながら、様々な人々のつながりが里親を支えている。

■ 筆者と共に暮らした里子の子どもたち

 先述したように、筆者自身は両親が里親であり、里親の実の子どもである。すべての里親家庭に実子がいるわけではないので「里親の実子」は、日本では里親や里子よりももっと珍しい存在だ。これまでも多くの方に「里親って、子どもがいない人しかしていないと思っていた」と言われたことがある。

 筆者は小学1年生の時から、血のつながらない里子の子どもたちと共に生活を始めた。30年ほど前は、今よりまだ里親についての認知度も関心も低く、急に子どもが増えた私たちの家族を好奇な目で見る人も少なくなかった。また、姉と二人姉妹だったこともあり「跡取り(=男の子)がいないから子どもを預かっているのではないか」と言われたこともあった。

 我が家に来る子どもたちの委託理由は、両親が行方不明である、母親が入院している、虐待を受けて保護された、など様々だ。年齢も2歳から16歳までと幅広い。また、養育の途中で実親の元へ帰った子どもも何人もおり、18歳になって我が家から自立した子どもは、委託され既に成人した子どものうち5人ほどである。

 このような様々な背景のある子どもたちとの生活は、賑やかすぎることも往々にしてあり、思春期には一人になりたいと思ったこともあったし、里子との関係に悩んだこともあった。そのような自分の悩みや疑問を友人や周りの大人に相談したこともあった。しかし、里親家庭について知らない人に話したとしても「それは大変だね」「お母さんとお父さんは偉いわね」と返されて終わってしまうことが多く、自分の気持ちを理解してもらったと感じた子ども時代の記憶はほとんどない。

 そのような経験をした私が、今も里親と関わりながら二冊の本を書くことになったのは、これまで自分が関わってきた子どもたちについて、里親家庭で生活する子どもたちについて、より多くの方に知ってもらいたかったからだ。

 里親家庭に委託される子どもに対して、多くの人は「可哀想」などといったネガティブなイメージを抱くことが多いだろう。もちろん、実親と共に幸せな生活を送ることが一番の幸せだとは思うが、里親家庭で生活することは決して「可哀想なこと」ではない。たとえそれが可哀想に見えることであっても、それを決めるのはその子ども自身であり、周囲が決めることではない。可哀想な眼差しを向けられること自体が、子どもたちにとっての不幸につながることもある。

 委託された子どもたちと一緒に暮らしていた私は、彼ら彼女らが我が家に委託されたことを可哀想だと感じたことはない。母や父の手料理を美味しいといって頬張る姿や、委託された当初より笑顔が増えて成長する姿を間近で見ていて「うちに来てよかった」と思ったことが何度もあった。

 しかしその一方で里子が、実の親と共に生活している子どもたちとは異なる、特有の悩みを抱えることがあるのも事実である。

 『里親家庭で生活するあなたへ―里子と実子のためのQ&A』は、そのような里親家庭で生活する子どもたち―里親家庭に委託された子ども(里子さん)、里親家庭で里親の実子として生活している子ども(実子さん)、里親家庭に委託され養子縁組した子ども(養子さん)に向けて書いた。

■ 里親の元で暮らす子どもは何を思っているのか? 

 例えば「里子さん」向けのQ&Aでは、「里親さんのことを何と呼べばいいですか?」「友達に里親家庭だと知られたくないです。どうすればいいですか?」「自分の実親のことを知りたい場合はどうすればいいですか?」など、率直な子どもの気持ちを取り上げた。

 また、委託された里子だけではなく、共に生活する実子の疑問にも答えている。「実子さん」向けのQ&Aでは、「里子から秘密を打ち明けられました。親に言った方がいいですか?」「学校の友達などに里親についてどのように説明すればいいですか?」「里子が実親の元に帰ることになりました。とても寂しいし辛いです。もう会うことはできませんか?」などである。

 これらの問いは、筆者が育ってきた過程で感じた疑問や大学院時代に多くの実子さんたちにインタビューした際に聞いた言葉、そして一緒に育った子どもたちの声を取り上げたものである。それから本書は題名の通り、子どもたちに向けた本ではあるが、Q&Aの中では里親や里親家庭の支援者、教育関係者、地域の大人の理解にもつながるように大人の視点からも書いた。

 里親制度は子どものための福祉制度であり、大人のためのものではない。それにも関わらず、これまで子どもたちの声を十分に聴くことがなく、子どもに対して里親制度を説明するものもほとんどなかった。制度から当事者である子どもが置き去りにされてきた側面がある。その当事者には委託された子どもたちだけではなく、同じ子どもとして里親家庭で生活する実子や、養子縁組された養子も含まれることも、忘れてはならないだろう。

 「家族の多様化」といわれて久しいが、その言葉の中には様々な視点が含まれる。そこには、再婚家庭の増加によるステップファミリー、血のつながらない子どもを育てる養子縁組や里親家庭、ひとり親家庭なども挙げられるが、家族の介護を担っている子ども(ヤングケアラー)、貧困や虐待、DV(家庭内暴力)、引きこもりを周囲に知られていない家庭など、普段見えにくく気が付きにくいところに多様性があるのだと感じている。

 この社会からいじめや差別、虐待等がなくなり、すべての子どもたちが実親の元で幸せに育つことが筆者の願いではあるが、養子縁組や里親の制度がなくなることはないだろう。養子縁組や里親家庭が、人にあえて説明しなければならないような特殊な家庭ではなく、周囲の人々から自然に受け入れられる社会を作りたいと心から願っている。


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