ベビーシッター、認可外保育、産後ケア…子育て支援は非課税でより使いやすく〈dot.〉


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社会保険労務士の小泉正典さんが「今後いかにして、自分や家族を守っていけばいいのか」、主に社会保障の面から知っておくべき重要なお金の話をわかりやすくお伝えする連載の第20回。

 今回は、最近話題となった児童手当の特例給付の廃止と、子育てをする中で見落としてはいけない、支援措置、特例措置などを紹介します。


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 この連載の第16回で、児童手当の支給に制限を設ける方向で政府が制度の改正を進めていると説明しましたが、それが2月2日に児童手当法改正案として閣議決定されました。
 
 今回、話題を集めたのは高額所得者に対しては児童手当の対象外とする内容です。ここで少し児童手当の基本的なことを説明しておきたいと思います。

■親の所得によって児童手当が支給対象外に

 児童手当は、子どもが生まれてから中学卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)、その子を育てている人に支給される社会保障で、子どもが複数の場合も人数分が支給されます。支給額は以下のようになります。

【現状の児童手当の支給額】※すべて月額
子どもが3歳未満             1万5000円
3歳以上~小学生             1万円(第3子以降は1万5000円)
中学生                      1万円
〇特例給付                  5000円

 今回話題となっているのが最後の「特例給付」で、これは受給者の所得が下の表のような所得制限額以上の場合に支給されます。

【児童手当の所得制限】
扶養親族数          限度額(所得)
0人                      622万円
1人                      660万円
2人                      698万円
3人                      736万円  など

 この所得制限は、子どもを育てている父親か母親の「どちらか所得の多いほう1人の額」です。「世帯収入」ではありません。

今回の改正では、受給者が「年収1200万円以上」の場合、特例として給付されていた5000円が廃止という内容になっています。これがテレビのニュースなどでも繰り返し報道され、子育て世代を中心にネットでも話題となり、多数のコメントが寄せられ波紋が大きく広がっている様子が見られました。
 
 政府は、この改正案を今国会での成立を目指し、成立すれば22年10月支給分から、給付対象から外れます。政府としては、これで確保した財源を待機児童解消に向けて、保育所などの拡張に充てる方針と発表しています。

 確かに今回、受給者が1200万円以上の高額所得者が児童手当廃止ということで対象世帯は制限されますが、今後この制限が「世帯収入」になったり、制限額を引き下げたりする可能性もあります。子育て世代の親は、これからの動向をよく見ておく必要があります。

■助成金によってベビーシッターの利用料が、1時間で150円に

 ただ、国や自治体は急務となった少子化対策・女性活躍推進策として、少しずつ制度を新たに設けたり、制度自体を改正・拡充したりしています。それらを見落とさないよう、いくつかを紹介しておきます。子育て世代はもちろん、この先、子どもを望んでいる人は一読しておいてください。

 東京都内の12区7市では「ベビーシッター利用支援事業」が実施されています。これは東京都がすすめている待機児童問題解消のための事業で、育児休業明けや待機児童となった0~2歳の子どもがいる家庭を対象に、1 時間わずか150 円でベビーシッターを利用できる制度です。利用時間は1日8時間・月160時間まで、もしくは1日11時間・月220時間までとなっています。

 これは就業時間に制限が大きい、また就職・復職したいのに保育園が決まらない親に向けたもので、実際の利用料との差額は東京都、市区町村がベビーシッター事業者に支払います。1カ月では最大、26万4000円まで利用可能となっています。
※保育所等への入所申し込みを継続的に行っていることなどが利用条件です。

■ベビーシッター、認可外保育……助成されたのに、その金額に税金が

 小さい子どもを持つ親にはありがたい制度ですが、一つ利用上の大きな問題があります。支払われる助成金が、利用者の「所得」となってしまうことです。

 例えば、ベビーシッターを4~12月に1カ月の平均で50時間利用した場合、受け取る助成金は101万2500円になり、これに課税されます。年収500万円の人の場合では、この助成金が所得とみなされ、税法上は年収約601万円となり、新たに約21万円の税金を納める必要があるのです。
※東京都による「モデルケース税額表」から。税額は利用者の扶養など条件により異なります。

 各種子育て助成や一人親のための「寡婦・寡夫(かふ)控除」を受けている人なら、これを収入に組み込まれると所得制限以上となって、さらに負担が増す可能性もあります。
 
 しかし所得に加えられていた101万2500円(上記の例の場合)が、政府の打ち出した2021年税制改正で「非課税」対象とされました。納税の必要がないので、この助成金について税務署での確定申告も不要となります。非課税となるのは、「認可外」の保育施設の費用に対する助成金も同様です。

 現在、3~5歳の子どもを対象となる幼稚園や認定こども園などに通わせている場合は、原則無償となっていますが、認可外保育施設の場合は助成金の対象となっています(原則、月額3万7000円まで無償)。これも税制改正により非課税対象とされました。

 この他、各自治体で子育てに対する補助金や助成金を出している場合もありますので、確認してみると良いでしょう。また、企業によっては「内閣府ベビーシッター割引券」を導入(企業主導型ベビーシッター利用者支援事業)してる場合があります。

 これは従業員がベビーシッター利用をした際に、企業が一定額を負担し、割引券1枚当たり2200円の割引が受けられるというものです。割引券は、1日(回)対象児童1人につき1枚、1カ月に1家庭24枚まで使うことができます。

■「産後ケア」利用料も非課税、子育て関連の贈与税への特別措置も延長

 さらに「産後ケア事業」についても、税制改正が図られています。産後ケア事業とは、出産後1年未満の母親と乳児を対象に、保健師や助産師らが保健指導や育児相談などに応じるものです。

「育児について家族などの手助けが少ない」「産後から体調がすぐれない」「はじめての子育てで不安」など悩みを抱える親に向けたもので、病院や助産院などが運営する「産後ケアセンター」に宿泊するタイプや日帰り型、保健師が自宅訪問する形式などがあります。

 母体ケア(母体の健康状態のチェックなど)、乳児ケア(乳児の健康状態、体重のチェックなど)から、授乳の指導やカウンセリングなどを受けることができます。現在は利用料に10%の消費税がかかっていますが、21年4月以降は非課税になります。  

 ここまで説明した以外にも、子育て世代の負担軽減を目的として祖父母などからの教育資金の援助に、1500万円を上限として贈与税がかからないようにする特例措置や、結婚・出産・育児などにかかるお金を祖父母などから援助してもらう場合は、1000万円を上限として贈与税を非課税とする特例措置を2年延長するなどが、税制改正には含まれています。

 菅内閣は、発足当初から不妊治療の保険適用など少子化対策を打ち出しています。少子化は将来の生産力の低下に直結するだけに、国としてはこれからも対策を続けていくはずです。子どもがいる、望んでいる人はしっかり制度の変更などをチェックしてください。

 次回も引き続き生活を安定させるための社会保障の基礎知識について解説したいと思います。

(構成・橋本明)

※本連載シリーズは、手続き内容をわかりやすくお伝えするため、ポイントを絞り編集しています。一部説明を簡略化している点についてはご了承ください。また、2021年2月10日時点での内容となっています。
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