日本一売れてる絵本『いないいないばあ』赤ちゃんが笑う驚きの理由


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筆者の息子が赤ちゃんだった頃、一度泣きだしたらなかなか泣き止まず、よく頭を抱えたものでした。そんな息子のギャン泣きを止めるのに効果抜群だったのが絵本『いないいないばあ』。

 50年以上も読み継がれ、これまでたくさんの赤ちゃんを笑顔してきた『いないいないばあ』には、いったいどんな秘密が隠されているのでしょうか。

日本で1番売れている絵本『いないいないばあ』
 世代を超えて読みつがれ、2020年11月24日付の重版で339刷、累計出版部数700万部を突破した『いないいないばあ』。そんな日本で1番売れている絵本(トーハン「ミリオンぶっく 2020」調べ)は、紙芝居の出版社として創立された童心社から1967年に発売されました。

「赤ちゃんに精神が芽生えはじめたこの時期に、(中略)美しい日本語を伝えたいし、よい絵本で育てたい」。そう考えていた絵本作家の松谷みよ子氏は、2人目の子どもを授かったとき、赤ちゃん絵本を作ろうと決心。その松谷氏に「0歳からの絵本をつくりたいの。0歳からの文学があると思うの」と依頼したのが、童心社の初代編集長だった稲庭桂子氏でした。

 私生活では母親でもあった松谷氏と稲庭氏の思いが一致し、制作を開始。画家の瀬川康男氏、当時絵本を手がけることは珍しかったブックデザイナー・辻村益朗氏とともに試行錯誤を重ね、日本初の本格的な赤ちゃん絵本『いないいないばあ』が誕生したのです。

読者から「赤ちゃんが本当に笑う」の声多数
 1967年の発売当初より、「赤ちゃんがほんとうに笑うんです」との声が多数寄せられているという『いないいないばあ』。これを読めば、赤ちゃんも大人も笑顔になり、親子の信頼を深めるきっかけになる……こうした読者の体験が口コミとなって広がり、支持され続けてきました。発売から半世紀以上が経った今でもなお、“赤ちゃんがはじめて出会う一冊”と言われるゆえんですね。

 家庭や保育の場などさまざまなシーンで赤ちゃんに笑顔を届けてきた『いないいないばあ』。これまで、たくさんの赤ちゃんを笑顔にさせてきた秘密はいったい何なのでしょうか?

 乳幼児期の脳と心の発達が専門の京都大学大学院教育学研究科・明和政子教授に教えてもらいました(以下、明和教授の解説)。

笑顔は“予測”から?赤ちゃんを魅了する展開
 誰もが知っている遊びを絵本にした『いないいないばあ』。非常にシンプルなつくりの本ですが、赤ちゃんが笑う理由には赤ちゃんの脳の発達、特に “予測する能力”の発達が深く関わっています。

 生後9か月くらいになると、いわゆる「人見知り期」に入りますが、これは予測する能力が発達してきた証拠。すると、いつも聞いているママやパパの声で「ばあ」と呼びかけてもらいながらページをめくっていくうちに、赤ちゃんは「次に何が起こるか」を脳内で予測するようになります。そしてその予測のとおりになると、不安から安心へと気持ちが変化し、赤ちゃんが笑うのです。

 言い換えると、予測できない場面に直面すると、赤ちゃんは人見知りや場所見知りを示します。見知らぬ誰かが、 “いないいないばあ”をやっても、赤ちゃんは最初は笑わないでしょう。なぜならこの時期の赤ちゃんにとって、知らない人からの働きかけは予測が難しいからです。しかし、知らない人と『いないいないばあ』を読んで、その経験を積み重ねていくことで、その人の声や表情が絵本と結びついて記憶されていきます。

赤ちゃんを惹きつけるシンプルな構成
 この絵本の特徴のひとつに、白目と黒目のコントラストがはっきりしていることがあります。

 生まれたばかりの赤ちゃんでも、白目と黒目のコントラストに反射的に注意を向けることが知られています。赤ちゃんは「ばあ」のページで、とくに目に注意を向けているはずです。

 また日常生活の中に溶け込むようなやわらかく温かいタッチ、色刺激が強すぎない日常場面で目にする質感に近い色彩で描かれていることも、赤ちゃんが顔に注意を向けやすい一因になっていると思います。

 一方で、全体的にはやわらかく温かい質感・色彩で描かれていて、強い刺激となるような色が使われていません。また、動物キャラクターの背景が白く設定されているため、赤ちゃんがキャラクターの顔や目に注意が向けやすくなっています。

 さらに、眼球運動が十分に発達していない赤ちゃんため、絵の配置にも工夫が凝らされています。この本では「いないいない……」と「ばあ」のページで、絵の配置が左右に入れ替わっています。赤ちゃんが動物を見ながらめくられるページを追いかけていくと、そのまま次ページの動物へと視点が移動するのです。目を大きく移動させなくてもすむので、注意力が長く続きます。

育児に不安を感じたら、この絵本をそのまま読んでみて
 核家族化が進んだ現代社会。「孤育て」という言葉もあるように、孤立した状態で育児に陥っている親も多く、子どもにどう接したらいいかわからないという悩み・不安が大きくなっていると思います。

 そんな方は、まず『いないいないばあ』をそのまま読んでみてほしいです。そのやりとりをお子さんと共有することで、親子ともに笑顔が出てくることでしょう。

 なぜなら、この本には赤ちゃんに語りかけるような言葉が散りばめられているから。著者の松谷先生はご自身の育児経験にもとづいて、この本の言葉を選ばれたのだと思いますが、赤ちゃんに語りかけるような言葉になっています。自身が子どもに投げかけた言葉、それによって子どもが笑顔になったときの喜び……そんな経験がこの本に反映されているのだと感じます。

幼少期の「読み聞かせ」はなぜ大切なのか?
 親は読み聞かせと同時に、赤ちゃんの手を触ってあげたり、ぎゅっと抱きしめてあげたりと、スキンシップをしています。ヒトを含むほ乳類動物は、スキンシップによって「心地よい感覚」をわきたたせる身体の仕組みをもっています。これは身体を優しく接触させることで、“オキシトシン”という内分泌ホルモンが脳内から分泌されるからです。

 脳がもっとも発達する乳児期に、親と身体を接触する機会を豊かにもつこと。これが、人とのコミュニケーションに心地よさを感じる経験になり、将来、親以外の他者と安定した対人関係を築くための土台となります。

コロナ禍の今だからこそ、絵本を読みあう時間を
 昨今の新型コロナウイルスの影響によって変化する日常が赤ちゃんの脳と心の発達にもたらしうるリスクについても危機感を持っています。ヒトは顔らしい刺激に特化して活動する神経細胞をもっていますが、それを働かせるには、日常場面で多様に「動く」顔(喜怒哀楽といった表情)をたくさん見る経験が不可欠です。

 豊かな表情で声かけを行いながら、絵本を読む中で 積極的にコミュニケーションをはかってもらいたいです。マスク着用で口の動きが覆い隠されることが当たり前となりつつある今だからこそ、赤ちゃんにとってそうした機会が重要となるでしょう。
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